御暇おいとま)” の例文
「では、僕はこれで御暇おいとましますが、今日までに調べましたことを二三御報告して置きましょう」明智は少し考えてから続けた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こんな豪傑がすでに一世紀も前に出現しているなら、吾輩のようなろくでなしはとうに御暇おいとまを頂戴して無何有郷むかうのきょう帰臥きがしてもいいはずであった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、その内に夫と共々、但馬たじまへ下る事になりましたから、手前もその節娘と一しよに、御暇おいとまを頂いたのでございます。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
平兵衞はかうべふりかたじけなけれども明日は餘儀よぎなきことのあるゆゑに是非共今宵こよひかへらずば大いに都合あしかりなんかく御暇おいとま申さんと立上れば庄右衞門もやむ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……コレ……祖父の命令いいつけじゃ。立たぬか。伯父様や伯母様方に御暇おいとま乞いをせぬか。今生こんじょうのお別れをせぬか。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
長々の御恩に預つたをぢさんをばさんには一目会つて段々の御礼を申上げなければ済まんのでありますけれど、仔細しさいあつて貫一はこのまま長の御暇おいとまを致しますから
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
図書 (愕然がくぜんとす。急に)これにこそ足の爪立つまだつばかり、心急ぎがいたします、御暇おいとまを申うけます。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隠居所の御客人はアレこそ当国の太守、少将様の御落胤、奥方様御付きの御腰元鶴江つるえというのに御手が付いて、どうやら妊娠と心づき、目立たぬ間にと御暇おいとまを賜わった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
秋山殿が世にある頃から許婚であつたが、秋山殿が永の御暇おいとまになつた上の難病で、祝言も延々になつてゐる。其處をねらつて、あの色氣違ひの右馬之丞が爪をいだのだよ
御体の調子が悪くて、何だか大変大儀らしい御様子でしたので、早く御暇おいとましなければと、折を考えながらお話を伺っていたら、古田さんから御電話。しばらくして古田様と神田へ出る。
殿様へ種々しゅ/″\御意見を申し上げ、諫言かんげんとかをいたしたので重役の憎みを受け、御暇おいとまになりましたが、なんの此の屋敷ばかり日は照らぬという気性で浪人致し、其ののち浪宅ろうたくにおいて切腹いたし
はゞ良人をつとをはづかしむるやうなれど、そも/\御暇おいとまたまはりていへかへりしときむこさだまりしは職工しよくこうにて工場こうぢやうがよひするひときしとき勿躰もつたいなき比較くらべなれどれは殿との御地位ごちゐおもあはせて
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかしその後は薗八節再興の御手筈おてはずだん/\と御運びの事と推察つかまつりをり候処実は今夕偶然銀座通にてお半様に出遇であひ彩牋堂より御暇おいとまになり候由承り、あまりといへば事の意外なるに驚愕仕きょうがくつかまつり候次第。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
水漂草の譬喩たとへに異ならず、いよ/\心を励まして、遼遠はるかなる巌のはざまに独り居て人め思はず物おもはゞやと、数旬しばらく北山の庵に行ひすませし後、飄然と身を起し、加茂明神に御暇おいとままをして仁安三年秋の初め
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
御暇おいとまいたしますべえか
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「武助、御暇おいとま致そう」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それは言ひ度くないことだが、——思ひきつて言はうよ。私は西國の藩中で、切支丹の疑ひで永の御暇おいとまになり、十七年前に、娘のお信をつれて江戸へ參つたのぢや、——私は生涯を
「ああ、かたじけのうござります。何たる、神様か、仏様か、おかげで清く死なれまする。はいはい、わたくし風情にここと申す住所すみかもござりませぬ。もう御暇おいとまを下されまし。」と揉手もみでをしつつ後退あとじさり
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御寝おやすみなさい。起きていらっしゃると毒ですから。私はもう御暇おいとまをします」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「もうかれこれ三時でしょう。じゃ私は御暇おいとましますかな。」と、半ば体を起しかけると、新蔵は不審ふしんそうに眉をよせて、「三時? 今はまだ朝じゃないのかい。」と、妙な事を尋ねるのです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
言はゞ我が良人をつとをはづかしむるやうなれど、そもそも御暇おいとまを賜はりて家に帰りし時、むこさだまりしは職工にて工場こうばがよひする人と聞きし時、勿躰もつたいなき比らべなれど、我れは殿の御地位ごちゐを思ひ合せて
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一其の方父織江儀御用に付き小梅中屋敷へまかり越し帰宅の途中何者とも不知しれず切害被致候段いたされそろだん不覚悟の至りに被思召おぼしめされ無余儀よぎなくなが御暇おいとま差出候さしだしそうろう上は向後こうご江戸お屋敷は不及申もうすにおよばず御領分迄立廻り申さゞる旨被仰出候事おおせいでられそろこと
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「伜の佐太郎といふ二十五になるのが、永の御暇おいとまになつて、母親と一緒に退轉した」
迷惑そうな健三のていを見ても澄ましていた。しまいに吉田が例の烟草入タバコいれを腰へ差して、「では今日こんにちはこれで御暇おいとまを致す事にしましょうか」と催促したので、彼はようやく帰る気になったらしかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「じゃ私はもう御暇おいとまします。」と、すぐに背広の腰をもたげた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「やっと姉さんから御暇おいとまが出た。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや。僕ももう御暇おいとましよう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)