暖炉ストーブ)” の例文
旧字:暖爐
「——それから検事さん」と帆村は紅茶を一口すすらせてもらっていった。「あの大暖炉ストーブのなかから出てきた屍体のことは分りましたか」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ホッと息をいた彼れは直ちに衣服きものを脱ごうとして例の通り、寝床へ入る前に懐中しておるものを一々取り出してそば暖炉ストーブの上に置いた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
暖炉ストーブの中からソーッとここへ出て来て、この椅子に腰を卸しながら、君がその遺言書を読み終るのを待っていた訳なんだが……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
煙草入たばこいれにも入れてなく、ふくろにも入れてなくして、暖炉ストーブ枠の上、食器棚の上、ピアノの上とう至る所に一塊ひとかたまりづゝにして載せてある。
同胞兄弟です、僕は暖炉ストーブに燃え盛る火焔くわえんを見て、無告の坑夫等の愁訴する、怨恨ゑんこんの舌では無いかと幾度いくたびも驚ろくのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
暫時しばらく其処の暖炉ストーブにあたつて、濡れた足袋を赤くなつて燃えて居る暖炉ストーブ自暴やけこすり付けると、シユッシユッと厭な音がして、変な臭気にほひが鼻をつ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「お前さんの荷物はみんな屋根部屋の方へ片づけさせておいたから、何処かにあるだろうよ。誰か見にやりましょう。まア暖炉ストーブそばへ来ておあたりよ」
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
フランクリンはにやにや笑ひ笑ひ、隅つこの椅子を立つて暖炉ストーブそばへ往つた。そして、い気持に手足を拡げて、霊魂たましひが息を吹きかへすまで暖まつた。
私は、青い焔をあげて勢よく燃えさかっている暖炉ストーブの前へ、椅子を寄せて、うつらうつら煙草を燻らしていた。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
はゝは、ちゝが、木像もくざうどう挫折ひしをつた——それまたもろれた——のを突然いきなりあたまから暖炉ストーブ突込つゝこんだのをたが、折口をれくちくと、内臓ないざうがすつかり刻込きざみこんであつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渋谷しぶやの美術村は、昼は空虚からっぽだが、夜になるとこうやってみんな暖炉ストーブ物語を始めているようなわけだ。其処そこへ目星を打って来たとはふるっているね。考えてみれば暢気のんきな話さ。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
招じられた客間は、ふかふかした絨毯じゅうたん、大きな暖炉ストーブに、火が赤々としていた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
暖炉ストーブのやうに、木柵を飛び越えて遠くへ疾走してゆくのでありました。
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
ああ冬の夜ひとり汝がたく暖炉ストーブの静こころなき吐息おぼゆる
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼はムックリ起き上って暖炉ストーブの上へ手をかけた。と同時にッ! と叫んだ。不思議、水晶の栓は跡形もなく消えて無くなった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
自分の考えを踏み締めるように両手を背後うしろに組んで、一足一足に力を入れて、大卓子テーブルと大暖炉ストーブの間の狭いリノリウムの上を往復し初めた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
独語ひとりごとを言ひ言ひ内部なかに入つて来た。見ると暖炉ストーブ周囲まはりには、先客せんかくがどつさり寄つてたかつて火いきれに火照ほてつた真赤な顔をして、何かがやがや話してゐた。
暖炉ストーブに火を入れてイザ取敢へずと盃が廻りはじめる。不調法の自分は頻りに煙草を吹かす。話はそれからこれへと続いたが就中の大問題は僕の頭であつた。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
細長い大きな部屋の一隅にホロホロと暖炉ストーブを焚いて深いより椅子に埋まっていた老人は、私を見ると杖を挙げて
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「だって解るでしょう。お父さんには、貴女との固い約束を破って旅に出るような特殊事情があったのです。そして留守の屋内の暖炉ストーブの中に一個の焼屍体しょうしたいが残っていた」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とう/\彫像てうざうを——なんです——ちゝ暖炉ストーブべていたまでもわからなかつたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不思議の謎を解きたいのは山々だが余りに疲労してこれ以上考えるにえないので彼は問題の栓を暖炉ストーブの上に置いて、そのまま寝床へ入った。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
途中目についたのは、雪の深いことと地に達する氷柱つららのあつた事、凍れるビールを暖炉ストーブに解かし、鶏を割いての楽しき晩餐は、全く自分の心を温かにした。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一歩もこの室から出ないまま誰にも気付かれないように消え失せた……というと何だか又精神科学応用の手品じみて来るが、そんな事じゃない。種というのはこの大暖炉ストーブだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
警官の挙手の礼をうけて、室内に入った署長は、そのとき室内に、異様の風体の人間が、火の消えた暖炉ストーブの傍にすりよって、後向きでなにかしているのを発見して、ッと愕いた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あゝ、それぢや、木彫きぼり美人びじんが、ちゝのナイフに突刺つきさされて、暖炉ストーブなかかれたときまで、ちつとも秘密ひみつかさなかつた、微妙びめうのしたものは、同一おなじさいであつたかもれない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其硝子一重の外を知らぬ気に、車内は暖炉ストーブ勢ひよく燃えて、冬の旅とは思へぬ暖かさ。東泉先生は其肥大の躯を白毛布の上にドシリと下して、心安げに本を見始める。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
主筆は例の如く少し曲つた広い背を此方こつちに向けて、暖炉ストーブわきの窓際で新着の雑誌らしいものを読んで居る。「何も話して居なかつたナ。」と思ふと、野村は少し安堵した。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分は此学校の一年生の冬、百二十人の級友に唯二つあてがはれた暖炉ストーブには、力の弱いところから近づく事も出来ないで、よく此竈の前へ来て昼食のパンをかぢつた事を思出した。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)