彫物ほりもの)” の例文
その上、死骸の耳の下に傷を拵へて、お玉の黒子ほくろを誤魔化したが、二の腕の(蛇)の彫物ほりものをお關に見られて、たくらみに龜裂ひびが入つた。
丁蘭は彫物ほりものの道にかけては、ずぶの素人だつたが、出来上つた木像を見ると、簡素なうちに母親にそつくりなおもざしがあつた。
そのニンフの彫物ほりものは、主人の太い、荒々しい手で握つてゐる杖のかしらに附いてゐて、指の間からはそれを鋳た黄金わうごんがきら附いてゐるのである。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
その留守に、アグネスと島田とお角と三人で暫く話していると、そのうちに島田がお角にむかって、細君もおまえの彫物ほりものを写真に撮りたい。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
我は灰となりいはやとなれるトロイアを見き、あゝイーリオンよ、かしこにみえし彫物ほりものかたちは汝のいかに低くせられ衰へたるやを示せるよ 六一—六三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
お深は傍邊よりモシ九郎兵衞殿其彫物ほりものは此あひだソレちひさく有たと云れたではないかと九郎兵衞へで知らせる樣子なるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「左様、女軽業の元締もとじめとか言いおったが、彫物ほりものの一つもありそうな女じゃ、しかし悪党ではないらしい」
やがてお葉が空を見上げて再び前を見た時に、白い足の上には氣味の惡いやうな木目が彫物ほりもののやうに長くついてゐて、觸れた指先には無心な冷さが傳はつたのであつた。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
首領の四馬剣尺しばけんじゃくは、あいかわらずりゅう彫物ほりもののある、大きな椅子に坐っていた。身のたけ六尺にちかく、ビールだるのようにふとったからだは横綱よこづなもはだしで逃げだしそうな体格だ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その龕子がんす一つでも二百円以上三百円位するそうです。で右の腕には小さな法螺貝ほらがいから腕環うでわ、左の腕には銀の彫物ほりもののしてある腕環を掛けて居る。それから前垂まえだれは誰でも掛けて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ながれにはをのひゞきにはのみおとしろ蝙蝠かはほりあかすゞめが、ふもとさといろどつて、辻堂つじだううちなどはかすみかゝつて、はな彫物ほりものをしてやうとまで、しんじてたのが、こひしいをんな一所いつしよたゝめ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その中には金太もいたし、富三郎や仁兵衛、そして彫物ほりもの部屋の伊助もいた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
立派な座敷の道具にはならない、是は指物ばかりではない、でも彫物ほりものでも芸人でも同じ事で、銭を取りたいという野卑な根性や、ひとに褒められたいという謟諛おべっかがあってはい事は出来ないから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その箱のふちかどには、実に驚くべき腕前で彫物ほりものがしてありました。
加藤清正だのの地車だんじり彫物ほりものを和歌山の客は珍しさうに見た。
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
これは彫物ほりもののある大きい食器戸棚
「二代目一刀齋勘兵衞の彫物ほりものは、皆な初代勘兵衞が代作してやつたといふ事が判つたら、死んだお前さんの伜の名はまる潰れだぜ」
お蔭で瀬戸物みせや、彫物ほりもの師は牛の註文で懐中ふところを膨らませたのも少くなかつたが、それを撫で廻した人達が、幾人いくたりづばぬけて主殿頭のやうな出世をしたかは判らなかつた。
致し子供同士かま肩先かたさききづを附られ候悴が今にのこり居候が何よりの證據しようこに御座りますと云に越前守樣成程なるほど確固たしかなる證據ありして其彫物ほりものは何なる物ぞ憑司ヘイうでに力と申す字を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして、部下にあうときは、いつもあの竜の彫物ほりもののある大きな椅子によっているのだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と思って米友はその石を見ると、袖切坂の文字には昨夜見た通りの朱をさしてありましたが、その文字の下に猿の彫物ほりもののしてあることに初めて気がつきました。この猿はありふれた庚申こうしんの猿です。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彫物ほりものが知りたかつたのだよ。そして他の者には見せ度くなかつたのだ。死骸を尼寺の中に持込んで、佛壇の前で皮をぐ——」
もらひ信州へ參り越後の方を尋ね候處不慮ふりよの災なんに逢ひ終には猿島河の下にて首を見付みつけたるは先達て申上候と言にぞ越前ゑちぜん守殿何源次郎其方つまは右の二のうでに源次郎命と彫物ほりものをしてを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「方丈様、お前は絵もかけば字も書く、彫物ほりものなんぞもなさるだね」
その死骸は、顏、口、頭は石で碎かれて居りますが、左右の腕に上り龍下り龍の彫物ほりもののある、まぎれもなく大膳坊覺方の無殘な姿だつたのです。
持って、彫物ほりものをしながら、日本中を歩いてみてえつもりだ
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
江戸の大工では、彫物ほりものの左甚五郎、建物の辰三郎と並び稱された棟梁で、その名匠が金に飽かして造れば、この建物も別に不思議ではありません。
「それは俺も考へて居るよ。なか/\わからなかつたが、先刻の腹卷の話でやうやくわかつたよ。曲者は鬼三郎の腹卷に隱した、彫物ほりものが見たかつたのだ」
「御免下さい、私は彫物ほりもの師の松本鯛六と申す者、唯今は無理な願いを早速お聴き届け下すって有難う御座います」
習ひ覺えた遊藝を資本もとでに、田舍芝居の一座に入つたり、香具師やしの仲間に入つたり、やくざの仲間に入つたり、左右の腕に上り龍と下り龍の彫物ほりものがあるさうですよ。
香椎六郎は歌のように節を付けながら口ずさんで、向日葵ひまわり彫物ほりものの真ん中の穴へ手を入れましたが、手は真鍮板らしい金属に遮られて、いくらも深くは入りません。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「この彫物ほりものは決して古いものではあるまい。誰が彫つたのか知り度い。彫物師は、人肌に彫物をする時は、必ず下繪を作るものだ。その下繪を持つて居るに違ひない」
彫物ほりものを見せて肌脱はだぬぎになつたり、蝠女ふくぢよとやらがお前にしつこくからみ付いたり、上州屋の周太郎が顏の火口を刺して居るのを見せたり、皆んなする事がわざとらしいぢやないか
たかが彫物ほりもの職人で、金づくにも腕づくにも、お關を奪ひ返す力はなく、そのうち加賀屋の若い衆に見付けられて、引摺り込まれて散々になぐられたのは、ツイ二た月ほど前のことですよ。
お前さんは江戸の彫物ほりもの名人と言はれた、初代一刀齋勘兵衞師匠さ。