由々ゆゆ)” の例文
「ふーム。そいつは相当な男だとみえる。しからばこちらからも、由々ゆゆしい大物を大将として、討伐に向わせねばならんが……」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この官吏侮辱の罪は理蕃上由々ゆゆしい問題である。直ちに上司に報告して適当の処置をとらなければならない筈のものである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
と互の誓詞せいしいつはりはあらざりけるを、帰りて母君にふことありしに、いといたう驚かれて、こは由々ゆゆしき家の大事ぞや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
迫り来る地球人類の危機を如何にして防衛すべきかという問題の答案が、又もやこれから十何年も遅れることになる。それは思っても由々ゆゆしきことだ。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかるに自分をよく知るものが、自分を見捨てることがあるなら、これぞ実に由々ゆゆしき大事といわねばならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ことに日本のごとき一種不可思議なる戦争哲学を持っている強国に対して、アメリカ人全体がそういう軽蔑感を持ってしまっては、由々ゆゆしい大事であります。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これに就ては何かわたくしの身の上に取って由々ゆゆしい手応えが向って来るものとは覚悟をきわめていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
船客に対して最も重き責任をになうべき事務長にかかる不埒ふらちの挙動ありしは、事務長一個の失態のみならず、その汽船会社の体面にも影響する由々ゆゆしき大事なり。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けれどもたとえ、小銃の弾丸一発といえども、在るべからざるところに在り、発すべからざるところに発したのは、どうしても由々ゆゆしき出来事といわねばならぬ。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしこうして朝鮮の影が薄らいでしまっては由々ゆゆしきことではないか。想うに二つの道からこの傾きを取戻すことが出来よう。一つは朝鮮の人たちの自覚である。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ところが、それの舞台を、社会から、万寿丸にまで縮めると、問題が由々ゆゆしく大きくなるのだった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
その餌に釣られてこの尊い国をロシアのために撃滅されるという事は由々ゆゆしき大事である
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
篝火かがりびさかんに燃えたたせ、軍奉行いくさぶぎょうの斎藤太郎左衛門、同じく隅田弾正少弼しょうひつ床几しょうぎを立てての検分のありさま、あまりに由々ゆゆしく存じましたれば、雑兵をとらえ訊しましたるところ
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
当時召し使い給いし黒奴をことごとからめ取って獄舎に投じ、一々拷問にかけ給いけれども、もとより身に覚えなき者共の事とて白状する者一人もなく、つい由々ゆゆしき疑獄の姿とぞなりにける。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
肉を刻んで多々良君の膳にのぼすような無分別をやられては由々ゆゆしき大事である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれかの一方が由々ゆゆしき倫理的制裁を受けずにはまないでしょう。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
女魔と申すものはとかく美しきもの、御寵愛はさることながら、それゆえにお上ほどの御明君が、正邪のお目違い遊ばされたとあっては由々ゆゆしき大事、只々御明察のほど願わしゅうござります……
それ故に露西亜人の眼から見て野蛮国たる日本に露西亜が負けたのは英人がブアに負けたのと同様、ただに露西亜一国の不名誉ばかりじゃない、世界の文明国の前途のための由々ゆゆしき一大事である。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
この一瞬は、それほど由々ゆゆしき一瞬であり、彼女はために策の施しようがないのだ。平生へいぜい用いるおどしの手真似てまねさえ、赤い切先きっさきのように鋭く燃えるあの眼つきにっては、もう役に立ちそうもない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
茶店の女房の顔には、なんか知ら由々ゆゆしいものがあったのです。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
……とすれば、これは幕府にとって、この上もない反逆だ、家康公のお孫と生まれた老公が、宗家そうけ徳川には由々ゆゆしい異端者といえるのだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女興行師のお角の残して行ったものは、田山白雲にとっては由々ゆゆしき謎でありました。しかも本人が、謎とも、問題ともせずして、投げつけて行ったところが奇妙です。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
過ぐる十日というもの一度も見舞う事をせずにいて、今さらその由々ゆゆしげな顔つきはなんだ。そう倉地にでも岡にでもいってやりたいほど葉子の心はとげとげしくなっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「第一あの覆面がよろしくない。本庁ほんちょうの部下の間には猛烈な不平があります。このままあの覆面を許しておくということになると、統制上とうせいじょう由々ゆゆしき一大事が起るかもしれません」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ともかく今の瓦は面白味の全くないものです。こんな質と形との瓦でどんなに屋根を葺いても、もう美しい構造は現れては来ないのです。これは日本の建築にとって由々ゆゆしき損失だと思われます。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
取着とつき土塀どべい由々ゆゆしく構へて、かどには電燈を掲げたるかたにぞりける。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これは彼自身に関することであった。由々ゆゆしい大事であった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「それでも銃砲火薬類の取締上、由々ゆゆしき問題ではないか」
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
由々ゆゆしき一大事である。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いずれにせよ、用捨すな。かくもうたら断罪に処するぞ。またよい落武者討ち取って、首をしるしに持参なせば、それも由々ゆゆしい汝らの出世となろう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ですから風車のことは暫くき、いま、自分がこうして現に立っているところの地点が、日本の歴史と地理の上に、由々ゆゆしい時代を劃した地点であるというようなことには
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つまり学問の力で外国に負けるぞ。まことに由々ゆゆしき一大事いちだいじではないか。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これは日本文化にとって由々ゆゆしき問題ではないでしょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
とにかく、由々ゆゆしい物を手に入れたように、それをふところに捻じこむと、釘勘は表の帳場へ降りて来て、主人あるじや番頭へ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
由々ゆゆしい破滅と、各〻の一致を求めらるる旨において、昨夜からのご評議はひらかれておるものとそれがしは信じる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、そち達に頼まれいでも、大公儀にとって由々ゆゆしい問題じゃ。必ずこの上ともに、輝高をうしろだてと思うがよい。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
範宴はんえんは今や由々ゆゆしい問題の人となっているのである。囂々ごうごうとして社会は兄を論難し、嘲殺し、排撃しつつあるのだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは、直ちに、中央に早打ちされ、朝廷、摂関せっかん家でも、由々ゆゆしき事とし、問罪の軍を、さし向けられようとした。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が、備前一国をあげて、毛利家を去り、織田家へ就いたということは、これは由々ゆゆしい戦局の変化であり、織田家にとっては画期的かっきてきな好転といっていい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「彼こそ将来怖るべき英雄です。今のうちに除いておかなければ、ゆく末、あなたにとっても、由々ゆゆしい邪魔者となりはしませんか」と、暗に殺意をそそった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし今の女が花世と別人であるとすれば、これは、こんどの事件の上に、由々ゆゆしい問題でなければならない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御身おみのために申せば粗忽そこつにこの中国へ懸り給わば由々ゆゆしき大事を引き起し候わんと、案じるのでござる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここをお越えなされるごとに、行列がお立派になる。御人数も、由々ゆゆしいばかりえてゆく」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オー、これは大変な相談をしているわえ。もし吾々が、気づかずにいようものなら、お家の破滅を招く由々ゆゆしい大事となったかもしれない……」顔の蜘蛛くもの巣をけながら
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし、佐々木兄弟の行動から、今朝の勢ぞろいの事でもぎ知ったら、これは由々ゆゆしい手ちがいになる。即刻、六波羅に早打ちが飛んでいるものと考えておかなければならない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はっ、宋憲はこれに」とかけ寄ると、曹操は何を見たか、いとも由々ゆゆしく命じた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや清盛としては、父君がすでにご他界だけに、なおさら、あなたのお頼みとあれば、たとえさかさまごとでも、いて上げたいつもりでいますが、義朝の子の処分などは、由々ゆゆしい問題です。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追えば追うほど、由々ゆゆしい大物でもかるような騒ぎを伝えた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは、旅川周馬にとって、まことに、由々ゆゆしい脅威きょういである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お体に怪我けがでもなければよいが、気の立っている武者たちに連れられて、御本陣まで曳かれて行ったとすれば、何しても、由々ゆゆしい御心配。……この上は、南宗寺の和尚のお力にでもすがってみるほかは、よい思案もあるまいが」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)