復讐ふくしう)” の例文
赤い振袖を着た稀代きだいの美男が、復讐ふくしうの快感に浸つて、キラキラと眼を輝やかす樣は、言ひやうもなく物凄まじい觀物です。
富岡はゆき子に復讐ふくしうするやうな眼で、酔つぱらひの化粧のはげた、醜いゆき子を嫌悪けんをの表情でみつめた。この女との幕は終つたやうな気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
其結果僕と僕のちゝとのあひだうなるかわかりません。然しうなつても構はない、ことわるんです。貴方あなたが僕に復讐ふくしうしてゐるあひだことわらなければならないんです
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
敵をころしたる時復讐ふくしうの意を以て其肉を食ふとか、親戚しんせきの死したる時敬慕けいぼじやうを表す爲其肉を食ふとか、幾分いくぶんかの制限せいげんは何れの塲合にも存在そんざいするものなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
この信條を持つてゐれば、私の心はどんな場合でも復讐ふくしうに惱まされたり、墮落にひどきずつけられたり、不義の爲めにぺしやんこにくじかれたりしないで濟むの。
それが彼には、彼を怖れて云つた言葉とはどうしても聞こえないで、単に復讐ふくしう的な皮肉とのみ響いた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
日本人ハ最モ復讐ふくしうヲ好ミ、彼等ハ街上ヲ歩ミナガラモ、かたきト目ザス者ニ逢フ時ハ、何気なにげナクコレニ近寄リ、矢庭ニ刀ヲ抜イテこれヲ斬リ、而シテおもむロニ刀ヲさやニ納メテ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
真実ほんとか、虚言うそか——もし其が事実だとすれば、無論高柳の復讐ふくしうに相違ない。まあ、丑松は半信半疑。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
虱は復讐ふくしうせんがために、一年間何もはずに生きのびてゐた。自分もまた復讐せんがために、今この無心に笛を吹いてゐる、心の美しい、眼の不自由な人を殺さうとしてゐる。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
チッバルトは其儘そのまゝたん逃去にげさりましたが、やがてまたってかへすを、いま復讐ふくしうねん滿ちたるロミオがるよりも、電光でんくわうごとってかゝり、引分ひきわけまするひまさへもござらぬうちに
ぼく先づ出ぢんに及んで何と四せうはい、すつかり得になつてゐると、つい二三日前には口しさのはらやさんずとむかうから來せんに及んで何と三はいせう、物の見事に復讐ふくしうされてしまつた。
だ燃え立つ復讐ふくしうの誠意、幼き胸にかき抱きて、雄々しくも失踪しつそうせる小さき影を、月よ、汝は如何いかに哀れと観じたりけん、がるゝ如き救世の野心に五尺の体躯からだいたづら煩悶はんもんして、鈍き手腕
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
誰かに復讐ふくしうするやうな、酸つぱくて哀しい感情に押されてであつた。
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「一番偉いツオイスの神でも復讐ふくしうの神にはかなひません。……」
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
或る真珠の涙は、清雅な復讐ふくしうである。
象徴の烏賊 (新字旧仮名) / 生田春月(著)
おせいと同棲したために、富岡は、清吉から、手酷てひど復讐ふくしうを受けた気がした。伊香保を去つて以来、富岡の頭からは、清吉の存在は、幻のやうに消えてしまつてゐたのだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
今日けふうやつて、貴方あなたを呼んで、わざ/\自分の胸を打ち明けるのも、実は貴方あなたから復讐ふくしうされてゐる一部分としか思やしません。僕は是で社会的に罪を犯したも同じ事です。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きつと倍増しの復讐ふくしうをされるんださうだ。
復讐ふくしう跡ありくわうとして血痕けっこん
「——復讐ふくしう——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼等かれら自然しぜん彼等かれらまへにもたらしたおそるべき復讐ふくしうもとをのゝきながらひざまづいた。同時どうじこの復讐ふくしうけるためにたがひ幸福かうふくたいして、あいかみに一べんかうことわすれなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)