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明星
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みやうじやう
時に、
真先に、
一朶の
桜が
靉靆として、
霞の
中に
朦朧たる
光を
放つて、
山懐に
靡くのが、
翌方の
明星見るやう、
巌陰を
出た
目に
颯と
映つた。
空は鏡のやうに
明いのでそれを
遮る
堤と
木立はます/\黒く、星は
宵の
明星の
唯た一つ見えるばかりで
其の
他は
尽く余りに
明い空の光に
掻き消され
頸すぢには月光のやうな
蒼白い光の反映があり、同じ
微かな輝きは、
淡い雲の列を染め、宵の
明星の夢幻的な姿はそこから現はれて身をかゞめてゐた。
あゝ横笛、花の如き姿
今いづこにある、
菩提樹の
蔭、
明星額を
照らす
邊、
耆闍窟の
中、
香烟肘を
繞るの前、昔の夢を
空と見て、猶ほ我ありしことを思へるや否。
物皆かげに搖めきて暗うなる間を
明星や
目の
玉、
目の
玉!
赫奕たる
此の
明星の
持主なる、(
應)の
巨魁が
出現の
機熟して、
天公其の
使者の
口を
藉りて、
豫め
引をなすものならむか。
明星、君が
節操にわれあえなむ——
然りとは
雖も、
雁金の
可懷を
射ず、
牡鹿の
可哀を
刺さず。
兜は
愛憐を
籠め、
鎧は
情懷を
抱く。
明星と、
太白星と、すなはち
其の
意氣を
照らす
時、
何事ぞ、
徒に
銃聲あり。
と
同じ
高さに
頂を
並べて、
遠近の
峯が、
東雲を
動きはじめる
霞の
上に
漾つて、
水紅色と
薄紫と
相累り、
浅黄と
紺青と
対向ふ、
幽に
中に
雪を
被いで、
明星の
余波の
如く
晃々と
輝くのがある。