田舎家いなかや)” の例文
旧字:田舍家
高いところへ昇って見渡すと、遠い村落に烟りのあがるのが見えたので、急いでそこへたずねて行くと、一軒の田舎家いなかやが見いだされました。
あのリモオジュの田舎家いなかやの壁に掛っていたマリアの図に見つけるほどの聖母らしい面影にも欠けていたことを思い出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
地形の波面なみづら、木立、田舎家いなかやなどをたくみにたてにとりて、四方よもより攻め寄するさま、めずらしき壮観ものみなりければ、近郷の民ここにかしこに群れをなし
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
永年住み古した田舎家いなかやの中に、たった一人取り残されそうな母をえがき出す父の想像はもとよりさびしいに違いなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熔岩ようがんが海中へ流れ込んだ跡も通って行った。シャボテンやみかんのような木も見られた。粗末な泥土塗どろつちぬりの田舎家いなかやもイタリアと思えばおもしろかった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし夏の間は行きません。——こんな風にして、私たちはこの田舎家いなかやで、思う存分幸福に暮していたんです。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
天井の高い、ガランとした田舎家いなかやの、大きな炉のはたに、寂然じゃくねんとして座を占めているのが弁信法師であります。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と笑って、一つ一つ、山、森、岩の形をあらわす頃から、音もせず、霧雨になって、遠近おちこちに、まばらな田舎家いなかやの軒とともに煙りつつ、仙台に着いた時分に雨はあがった。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よその民族の田舎家いなかやとくらべても、または素人しろうと仮小屋かりごやなどとくらべて見てもすぐにわかるが、日本の萱葺きには、たいへんな手のかかった見ごとなものがすくなくない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大「外面そとから見ますと田舎家いなかやのようで、中は木口を選んで、なか/\好事こうずに出来て居ります」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
田舎家いなかやみたいに、前庭の広い南向きに、母屋おもや、書院、小者部屋こものべや納戸なんど、玄関と、こう九間ばかりの古いむねが、曲尺形かねじゃくなりに建っていて、西のすみに、車井戸と馬のいないうまやとがある。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして上流の左の岸に上市かみいちの町が、うしろに山を背負い、前に水をひかえたひとすじみちの街道かいどうに、屋根の低い、まだらに白壁しらかべ点綴てんてつする素朴そぼく田舎家いなかやの集団を成しているのが見える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まるで地酒じざけを作る田舎家いなかやについている形ばかりの門と選ぶところがなかった。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ハムレット太子たいしの故郷、ヘルジンギヨオルから、スウェエデンの海岸まで、さっぱりした、住心地すみごこちさそうな田舎家いなかやが、帯のように続いていて、それが田畑の緑にうずもれて、夢を見るように
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
古びた田舎家いなかや間内まうちが薄ぐらくなって、話す人の浴衣ゆかたばかり白く見える。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
息子むすこ住む田舎家いなかやに来て春惜む
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
岸本は牧野と一緒に入口の石階いしだんを上って田舎家いなかやらしい楼梯はしごだんてすりに添いながら二階の方へ行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は急に父がいなくなって母一人が取り残された時の、古い広い田舎家いなかやを想像して見た。このいえから父一人を引き去ったあとは、そのままで立ち行くだろうか。兄はどうするだろうか。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
向うは往来おうらい三叉みつまたになっておりまして、かたえは新利根しんとね大利根おおとねながれにて、おりしも空はどんよりと雨もよう、かすかに見ゆる田舎家いなかや盆灯籠ぼんどうろうの火もはや消えなんとし、往来ゆきゝ途絶とだえて物凄ものすご
地形の波面なみづら木立こだち田舎家いなかやなどをたくみたてに取りて、四方よもより攻寄せめよするさま、めづらしき壮観みものなりければ、近郷きんごうの民ここにかしこにむれをなし、中にまじりたる少女おとめらが黒天鵝絨ビロード胸当ミーデル晴れがましう
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
平和な田舎家いなかやの庭に不意に旋風つむじかぜが捲いて起りました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どこか大きな田舎家いなかやの客間にいるような気持だった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは明治天皇めいじてんのうのご病気の報知であった。新聞紙ですぐ日本中へ知れ渡ったこの事件は、一軒の田舎家いなかやのうちに多少の曲折を経てようやくまとまろうとした私の卒業祝いを、ちりのごとくに吹き払った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
羅馬ローマ田舎家いなかやでも写したのでしょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)