山椿やまつばき)” の例文
しかし山馴れない政子はと、時折、気遣きづかって振向いたが、政子は、懸命に山椿やまつばきの枝や笹の根にすがって、後からじて来るのだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次手ついでに云うと、この歌の一つ前に、「あしひきの山椿やまつばき咲く八峰やつを越え鹿しし待つ君がいはづまかも」(巻七・一二六二)というのがある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
其處そこには山椿やまつばき花片はなびらが、のあたり水中すゐちういはいはび、胸毛むなげ黄色きいろ鶺鴒せきれい雌鳥めんどりふくみこぼした口紅くちべにのやうにく。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
左の乳の下に平打の銀のかんざしが突き刺してあり、枕許にはいつも赤い山椿やまつばきの花片が一枚落ちていた、そうでしょ
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしがそうした無邪気むじゃき乙女心おとめごころもどっている最中さいちゅうでした、不図ふと附近あたりひと気配けはいがするのにがついて、おどろいてかえってますと、一ほん満開まんかい山椿やまつばき木蔭こかげ
僕の好きな山椿やまつばきの花も追々盛りになるであろう。十日ばかり前から山茱黄やまぐみしきみの花が咲いている。いずれも寂しい花である。ことに樒の花は臘梅ろうばいもどきで、韵致いんちの高い花である。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さうたま乳房ちぶさにも、糸一条いとひとすぢあやのこさず、小脇こわきいだくや、彫刻家てうこくか半身はんしんは、かすみのまゝに山椿やまつばきほのほ𤏋ぱつからんだ風情ふぜい
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れいのボロざやの刀をしなおし、松の小道をとって、ふもとの方へ歩きだしながら、みちみち、山椿やまつばきの葉を一枚もいでくちにくわえ、ぶえで調子をとりつつ、へんな歌をさけびだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『あれは山椿やまつばきせいではないかしら……。』
くもしろやまあをく、かぜのやうに、みづのやうに、さつあをく、さつしろえるばかりで、黒髪くろかみみどり山椿やまつばき一輪いちりん紅色べにいろをしたつままがふやうないろさへ、がゝりは全然まるでない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)