根本ねもと)” の例文
人力曳じんりきひきの海蔵かいぞうさんも、椿つばき根本ねもと人力車じんりきしゃをおきました。人力車じんりきしゃうしではないから、つないでおかなくってもよかったのです。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そこは白晝ながら朦朧として、丁度海の底でも見るやうに薄ぐらく、森の骨まばらな巨木が昆布のやうに根本ねもとから搖らめいてゐるのが眼に入る。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
丁度筋肉と骨の間に、煮滾つた熱湯を流し込まれるやうな感じで、ひどい時には痛む腕を根本ねもとからつてしまつたらどんなによからうと思ふ。
烙印をおされて (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
戎人己氏きしなる者の妻であつた。顏立は美しくなかつたが、髮の見事さは誠に輝くばかりである。公は侍臣に命じて此の女の髮を根本ねもとから切取らせた。
盈虚 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
このうつくしい、すみよかった場所ばしょがこんなになってしまった。このとおりあひるはしばられて明日あしたいのちがわからないし、ぶなのは、根本ねもとがされている。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、まぐさの一番上等な部分は茎の根本ねもとだからで、なお、同じ広さの刈り幅にすること、次の手を始めないうちに前の手が終らないことに気をつけている。
根本ねもとから濃く立ちのぼるうちに右にうごき左へ揺く。揺くたびに幅が広くなる。幅が広くなるうちに色が薄くなる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もやなかを、の三にんとほりすがつたときながいのとみじかいのと、野墓のばかちた塔婆たふばが二ほん根本ねもとにすがれた尾花をばなしろすがらせたまゝ、つちながら、こがらし餘波なごり
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
若い一本の樹木が根本ねもとから切り倒される時、その一つかみの木の葉はどうなるだろうか。
桜の枯木はもう根本ねもとを切られて、ぐらぐらしていました。それを、二三人の村人が、なわで引っぱりました。枯木は大きくゆらりとうごいて、それからさっと横だおしにたおれました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
丈「わたくし在所ぜえしょは葛飾の真間まゝ根本ねもとゆえ、明家あきやが有りましょうからかッしゃいまし」
素戔嗚はこう云う一言に忌々いまいましさを吐き出しながら、そこにあった一本のにれ根本ねもとに腰を下した。彼の眼の前には部落の屋根が、草山の腹にさす夕日の光の中に、やはり赤々と浮き上っていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その根本ねもと(青年の名は根本行輔かうすけと言ふので)の家柄は村では左程重きを置かれて居ないので、今でこそ村第一の富豪かねもちなどと威張つて居るが、親父の代までは人が碌々ろく/\交際もない程の貧しい身分で
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「植竹の」は竹林のことで、竹の根本ねもとから「本」への枕詞とした。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
堅き青銅更にまた根本ねもとに舌を打ち落し
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
戎人己氏きしなる者の妻であった。顔立は美しくなかったが、髪の見事さは誠に輝くばかりである。公は侍臣に命じて此の女の髪を根本ねもとから切取らせた。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
清次せいじは、ちからいっぱいにそのりました。すると、は、ふかはいっていたとみえて根本ねもとから一、二すんしたのところで、ぽきりとれてしまいました。
僕のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
村人たちはもう、枯れた木に縄をつけ、その根本ねもとを、のこぎりでひいたり、おので切ったりして、うちたおそうとしています。こーん、こーん……という斧の音が、私の胸にしみ通ります……。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
旦那が達者のうちお賤に己が死んだら食方くいかたに困るだろうから、死んでも食方の付く様にといって、実は根本ねもと聖天山しょうでんやま手水鉢ちょうずばちの根に金が埋めて有るから、それをもってと言付けて有るのだ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
孝吉こうきちは、おじいさんが、らんの根本ねもといておいたみずごけだと、すぐわかりました。りこうなすずめはやわらかなみずごけのうえたまごんで、そだてたのでありました。
すずめの巣 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから、根本ねもとへたくさんみずをかけてやりました。けれど、あとでいってみたら、いつのまにか、あたまは、ちからなくぐんなりとれて、ついているが、みんなしおれていました。
僕のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)