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滂沱
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ぼうだ
ふりがな文庫
“
滂沱
(
ぼうだ
)” の例文
と、今まで
毅然
(
きぜん
)
として立っていた、直也の男性的な顔が、妙にひきつッたかと思うと、彼の
赭
(
あかぐろ
)
い頬を、涙が、
滂沱
(
ぼうだ
)
として流れ落ちた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
「螢狩だ。朝顔日記宿屋の段、以来僕は『
一年
(
ひととせ
)
宇治の螢狩に、焦がれ
初
(
そ
)
めたる恋人と』というところを聴くと、涙
滂沱
(
ぼうだ
)
たるものがある」
妻の秘密筥
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
主税は、間がわるそうにして、そして、いちど拭いた眼には、
抑
(
おさ
)
えきれないもののように、また
滂沱
(
ぼうだ
)
として涙があふれかけていた。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
若さまは手をついたまま、じっと伯耆守を見上げていた、万感胸を
塞
(
ふさ
)
いで言句に詰るという態である、双眼からは
滂沱
(
ぼうだ
)
と涙があふれ落ちた。
若殿女難記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
御者は縦横に鞭を
揮
(
ふる
)
いて、激しく手綱を
掻
(
か
)
い繰れば、馬背の流汗
滂沱
(
ぼうだ
)
として
掬
(
きく
)
すべく、
轡頭
(
くつわづら
)
に
噛
(
は
)
み
出
(
い
)
だしたる
白泡
(
しろあわ
)
は
木綿
(
きわた
)
の一袋もありぬべし。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
尼は仏壇の方に向き直って、ヒタと
掌
(
たなごころ
)
を合せました。
滂沱
(
ぼうだ
)
と頬に流れるは声のない涙、——それに合せて、どこからともなくすすり泣く声が起ります。
銭形平次捕物控:069 金の鯉
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そのとき不思議な事には、あれほど
逐
(
お
)
いきれなかった蠅の
唸
(
うな
)
りがピタリと止んでしまい、その蔭から、
滂沱
(
ぼうだ
)
と現われ
来
(
きた
)
った不安が、彼女を覆い包んでしまった。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
下船のとき、ドレゴは
滂沱
(
ぼうだ
)
たる涙と共に水戸を抱いて泣いた。彼は帰りたくもあったが、しかし水戸を只ひとりで非常な危険へ追いやることの辛さ故に泣いたのであった。
地球発狂事件
(新字新仮名)
/
海野十三
、
丘丘十郎
(著)
秀吉は
滂沱
(
ぼうだ
)
たる涙の中で狂ふが如くに叫んだといふが、肚の中では大明遠征を考へてゐた。
黒田如水
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
在りし日の中尉を
偲
(
しの
)
んで涙
滂沱
(
ぼうだ
)
たる有様は、ただ我ら
万斛
(
ばんこく
)
の悲しみを誘うのみであります。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
涙管
(
るいかん
)
の関が切れて
滂沱
(
ぼうだ
)
の観を添うるがためでもない。いたずらに劇烈なるは、壮士が事もなきに剣を舞わして
床
(
ゆか
)
を
斬
(
き
)
るようなものである。浅いから動くのである。本郷座の芝居である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
吾輩の足下に大波瀾を捲き起して消え失せた友吉親子と、
無情
(
つれ
)
なく見棄てられた二人の
芸妓
(
げいしゃ
)
の事を思うと、何ともいえない悽愴たる涙が、
滂沱
(
ぼうだ
)
として
止
(
とど
)
まるところを知らなかったのだ。……
爆弾太平記
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
あるいは持ち合わせていなくっても、文章の上だけでおくめんもなく
滂沱
(
ぼうだ
)
の観を呈しえたような心もちがする。その得意になって、泣き落しているところが、はなはだ自分には感心できなかった。
樗牛の事
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
滂沱
(
ぼうだ
)
たる涙にあらはるる身は、さながら一塊の石と化したりきと伝ふ。
松浦あがた
(新字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
人生に対する悲哀と無常の意識——それはもはや
滂沱
(
ぼうだ
)
たる涙となって外に流れないけれども、深く深く心のなかに内攻し、その人の世相を眺める目はかぎりなき悲しみを内に秘めているような気持ち
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
平馬は相変らず、
滂沱
(
ぼうだ
)
たる目で、師匠を見詰めつづける。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
寧子
(
ねね
)
のことばが、余りきっぱりしていたので、老母は驚きの眼をみはり、やがて、その眼から、
滂沱
(
ぼうだ
)
として、
欣
(
うれ
)
し涙をこぼしてしまった。
新書太閤記:03 第三分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
秀吉は
滂沱
(
ぼうだ
)
たる涙の中で狂ふが如くに叫んだといふが、肚の中では大明遠征を考へてゐた。
二流の人
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
涙
滂沱
(
ぼうだ
)
として万感初めて到った呉青秀は、
長恨悲泣
(
ちょうこんひきゅう
)
遂
(
つい
)
に及ばず。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
そしてふたたび、書中の
文言
(
もんごん
)
を疑うように、
眼
(
まなこ
)
をそれへ
努
(
つと
)
めてみたが、疑うべくもない文字の上へ、はや
滂沱
(
ぼうだ
)
と涙がさきにこぼれていた。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
武松は、亡兄
武大
(
ぶだ
)
の家へもどり、武大の霊前に、男女二つの首を供えて、
滂沱
(
ぼうだ
)
とこぼれる涙も
拭
(
ぬぐ
)
わず、
位牌
(
いはい
)
へ向って言っていた。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
だから
一
(
ひと
)
たび、はなしが藤井紋太夫のことにおよぶと、思わず
鬢髪
(
びんぱつ
)
はそそけだち、悲涙は
滂沱
(
ぼうだ
)
として
止
(
とど
)
まることを知らない。憤怒の底から
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
頼朝は聞いているうちに、
滂沱
(
ぼうだ
)
と流れる涙をどうしようもなかった。主従の血はこんなにも濃いものだったかと改めて知った。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
お通には泣かなかった涙を、武蔵は
滂沱
(
ぼうだ
)
と頬にながして、わが身に、わが心に、わが修行に、万恨の無念を持つのであった。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
今、松原の
洲先
(
すさき
)
から西へゆく帆影を見まもりながら、
滂沱
(
ぼうだ
)
と流るる涙に顔をまかせ、彼女は小舟の
縁
(
へり
)
に身も世もなかった。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いつか涙の白いすじが、彼のすさまじい
求法
(
ぐほう
)
の一心を
焚
(
た
)
いている
眸
(
ひとみ
)
から溢れて、
滂沱
(
ぼうだ
)
として頬にながれ落ちるのであった。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかも、兄静山の一語一句、その
音声
(
おんじょう
)
までも、ありありと耳に残っている。われとも知らず泥舟の頬には、
滂沱
(
ぼうだ
)
たる涙が止まらなかったのである。
剣の四君子:04 高橋泥舟
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
滂沱
(
ぼうだ
)
と、ふたすじの、白いものが、官兵衛の頬にもながれたとき、少し離れて、街道を見まわしていた渡辺天蔵は
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、口にはださないが、
熱
(
あつ
)
い
思慕
(
しぼ
)
をこめて、ジイッとみつめているうちに、思いもうけぬ
邂逅
(
かいこう
)
の
情
(
じょう
)
が、ついには、
滂沱
(
ぼうだ
)
の
涙
(
なみだ
)
となって目にあふれてくる。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、若い血しおを圧し抑えて、
努
(
つと
)
めて、
慎
(
つつ
)
ましやかに云うのであったが、涙は
滂沱
(
ぼうだ
)
として、畳をぬらしていた。
日本名婦伝:小野寺十内の妻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
敢て信任を加えらるべきを
勧
(
すす
)
め
惹
(
ひ
)
いて、先帝玄徳と自分との宿縁、また
情誼
(
じょうぎ
)
とを顧みて、筆ここにいたるや、紙墨のうえに、忠涙の
痕
(
あと
)
、
滂沱
(
ぼうだ
)
たるものが見られる。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
孫権は、おののく手に、印綬をうけながら、片膝を床について、
滂沱
(
ぼうだ
)
……ただ滂沱……涙であった。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
どっちの眼にも
滂沱
(
ぼうだ
)
たるものがながれた。その涙のなかに信孝は父
亡
(
な
)
ききょうの気持をことごとくこの一家臣に語り尽していた。秀吉もその胸のうちを察すればこそであった。
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
武士達の中には
滂沱
(
ぼうだ
)
の涙を拳で払っている者、
面伏
(
おもぶ
)
せに暗涙をのんでいる者もあった。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、していた涙が、
滂沱
(
ぼうだ
)
となって、武蔵の姿すら見えなくなってしまったからである。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
涙は
滂沱
(
ぼうだ
)
と血書にこぼれ落ちた。董承は俯し拝んだまましばし面もあげ得なかった。
三国志:05 臣道の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
泣くのをなだめていた彼のほうが、
滂沱
(
ぼうだ
)
として、止まらない涙に当惑した。
三国志:03 群星の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
滂沱
(
ぼうだ
)
、また滂沱、病顔をたるるものは、孔明の
頸
(
うなじ
)
を濡らすばかりであった。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
眸
(
ひとみ
)
と眸——それはとたんに血縁のつよい情愛をたぎらせあい、
眼
(
ま
)
たたきもせず、しばらくはお互いが
呼吸
(
いき
)
さえもせずにいたが、やがて四郎高綱の眼からも、三郎盛綱の眼からも、
滂沱
(
ぼうだ
)
として
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
滂沱
(
ぼうだ
)
としてあふれ出る涙に、胸が迫って、すぐに、顔も上げ得なかった。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
滂沱
(
ぼうだ
)
たる涙とともに、手もまたふるえ
哭
(
な
)
くかのようだった。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
老先生は、
滂沱
(
ぼうだ
)
とあふれ出る涙を抑えて
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
帝は
滂沱
(
ぼうだ
)
の
御涙
(
おんなみだ
)
を頬にながして
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“滂沱”の意味
《名詞》
滂沱(ぼうだ)
雨が強く降る様。
涙がとめどなく流れる様。
(出典:Wiktionary)
滂
漢検1級
部首:⽔
13画
沱
漢検1級
部首:⽔
8画