悪罵あくば)” の例文
旧字:惡罵
けれど、今、戸外に呶鳴っている法師たちの悪罵あくばには、時こそよけれと、いい機会をつかまえてせてきたらしい気色けしきが濃厚である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こちら側の音頭とりは、いふまでもなく河合だつた。彼はさうした悪罵あくばの応酬にかけて、じつに明敏な頭脳の持主だつたのである。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
悪罵あくば奔走ほんそう駈引かけひきは、そののち永く、ごたついて尾を引き、人の心を、生涯とりかえしつかぬ程に歪曲わいきょくさせてしまうものであります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこに並んでいるなまめかしい令嬢たちは割かた朴訥ぼくとつで飾り気がないから、そんな客には遠慮ぬきで嘲弄ちょうろう悪罵あくばをあびせかける。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さんざんな悪罵あくばの中にノックはおわった。千三はいくどもいくども滑ったので身体からだはどろだらけになった、その他の人々も同様であった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ションボリ帰って行くガラッ八の後ろ姿へ、源吉は思う存分の悪罵あくばを浴びせました。平次にはよっぽどうらみがある様子です。
次に口を開いて悪罵あくばを浴せかけた。クリストフは自分の仕業にぞっとして、椅子いすの上に堅くなり、雨と降ってくる拳固げんこを受けても感じなかった。
翁はそれを聞いて、もし悪罵あくばの声でも放って呉れるなら不思議に牽かれる娘の女神への恋々の情を薄めてでも貰えるようにさえ感ずるのだった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見よ彼は三友のすべての悪罵あくばと無情とをゆるして、彼らのために祈るに至った。この大なる愛はいかにして生れしぞ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「ああ、それ以上の悪罵あくばに妾が堪えられると思っているのかい。約束の五分間以上しゃべらせるような甘い妾ではないよ。お前さんはよくもこの妾の邪魔をしたネ」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「馬鹿!」とか、「詐欺!」とか云う悪罵あくばの声は、だんだん観客席の隅々から頻発されるようであった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうした犬を両親にしてパトラッシュは生れました。彼は悪罵あくばと鞭とに育てられ一疋前いっぴきまえの犬となる前にすでに荷車を挽く擦傷すりきずのいたさと、頸環くびわの苦しみを味いました。
百姓達から悪罵あくばを浴びせられ、うしろから小突かれながら、良寛さんは村役人の家にひつぱられて来た。その間、百姓が何をいても良寛さんはおしのやうに黙つてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
と、米友が思わずじだんだを踏んで、こういって怒鳴りつけてみましたけれど、その悪罵あくばには毒を含んでいませんでした。それのみか、その眼に何となしに露を帯びている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わしは昔の哲学者達が、女性に加えた悪罵あくばの数々を、長々と弁じ立てるのが常であった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
群集が彼らに悪罵あくばの声をかけ始めた。それは仮装の者らに対する群集の愛撫である。今言葉をかわしたふたりも、仲間の者らといっしょに、衆人に立ち向かわなければならなかった。
その「男たらし」である彼女が、わたしの偶像ぐうぞうであり、わたしの神とあがめる存在なのだ! その悪罵あくばが、わたしの胸を焼きがした。わたしはそれからのがれようと、枕に顔をめた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その非私なる者の花鳥諷詠に悪罵あくばを加えることもこれまた当然な事である。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
二言目には家風をたてに取り、自分の旧式な思想を無上の権威として嫁の個性を蹂躙じゅうりんし圧倒することを何とも思わず、聞き苦しい干渉と邪推と、悪罵あくばと、あてこすりとを以て嫁をいじめて悔いぬような
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
山男! こういう悪罵あくばを投げつけられた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やり場のない鬱憤うっぷんも、気のゆるせる内輪うちわの家臣を前に、酒気を加えて洩れ始めると、口ぎたない悪罵あくばにまでなって、止まるなき有様だ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おれが老いぼれの腰抜けなら、きさまなんぞは、その、あの」彼はもっとも痛烈な悪罵あくばを思いだそうとしてあせる
超過勤務 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「コーラ、無礼者奴ぶれいものめ。警察と知って悪罵あくばをするとは、捨てて置けぬ。うぬ、今に後悔するなッ」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八五郎に縄尻を取られながら、文六は縁側の上の平次に悪罵あくばの限りを浴びせるのでした。
彼女のしどろもどろの悪罵あくばの言葉の中からも、わたくしが汚い着物の下に美衣を着覆ちゃくふくしているのをこの女は嗅ぎ付け、それによって嫉妬のむらを一層高めているのを知りました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
孤高狷介けんかいのこの四十歳の天才は、憤ってしまって、東京朝日新聞へ一文を寄せ、日本人の耳は驢馬ろばの耳だ、なんて悪罵あくばしたものであるが、日本の聴衆へのそんな罵言の後には、かならず
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
そういう時クリストフは、嫌悪けんおの眼つきを彼に注ぎ、冷酷な悪罵あくばを彼に浴びせかけた。ハミルトンの自尊心はそれに傷つけられた。ピアノの演奏会も喧嘩けんかに終わることがしばしばだった。
そのやかましい悪罵あくばの声は、すぐ眼の前の往来のまんなかで起りました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はこっそり頭の中で、こんな悪罵あくばを浴びせて見ました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『何の意趣いしゅがあって、他家へ嫁がせる娘にあらぬ悪罵あくばを浴びせたのみか、娘の部屋へ忍び入ったか。その返答を承まわろう』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪童どもは飽きもせず、毎日やって来て青べかの虐待ぎゃくたいに興じた。雨の日にさえ、学校のゆき帰りに石を投げ、どろを投げ、悪罵あくばと嘲弄をあびせかけた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして素敵なダヴィデを記事で賞賛した——前年ある記事で二、三行悪罵あくばを加えたことなんかは、もうきれいに忘れはてていた。彼の周囲の者も一人として、もうそれを覚えてはいなかった。
もとより私は、東京を離れた瞬間から、死んだふりをしているのである。どのような悪罵あくばを父から受けても、どのような哀訴あいそを母から受けても、私はただ不可解な微笑でもって応ずるだけなのである。
玩具 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは悪罵あくば嘲笑ちょうしょうと無関心とに葬られていたのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ところが本来なら、群集の弥次馬心理や日ごろの反官意識が当然、彼へのつばともなり悪罵あくばや石つぶてになるべきなのに
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは例の悪罵あくばの始まる前兆なのだが、そのときは逆に、眼を伏せて口をつぐみ、いかにも自分をもてあましたというふうに、せかせかと酒を飲み続けた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は、私の作品を、ほめてくれた人の前では極度に矮小わいしょうになる。その人を、だましているような気がするのだ。反対に、私の作品に、悪罵あくばを投げる人を、例外なく軽蔑する。何を言ってやがると思う。
自作を語る (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかしまた、浄土門を、呪詛じゅそするがわの他宗の僧は、いっそう、彼を悪罵あくばし、彼をそねんだ。わけても播磨房はりまぼう弁円は
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鬼ばばあ、くたばっちまえ——、という第一でそれは始まり、相当な無頼漢でも思い及ばないような、豊富な語彙ごいを駆使してのろいと悪罵あくば嘲弄ちょうろうをあびせかける。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ころされる日を待ち切れず、われからすすんで命を断とうと企てた。衰亡のクラスにふさわしき破廉恥はれんち頽廃たいはいの法をえらんだ。ひとりでも多くのものに審判させ嘲笑させ悪罵あくばさせたい心からであった。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
次にまたこの小次郎も、武蔵が名目人の一少年までを討ったということを、口を極めて、悪罵あくばした。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨の日にさえ、学校のゆき帰りに石を投げ、泥を投げ、悪罵あくばと嘲弄をあびせかけた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
劉高りゅうこう悪罵あくばだけを浴びて、追ッ返されて来た使いの言を聞くや、花栄は烈火の如く怒って即座に
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぶっつけに、あけすけに、悪罵あくばと暴力で搾りあげた。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
芸州の城下には、よく九州や広島へ旅する文人や画家が足をとめて、その土地が、山陽の郷里であるところから、自然と、彼に反感をもつ者の悪罵あくばなども言いふらされた。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
象戯しょうぎをさしているうちに、いつか主従の見さかいも忘れ、余りに暴言を吐くので、らしめてくれようとしたところ、さらに悪罵あくばを放って、逃げて行ったというのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
李逵は小舟の方へすっ飛んで行き、なにか二た言三言、悪罵あくばを戦わせていたかとみるまに
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに半狂人の言としても、吐雲斎の悪罵あくばは聞きづらい。無礼きわまる。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間にも、雑人たちは、口汚い悪罵あくばをまわりから放っていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪罵あくばは、順々に、その口々から飛び出して、川面かわもを打った。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)