早稲田わせだ)” の例文
旧字:早稻田
彼女は巣鴨すがもの方へ、私は早稲田わせだの方へ、その乗換場所までの、わずかの間を、私達は一日中の最も楽しい時間とする様になった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
代助はこう云う記事を読むと、これは大隈伯が早稲田わせだへ生徒を呼び寄せる為の方便だと解釈する。代助は新聞を放り出した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東京も、中心をはなれた都の西北早稲田わせだの森、その森からまだずっと郊外へいったところに、新井薬師あらいやくしというお寺がある。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
其は浴衣の着流きながしで駒下駄を穿いたM君であった。M君は早稲田わせだ中学の教師で、かたわら雑誌に筆を執って居る人である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
井伏さんは、所謂「早稲田わせだ界隈かいわい」をきらいだと言っていらしたのを、私は聞いている。あのにおいから脱けなければダメだ、とも言っていらした。
『井伏鱒二選集』後記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その中の一部分が飜訳後しばらくってから冷々亭主人の名で前記した早稲田わせだの機関誌の『中央学術雑誌』に掲載された。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
早稲田わせだに通う位の金を出してくれと書いてありましたげな、何かそういう計画で芳がだまされておるんではないですかな
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あの時に江戸川えどがわ大曲おおまがりの花屋へ寄って求めたのがやはりベコニアであった。紙で包んだ花鉢をだいじにぶら下げて車にも乗らず早稲田わせだまで持って行った。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
……松平さまのほうは丸山浄心寺まるやまじょうしんじのおかえり、毛利さまは早稲田わせだ馬場下ばばした願満祖師がんまんそしのおかえり、鍋島さまのほうは大塚本伝寺おおつかほんでんじのおかえりでございました
文壇の人では秋田雨雀あきたうじゃく氏が貞奴心酔党の一人で、その当時早稲田わせだの学生であった紅顔の美少年秋田は、それはそれは、熱烈至純な、貞奴讃美党であった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
……右隣りへは一面のS文学士が坐った。左隣りには三面の編輯へんしゅうにいるAという早稲田わせだ出の新進作家がいた。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
すばらしい飛躍力——あの怖ろしく弾力のある五体を急に跳ね出して、しののガサヤブへ飛びこむや否、早稲田わせだへ下るだんだん畑を、一目散に駆け出しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当主と云うのは早稲田わせだの商科出の本年四十四五歳ぐらいの男であること、彼が妻をくしたのは二三年前のことであり、その妻は某堂上華族の出であったこと
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
真赤まっかな色は驚くほど濃いが、光は弱く鈍り衰えている。自分は突然一種悲壮な感に打たれた。あの夕日の沈むところは早稲田わせだの森であろうか。本郷ほんごうの岡であろうか。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
余は漱石と二人田圃を散歩して早稲田わせだから関口の方へ往たが大方六月頃の事であつたらう、そこらの水田に植ゑられたばかりの苗がそよいで居るのは誠に善い心持であつた。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
全然?——もつとも全然かどうかは疑問かも知れない。当時の僕は彼等以外にも早稲田わせだの連中と交際してゐた。その連中もやはり清浄せいじやうなる僕に悪影響を及ぼしたことは確かである。
「仮面」の人々 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一反二反の反をソリと言うことが俚人りじんに耳遠いためにこうした読み方は起ったのであろう。『新篇武蔵国風土記稿』によれば、今日東京市となっている早稲田わせだ村の中にも字段町がある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
早稲田わせだ鴨川壽仙かもがわじゅせんという針医がある、其の医者が一本の針を眼のわきへ打つと、其処そこからのうが出て直ぐ治る、丁度今日けば施しにたゞ打ってくれる、目は一時いっときを争うから直ぐ行くが宜しい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
我邦わがくにに来遊する外国の貴紳が日本一の御馳走と称し帰国後第一の土産話みやげばなしとなすは東京牛込うしごめ早稲田わせだなる大隈伯爵家温室内の食卓にて巻頭に掲ぐるは画伯水野年方みずのとしかた氏が丹青たんせいこらして描写せし所なり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
其処へ又警部が飛込んで来やがつて『解散を命ずるツ』てんよ、すると何でも早稲田わせだの書生さんテことだが、目をき出して怒つた、つかみ掛りサウないきほひだつたが、少し年取つた人が手を抑へて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
会津八一あいづやいち先生が、たぶん創元社の伊沢君からきいてのことと思うが、私が黄河を調べていることをきいて、私を早稲田わせだの甘泉園というところへ招いて、ここには先生の支那古美術の蒐集しゅうしゅうがあるのだが
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
紺の暖簾のれんを張った広い店先きにミシンを置いて、桃割ももわれに結った町子が、黒繻子くろじゅすえりをかけてミシンを踏んでいるところは、早稲田わせだの学生達にも評判だったとみえて、学生達が足袋をあつらえに来ては
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「楠さん、先刻さつきの雑誌の名はやつぱし早稲田わせだ文学でしたわ。」
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それから、どこをどう走ったか、よくもおぼえませんが、早稲田わせだ大学のうしろのへんで、あとから追っかけてくる自動車があることに気づきました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
十月早稲田わせだに移る。伽藍がらんのような書斎にただ一人、片づけた顔を頬杖ほおづえで支えていると、三重吉みえきちが来て、鳥を御いなさいと云う。飼ってもいいと答えた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また例の蕎麦そば屋でビールでも飲んで語らうぢゃないか。小島からこの間便りがあった。このごろに杉山がまた東京の早稲田わせだに出て行くさうだ。歌を難有う。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それを文士モラル問題として、手厳しく、というより致命的にやっつけたのが、『早稲田わせだ文学』だった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いつか早稲田わせだの応接間で先生と話をしていたら廊下のほうから粗末な服装をした変な男が酔っぱらったふうでうそうそはいって来て先生の前へすわりこんだと思うと
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それとは心づかない君江は広小路ひろこうじの四辻まで歩いて早稲田わせだ行の電車に乗り、江戸川ばたで乗換え、更にまた飯田橋いいだばしで乗換えようとした時は既に赤電車の出た後であった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紅葉勃興ぼっこう当時の文壇は各々私交はあっても団体的に行動する事はなかった。春廼舎はるのやつや半峰居士はんぽうこじ伯牙はくがにおける鍾子期しょうしきの如くに共鳴したが、早稲田わせだは決して春廼舎を声援しなかった。
サウ、赤門あかもんにせよ、早稲田わせだにせよ、一生懸命社会主義を
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
(もっとも雨の降る日であったからでもありましょうが、)そう云った身拵みごしらえで、早稲田わせだおくまで来て下すって
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高等女学校や早稲田わせだ大学出の人たちの間へはさまり、新時代の高級女優となって売出そうという人が
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
中にも高等師範の学生に一人、早稲田わせだ大学の学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
千駄木せんだぎ早稲田わせだの先生の家における、昔の愉快な集会の記憶が背景となって隠れているであろう。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
早稲田わせだあたりを卒業したばかりの文士で、毎月百円内外の手当をもらい、清岡の口述する小説を筆記して原稿を製作すると、それを駒田という五十年輩の男が新聞社や雑誌社へ売込みに行く。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
春廼舎もまた矢継早やつぎばやに『小説神髄』(この頃『書生気質』と『小説神髄』とドッチが先きだろうという疑問が若い読書子間にあるらしいが、『神髄』はタシカ早稲田わせだの機関誌の『中央学術雑誌』に初め連載されたのが後に単行本となったので、『書生気質』以後であった。)から続いて『いもかがみ』を
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
きょうはさいわい昼から早稲田わせだの学校へ行く日で、大学のほうは休みだから、それまで寝ようと言っている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたし早稲田わせだにいると言ってさえ、先生には早稲田の方角がわからないくらいである。深田君ふかだくん大隈伯おおくまはくのうちへ呼ばれた昔を注意されても、先生はすでに忘れている。
ケーベル先生の告別 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その秋余は西片町を引き上げて早稲田わせだへ移った。長谷川君と余とはこの引越のためますます縁が遠くなってしまった。その代り君の著作にかかる「其面影そのおもかげ」を買って来て読んだ。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうど大学の三年の時だったか、今の早稲田わせだ大学、昔の東京専門学校へ英語の教師に行って、ミルトンのアレオパジチカというむずかしい本を教えさされて、大変困ったことがあった。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私が早稲田わせだに帰って来たのは、東京を出てから何年ぶりになるだろう。私は今の住居すまいに移る前、うちを探す目的であったか、また遠足の帰り路であったか、久しぶりで偶然私の旧家の横へ出た。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)