みだり)” の例文
「もう荷物が出来たから、車が来るまで用はない。君はみだりに人の事を言ふ人ではないから、僕もこれからは注意する事にしよう。」
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おもしろきさまの巌よと心留まりて、ふりかえり見れば、すぐそのかたえの山の根に、格子しつらい鎖さし固め、みだりに人の入るを許さずと記したるあり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夢に蒋侯しょうこう、その伝教さんだいふを遣わして使者の趣をもうさす。曰く、不束ふつつかなる女ども、みだり卿等けいらの栄顧を被る、真に不思議なる御縁の段、祝着に存ずるものなり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一 みこかんなぎなどの事に迷て神仏を汚し近付ちかづきみだりいのるべからず。只人間の勤をよくする時は祷らず迚も神仏は守り給ふべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
建築はもとより人工のものなれば風土気候の如何いかんによらず亜細亜アジヤ土上どじょう欧羅巴ヨウロッパの塔をたつるも容易であるが、天然の植物に至っては人意のままにみだりにこれを移し植えることは出来ない。
あはれ此程このほどまでは殿上てんじやうまじはりをだに嫌はれし人の子、家のやから、今は紫緋紋綾しひもんりよう禁色きんじきみだりにして、をさ/\傍若無人の振舞ふるまひあるを見ても、眉をひそむる人だに絶えてなく、夫れさへあるに衣袍いはう紋色もんしよく
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
臣はもと布衣ほい、みずから南陽に耕し、いやしくも性命を乱世に全うし、聞達ぶんたつを諸侯に求めざりしに、先帝臣の卑鄙ひひなるを以てせず、みだりにおんみずから枉屈おうくつして、三たび臣を草廬にかえりみたまい
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みだりに勅命抔と申触まうしふらし在々農民を党類に引入候類も有之哉これあるやに相聞き、今般御上洛被仰出折柄難捨置おほせいださるるをりからすておきがたく、依之已来いらい御料私領村々申合せ置き、帯刀いたし居候とも、浪人ていにて恠敷あやしく見受候分は無用捨ようしやなく召捕り
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相續さうぞくするはずなれば首尾しゆびよく右等の事の相濟あひすみし上は呼迎よびむかへて妾となすべし夫迄それまでは其方の了簡れうけんにて深くつゝしみだり口外こうぐわい致すべからずしかしつきにも相成あひなる上は奉公ほうこうも太儀なるべし其方は病氣びやうき披露ひろうし一先宿へさがり母のもとにて予が出世しゆつせ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
君をみだりにおろしまつりしこともあれど
此貼札に更に紙片を貼り附けて、「右三日之間令掲示けいじせしめ候間、みだりに取除候者あらば斬捨可申きりすてまうすべく候事」と書いてあつた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一 下部しもべあまた召使めしつかうともよろずの事自から辛労を忍て勤ること女の作法也。舅姑の為に衣を縫ひ食を調へ、夫に仕て衣を畳みしきものを掃き、子を育てけがれを洗ひ、常に家の内に居てみだりに外へいづべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ときに、ことなりけり。三人さんにんおなじくゆめむ、ゆめ蒋侯しやうこう伝教さんだいふつかはして使者ししやおもむきまをさす。いはく、不束ふつゝかなるをんなども、みだり卿等けいら栄顧えいこかふむる、まこと不思議ふしぎなる御縁ごえんだん祝着しうちやくぞんずるものなり
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みだりに鷺を殺したからだ。ところが
われもとより善詩人は即好判者なりといふものならねど、自ら經營の難きを知るものは、みだり杓子定規しやくしぢやうぎうち振りて、枘鑿ぜいさくその形をことにして、相容あひいれざるやうなる言をばいかゞ出さむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
巫覡などの事に迷いて神仏を汚しみだりに祈る可らずとは我輩も同感なり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)