小姓こしょう)” の例文
夫の死後しきりに寵愛ちょうあいしている小姓こしょう上りの渾良夫こんりょうふなる美青年を使として、弟蒯聵との間を往復させ、秘かに現衛侯逐出おいだしを企んでいる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
小姓こしょう蘭之助らんのすけか、杉太郎か、それとも黄門公自身の手か、窓がほそくくと、抜きとって、すうっと、内へ引き込んだ様子であった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ジナイーダが、わたしたちの一座を、新しい気分のものに切りえたのだ。わたしは小姓こしょうの役目がら、彼女かのじょのそばに席をめた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それから、みんなそろって広間へあがると、かわいいお小姓こしょうたちが、くだもののお砂糖漬だの、くるみのこしょう入りのお菓子だのをだしました。
先任の支配太田筑前守は、小姓こしょうをつれてその席に着きましたけれど、相役の駒井能登守はまだそこへ姿を見せません。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この模様風の背景をひかへし人物もまたきわめて人形らしく、その男は小姓こしょう吉三きちざその女は娘おしちならんか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから、彼女は涙をき、笑顔をした。そして、丸襞襟まるひだえりのような立ち襟の白い短外套がいとうと縁なし帽子とを彼に着せかけて、アンリー三世の小姓こしょうみたいに仕立てた。
「うむ。それがよい。早う行け」と、山城守は、つぎの間にひかえている小姓こしょうに声をかけて、「これこれ、長庵が帰るぞ。誰ぞある。たれか長庵を送ってとらせい」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
イギリスのことわざに「いかなる英傑もかれそばはべ小姓こしょうには偉大と映じない」とある。これ英傑が偉大ならざるにあらずして、小姓こしょうが偉大ならざるがためである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
居る女達は、皆、私が絵で好いて居るゆったりと見事な身の廻りをして、小姓こしょうに長いスカートをかかげさせて、左の掌に白い羽根の扇をのせてしとやかに動いて居る。
草の根元 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この岡崎殿どのが十八さいばかりの時、主人より年の二つほど若い小姓こしょうに佐橋甚五郎というものがあった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
落合は二十八歳で、百五十石ばかりの中小姓こしょうを勤めていた。これらが、井関と小森は側用人そばようにん、落合は執奏として右京亮の側近をかため、殆んど独裁的に政治を動かしていた。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また一人の少年が、お雪のお小姓こしょうのように、すぐにそれを受けとっている。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「森蘭丸? 森蘭丸というのは、織田信長の家来けらいでしょう。そして、明智光秀が本能寺に夜討ようちをかけたとき、槍をもって奮戦し、そして、信長と一緒に討死うちじにした小姓こしょうかなんかのことでしょう」
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが、その日は、小姓こしょうの手から神酒みきを入れた瓶子へいしを二つ、三宝さんぼうへのせたまま受取って、それを神前へ備えようとすると、どうした拍子か瓶子は二つとも倒れて、神酒が外へこぼれてしまった。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と云ってすべり出たのは前髪立ちの小姓こしょうであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第一、君にお小姓こしょうという名をつけたのは、ぼくじゃないんだし、それにまたお小姓というものは、まずもって女王様の付き物ですからねえ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
と思うと——たたみまいほどはゆうにあるりょうつばさが、ウワーッと上へひろがって、白い腋毛わきげが見えたから、びっくりしたお小姓こしょうとんぼ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この大海原おおうなばらの波の上で、静かに、安らかに、一生を送りたいという人がありますか……ありましたらいらっしゃい、町人方も、お百姓衆も、お小姓こしょうも、殿様も
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
王子は、ひいさまを馬にのせてつれてあるけるように、男のお小姓こしょうの着る服をこしらえてやりました。ふたりは、いいにおいのする森のなかを、馬であるきました。
それを蜂谷はちやという小姓こしょうが聞きとがめて、「おぬし一人がそう思うなら、撃ってみるがよい」と言った。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昂奮した山城守が、こう心中に怒声を揚げた時、その心語しんごに応ずるかのように、眼前に人影が立った。ぎょッとして顔を上げると、気に入りの小姓こしょうだ。いつの間にか、庭を横ぎって来ていたのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
気転きてんよくたった小姓こしょう藤巻石弥ふじまきいしや、ふと廊下ろうかへでるとこは何者? 評定ひょうじょう袖部屋そでべやへじッとしゃがみこんでいる黒衣こくいの人間。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれは駒井能登守様のお小姓こしょうじゃそうな。駒井の殿様は鉄砲の名人、それであのお小姓までが弓の上手」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれど、可愛かわいらしい、おとなしい、利口な子だから、わたし大好きなのよ。ああ、そうそう、こうしたらいいわ。わたし、今日からあなたを、わたしのお小姓こしょうに取立ててあげるわ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
小姓こしょうたちが、砂糖づけのくだものだの、コショウのはいったクルミ菓子だのを持ってきました。しかし、お年よりの王さまは、悲しすぎて、なんにも食べることができませんでした。
平七は二十三歳にて切腹し、小姓こしょう磯部長五郎介錯かいしゃくいたし候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もうすっかり、竹童を旅の独楽まわしと思っているので小姓こしょうたちは、城内じょうないで聞きかじっていたことを、みんなベラベラしゃべってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やあ。」と、わかい小姓こしょうがいいました。「これでわかったよ。ちいさないきものにしては、どうもめずらしくしっかりしたこえだ。あれなら、たしかもうせん、きいたことがあるぞ。」
その時、土間すそに、小姓こしょう江橋林助えばしりんすけ近習きんじゅう渡辺悦之進わたなべえつのしんの二臣が、野良着を平常のものに着更きかえて、迎えに立っていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王女さまのぐるりをとりまいて、女官たちがおつきを、そのおつきがまたおつきを、したがえ、侍従じじゅうがけらいの、またそのけらいをしたがえ、それがまた、めいめい小姓こしょうをひきつれて立っていました。
今朝も、的場まとばに出て、采女うねめという小姓こしょうを相手に、ヒュッ、ヒュッとしきりに矢うなりを切っていると
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ、あれだ!」と、小姓こしょうたちが言いました。
宝暦ほうれき頃から明和めいわにかけて三都、頭巾の大流行おおばやり、男がた女形おんながた岡崎おかざき頭巾、つゆ頭巾、がんどう頭巾、秀鶴しゅうかく頭巾、お小姓こしょう頭巾、なげ頭巾、猫も杓子しゃくしもこのふうすいをこらして
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
佩刀はかせを持った小姓こしょうは、彼の早い足の後から小走りにいて行った。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縁端えんはしを見ると、小姓こしょうがひとりで端坐している。