御主おんあるじ)” の例文
御主おんあるじ耶蘇様イエスさま百合ゆりのやうにおしろかつたが、御血おんちいろ真紅しんくである。はて、何故なぜだらう。わからない。きつとなにかの巻物まきものいてあるはずだ。
御主おんあるじの「ぐろおりや」(栄光)にもかかはる事ゆゑ、日頃親しう致いた人々も、涙をのんで「ろおれんぞ」を追ひ払つたと申す事でござる。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御主おんあるじかんむりとなつた荊棘いばらの木よ、血塗ちまみれの王のひたひめた見窄みすぼらしい冠。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
人々ひとびと御主おんあるじよ、われをもたすたまへ。」此世このよ御扶おんたすけ蒼白あをじろいこのわが罪業ざいごふあがなたまはなかつた。わが甦生よみがへりまでわすれられてゐる。
皆天地の御主おんあるじ、あなたの御恵おんめぐみでございます。が、この日本に住んでいる内に、私はおいおい私の使命が、どのくらいかたいかを知り始めました。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いや勿論もちろん、これには御主おんあるじ擁護おうごもあらうて。自分じぶんふことは、兎角とかく出放題ではうだいになる、胸一杯むねいつぱいよろこびがあるので、いつもくちからまかせを饒舌しやべる。
業畜ごふちく御主おんあるじ『えす・きりしと』の下部しもべに向つて無礼むらいあるまじいぞ。」と申しも果てず、てうと傾城のおもてを打つた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さてはわがこはがらないのか、ちつともこはいとおもつてゐない。このには、あたしのおそろしい白栲しろたへが、御主おんあるじのそれとおなじにえるのだ。
されば恐らく、えるされむは広しと云え、御主おんあるじはずかしめた罪を知っているものは、それがしひとりでござろう。罪を知ればこそ、呪もかかったのでござる。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、二足三足ふたあしみあし踏み出したと思うと、「御主おんあるじ」と、切れ切れに叫んだなり、茫然とそこへ立ちすくんでしまった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そも/\われは寄辺よるべない浮浪学生ふらうがくしやう御主おんあるじ御名みなによりて、もり大路おほぢに、日々にちにちかてある難渋なんじふ学徒がくとである。おのれいまかたじけなくもたふと光景けしき幼児をさなご言葉ことばいた。
その頃「れぷろぼす」ほどな大男は、御主おんあるじの日輪の照らさせ給ふあめが下はひろしと云へ、絶えて一人もおりなかつたと申す。まづ身の丈は三丈あまりもおぢやらうか。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やすらかに、おまへのしろ御主おんあるじもとけ、さうして、あたしをおわすれになつたかと申上まをしあげてれよ。
クリストは、兵卒たちに追い立てられて、すでに五六歩彼の戸口を離れている。ヨセフは、茫然として、ややともすると群集にまぎれようとする御主おんあるじの紫の衣を見送った。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、御主おんあるじ耶蘇基督エス・クリストの名で、誓つた以上、一度した約束は、破る事が出来ない。勿論、フランシス上人でも、ゐたのなら、またどうにかなる所だが、生憎あいにく、それも今は留守である。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その時翁の傍から、誰とも知らず、高らかに「御主おんあるじ、助け給へ」と叫ぶものがござつた。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ちかごろふつと悪魔ぢやぼ下部しもべと相成つて、はるばるこの『えじつと』の沙漠まで参つたれど、悪魔ぢやぼ御主おんあるじ『えす・きりしと』とやらんの御威光には叶ひ難く、それがし一人を残し置いて
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の言葉を借りれば、「それがしも、その頃やはり御主おんあるじの眼を見る度に、何となくなつかしい気が起ったものでござる。大方おおかた死んだ兄と、よう似た眼をしていられたせいでもござろう。」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
羅馬ロオマ大本山だいほんざん、リスポアの港、羅面琴ラベイカ巴旦杏はたんきょうの味、「御主おんあるじ、わがアニマ(霊魂)の鏡」の歌——そう云う思い出はいつのまにか、この紅毛こうもう沙門しゃもんの心へ、懐郷かいきょうの悲しみを運んで来た。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
内陣には御主おんあるじ耶蘇ヤソ基督キリスト画像ぐわざうの前に、蝋燭らふそくの火がくすぶりながらともつてゐる。うるがんはその前に悪魔をひき据ゑて、何故なぜそれが姫君の輿の上に乗つてゐたか、厳しく仔細しさいを問ひただした。
悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
確に、御約定おやくぢやう致しました。御主おんあるじエス・クリストの御名にお誓ひ申しまして。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)