ねぎら)” の例文
三日ばかりそこで休養してから、厚くねぎらってテンバを帰し、六貫目ばかりになった荷を背負ってトルボ・セーのほうへ歩きだした。
新西遊記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お秀はその男に渋茶なぞ出してしばらくねぎらっていました。その男は旅館の貸船を監督していると言いました。お秀の訊くまゝに
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
万葉巻一の夫帝の山幸をねぎらふ歌を後の皇極帝の為に、代つてもたらした——実は代作——との理会の下に、姓名なども伝つた人のある訣である。
捜査課長や中村係長の進言をれて、この大犯罪事件の終焉を祝し、並々ならぬ労苦をめた民間探偵宗像博士をねぎらう意味の小宴を催した。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何をねぎらわれているのか、彼らには自覚がなかった。故に秀吉は、銚子を下に置くと、それを歯痒はがゆがって、さとすのであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女に会って四十日間の労をねぎらって暇をってから、夫と雪子とで夕飯の卓を囲んだが、その最中に鈴木病院から電話が懸ったので立って行った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
羊三がちよつと耳にしたところでは、それは全く、今度の事件に骨を折つてくれた其の筋の人達の労をねぎらふためらしかつた。(大正12年6月「新潮」)
籠の小鳥 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「第一夜からして、あの勢いでは頼もしくはあるが、一言その労をねぎらう言葉だけでも贈ってやりたいものだな。」
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
それは多くの農夫の為に、一日の疲労つかれねぎらふやうにも、楽しい休息やすみうながすやうにも聞える。まだ野に残つて働いて居る人々は、いづれも仕事を急ぎ初めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
綱利つなとしは彼の槍術を賞しながら、この勝負があったのちは、はなはだ不興気ふきょうげな顔をしたまま、一言いちごんも彼をねぎらわなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
麦を蒔く野良の寒さを想いやって、帰って来たらこれをねぎらうべく葱汁を拵えた、という風にも解せられる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
優しくいたはりねぎらつてくれたお信さんその人に、何となく、情愛に富んだ、人間的な温いものを感じて、それに一層心を動かされ、且つ引きつけられもしたのだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
一同をおねぎらいになって、頂上から少し西に寄った草原にお腰をおろされ、二十分許りお休みになった。
「いや、ありがとう御座いました」と警部は戸浪三四郎の質問には答えないで、彼の労をねぎらった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
燕師いよ/\東昌に至るに及んで、盛庸、鉄鉉うしを宰して将士をねぎらい、義をとなえ衆を励まし、東昌の府城を背にして陣し、ひそかに火器毒弩どくどつらねて、しゅくとして敵を待ったり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不思議な記憶の花模様を全身にりつけてくると人は鬼狐きこの如くこの感覚一点に繋がれて、又昨日の魚を思ひ、ねぎらひ、たわみ、迷うて、再び河海を遊弋ゆうよくするやうになる。
魚美人 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
ねぎらいの言葉をかけながら梶原が部下を見渡すと、嫡子の源太の姿がない。郎党の一人に
子刻こゝのつ(十二時)近くまで飛び廻る子分に對してそれは平次のさゝやかなねぎらひ心でした。
はかりごとは密なるをたっとぶとはこのことだ、孔明や楠だからといって、なにもそんなに他人がましくするには及ばねえ、さあ、ならず者、これから大いに師をねぎらってやるから庭へ下りろ」
私たちの仕事の終るのを見ていた祖母は、えらい労でもねぎらうように「御苦労さん。」と云った。その一安心したようなまじめ顔を見ると、私もなにか一仕事したような気持になった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「いや、よく気がつかれた」と、忠左衛門は相手の労をねぎらうように言った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
と堀尾君はねぎらった。世話好きの間瀬君は○高会の幹事をしている。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すき焼で、ささやかなねぎらいの宴を張った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
挨拶あいさつをしながらねぎらうのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
もう行く先は眼の下に見えていますので、私たちは案内者の老人をねぎらい、私たちが徒歩で出発した箕輪の駅へ、こゝから帰してやりました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
政子は、聞いているうちから、涙があふれて——天佑に感謝する気もちと歓びにいっぱいになって——於萱の労をねぎらってやることばすら出なかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの人をねぎらうために、台所で酒の下物さかなの支度などをしていた母親と、姉はしばらく水口のところで立話をしてから、お島のところへ戻って来たのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人を戒めてもねぎらうても、其ことばつきには、おのれを叱り、我を愛しむ心とおなじ心持ちが感じられる。
子刻ここのつ(十二時)近くまで飛び廻る子分に対してそれは平次のささやかなねぎらい心でした。
用意に残りの米を与えその労をねぎらって、急ぎ足に遠ざかり行く後姿を暫く見送った。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
子供を助けてもらったことからすっかりお春に打ち込んでしまった彼女は、その労をねぎらう意味もあって、この際お春とお久とを日光見物に行かしてやりたいがどうであろう、と云う提議をした。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と社長は流石に中島さんをねぎらうことを忘れなかった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そうとも、ねぎらわなくッちゃ」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
宿のおかみさんが持出した安ビスケットや山独活の漬ものをつまんだり、コヽアを飲んだり、一人で自分の身をねぎらっています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
多くの同朋衆は、手分けして、各詰所の小部屋で、一筅いっせんをそそぎ、茶をけんじ、香をくんじて、ねぎらいをたすけていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後ろを振りむくと、青緑色の山の額や肩や腰が、深い雲霧の隙をぬすんで私達の足の疲れをねぎらつてくれる。多分それは大笹峰や蝶々深山てふてふみやま、車山、蓼科たてしな山などであつたろう。
霧ヶ峰から鷲ヶ峰へ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
労をねぎらうと共に、考えの足らぬのを憐むようである。刀自は、驚いて姫のことばき止めた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
奧の方は島五六郎と主人の千本金之丞、次の間では川前市助、お勝手では錢形平次と八五郎、若黨の丑松に隣りの伜又吉、それぞれほぐれない心持で、兎も角もねぎらひの杯を重ねたのでした。
貞之助はちょっと楽屋へ顔を出して人々に挨拶あいさつをし、妙子の労をねぎらった後で、直ぐに事務所へ引っ返したので、その時は何の話もしなかったが、その晩おそく、悦子や義妹達が寝間へ引き取ってから
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「一枚は長年の労をねぎらう為めお前にやる」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
冬ごもり時しも、旨飯を水にかもみなし客をねぎらう待酒の新酒の味はよろしかった。娘はどこからしても完璧の娘だった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼はしきりに将士へ温顔をふりいた。とりわけ池田、高山、堀、堀尾などの面々へは、いんぎんに過ぎるほど、ていねいな会釈えしゃくを与え、ねぎらいの意を示した。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日々の労苦をねぎらう音楽として、モーツァルトの作品以上のものはあり得ない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
と父親がねぎらってくれた。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから盛長に、大儀であった、休むがよいと、ねぎらって、自身は、時政やその他の将を集めて評議し始めた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父のYは旧幕の権臣の家の後嗣こうし者であつた。旧藩閥の明治の功傑たちは、新政府に従順だつた幕府方の旧権臣の家門をねぎらふ意味から、その後嗣者を官吏として取り立てた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
一昨日をとゝひの晩は、内儀の心盡しでねぎらひの酒が出て、島五六郎はほろ醉機嫌で宵のうちに指ヶ谷町の自宅に歸つたが、後には用人川前市助が殘つて、主人千本金之丞と共に、床の間に据ゑた品々を
と母親がねぎらった
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
風邪でせっておるといっておけ。——しかし、ていねいにねぎらえよ。粗相にはするな。よろしいか。西の屋の客殿に請じ、酒肴をさしあげて、よくわけを申せ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねぎらった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)