欞子窓れんじまど)” の例文
入口の左手が一間の欞子窓れんじまどになっていて、自由に手の入るだけの荒い出格子でごうしの奥に硝子戸ガラスどが立っていて、下の方だけ硝子ガラスをはめてある。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
さまざまな物売の声と共にそのへん欞子窓れんじまどからは早や稽古けいこ唄三味線うたしゃみせんが聞え、新道しんみち路地口ろじぐちからはなまめかしい女の朝湯に出て行く町家まちやつづきの横町よこちょう
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……じゃ、もう一度、雀にえさが遣れるのね、よく馴染なじんで、欞子窓れんじまどの中まで来て、可愛いッたらないんですもの。……これまで別れるのは辛かったわ。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
部屋は三畳と六畳との二間ふたまつづきで、六畳の突き当りは型のごとく欞子窓れんじまどになっていた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕の記憶ではこの小犬とほぼ前後して細君らしい婦人がこの家に現われて、門口で張り物をしたり、格子戸こうしどの内のカナリアにえさをやったり、欞子窓れんじまどの下の草花に水をやったりしていた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
翌朝あくるあさ日覚めると明け放った欞子窓れんじまどから春といってもないほどなあったかい朝日が座敷のすみまでし込んで、牛込の高台が朝靄あさもやの中に一眸ひとめに見渡された。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
其音につれて一しお深くなったように思われた。其音は風鈴売が欞子窓れんじまどの外を通る時ともちがって、此別天地より外には決して聞かれないものであろう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すっと抜くと、てのひらに捧げて出て、そのまま、欞子窓れんじまどの障子を開けた。開ける、と中庭一面の池で、また思懸けず、船が一そう、隅田に浮いた鯨のごとく、池の中を切劃しきって浮く。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこの欞子窓れんじまどしきいに腰をかけてついこの春の初めまでいた赤城坂の家の屋根瓦やねがわらをあれかこれかと遠目に探したり、日本橋の方の人家を眺めわたしたりして
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
石菖せきしょうの水鉢を置いた欞子窓れんじまどの下には朱の溜塗ためぬりの鏡台がある。芸者がひろめをする時の手拭の包紙で腰張した壁の上には鬱金うこんの包みを着た三味線が二梃にちょうかけてある。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
くもつたそらほしもなし、眞黒まつくろ二階にかいうら欞子窓れんじまどで、——こゝにいまるやうに——唯吉たゞきちが、ぐつたりして溜息ためいきいて、大川おほかはみづさへぎる……うごかない裏家うらや背戸せどの、一本柳ひともとやなぎ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二度表から潜り戸を引っ張ってみたり、欞子窓れんじまど硝子ガラスの障子のすきから家の中を窺いてみようとしたけれど、隣家となりの女房が見ているので、押してそうすることもならず
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あるひは楽屋稲荷町いなりまちの混雑、中二階ちゅうにかい女形部屋おんながたへやてい、また欞子窓れんじまど縄暖簾なわのれんげたる怪しき入口に五井屋ごいやしるして大振袖おおふりそで駒下駄こまげた色子いろこ過ぎ行くさまを描きしは蔭間茶屋かげまぢゃやなるべきか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
婦人は二人、さっ衣紋えもんさばいて、欞子窓れんじまどの前を離れた、そこにも柱があったから。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その理由はただに男女相思の艶態に恍惚たるがためのみにあらず、人物と調和せるその背景が常に清洒せいしゃなる小家こいえ内外ないがいを描き、格子戸こうしど小庭こにわ欞子窓れんじまどよりまくら屏風びょうぶ長火鉢ながひばち箱梯子はこばしごかまど等に至るまで
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
話した発奮はずみに、あたかもこの八畳と次の長六畳との仕切が柱で、ずッと壁で、壁と壁との間が階子段はしごだん向合むかいあわせに欞子窓れんじまどのように見える、が、直ぐに隣家となりの車屋の屋根へ続いた物干。一跨ひとまたぎで出られる。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、入口のわき欞子窓れんじまどをそっと開けて、母親が顔を出した。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その家屋も格子戸こうしど欞子窓れんじまど忍返しのびがえし竹の濡縁ぬれえん船板ふないたへいなぞ、数寄すききわめしその小庭こにわと共にまたしかり。これ美術の価値以外江戸末期の浮世絵も余に取りては容易に捨つること能はざる所以ゆえんなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いま」に忍ぶの恋草こいぐさや、誰れにめとか繰返し、うたふ隣のけいこ唄、宵はまちそして恨みて暁と、聞く身につらきいもがりは、同じ待つ間の置炬燵、川風寒き欞子窓れんじまど、急ぐ足音ききつけて
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)