寢衣ねまき)” の例文
新字:寝衣
蒲団ふとんをばねて、勢好いきほいよく飛起きた。寢衣ねまき着更きかへて、雨戸をけると、眞晝まひるの日光がパツと射込むで、眼映まぶしくツて眼が啓けぬ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
寢衣ねまきをきて起きた僕と、暗い陰鬱な電氣の下で、約一時間ほど話をした。來るといきなり、芥川君は手をひらいて僕に見せた。
芥川君との交際について (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
第一 毎日まいにちき、寢衣ねまき着替きかへ、蒲團ふとんちりはらひ、寢間ねま其外そのほか居間ゐま掃除さうじし、身體しんたい十分じふぶん安靜しづかにして、朝飯あさはんしよくすること
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
夫人は輕げなる寢衣ねまきを着て、素絹の長椅ソフアの上に横はりたりしが、我が入るを見て半ば身を起し、左手ゆんでもてを身に纏ひ、右手を我にさし伸べたり。
寢衣ねまきも何もはだけ放題にはだけて、太腿ふともゝまでもあらはに、口のあたりには、鐵漿おはぐろのやうなものがベタ/\附いてゐる。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
辰男は物をも云はず、突如だしぬけに起き上つた。そして、裾の短い寢衣ねまきのまゝランプを持つて階下へ下りて行つた。行燈あんどんの火は今にも消えさうに搖らめいてゐた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
涙で白粉をまだらにした夫人は、その裾のところに半分膝を乘せて、すつかり取亂した姿だつた。看護婦は蒲團の外に滑り出て、寢衣ねまきに細帶できちんと坐つてゐた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ところへ、細君さいくんはしどけない寢衣ねまきのまゝ、かしつけてたらしい、乳呑兒ちのみご眞白まつしろちゝのあたりへしつかりといていろあをうしてえたが、ぴつたりわたし椅子いすもとすわつて
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その中一枚はあまり見苦しく成つたと言はれて、今年からは寢衣ねまきにして着ることにしました。
して倶に貧乏びんばふする時はをつとに對して何と云譯が成べきぞ然はなく共お粂のさと貧窮ひんきうなりと云るゝ度の肩身かたみせまさ恥しさ御氣にさはるかは知ね共私し共は寢衣ねまきにも着られぬ樣な衣物きもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
カピューレット長者ちゃうじゃ寢衣ねまきのまゝにて、そのつまカピューレット夫人ふじんはそれをとゞめつゝ、る。
彼は寢衣ねまきの乾かしやうのないのに困つて、ぼんやりと窓外を眺めて居た。
哀しき父 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
柔い絹の薄綿の寢衣ねまきにふところ手して、私は縁側の柱や小窓に身を倚せ、樹の枝振り、花の色、水の面、薄曇りの空の光を、み疲れた重い心持で眺めて居ると、折々私は自分のそばに女がある。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
我が聲に驚き覺めぬ冬の夜のネルの寢衣ねまきに汗のつめたさ
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
忽ち街の角を曲らんとする馬車二三輌あるを認めて頭を囘しゝに、かの覆面したる翁と娘とを載せたる車は我側に來りぬ。寢衣ねまき纏ひたる老紳士の燭は早や消えたり。
出來ることなら山陰道のはてまでも行つて見たいと思ひ立つてゐたので、着更へのワイシヤツ、ヅボン下、寢衣ねまきなど無くてかなはぬ物の外に、二三の案内記をも携へてゆくことにした。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
記しあるにぞ見る武左衞門一句毎くごとに或は驚き或はたんじ又悲しみ又は感じ暫時しばし言葉もいでざりしは女兒むすめの生命にかゝは大事だいじ猶豫いうよなすべき所に非ずと思へば寢衣ねまきまゝにして我家を立出で家主の門口へ行き戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寢衣ねまきの袖で羞かしさうに、ふくれた顏を掩うた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
車中の客を見れば、痩せて色蒼き男のまだらに染めたる寢衣ねまきを纏ひて、ものうげにり坐せるなり。馭者は疾く下りて、又二たび三たび其鞭を鳴し、直ちに馬をぎ替へたり。
書院しよゐんへ通すべし對面たいめんせんとのおほせなり是に依て侍ひ中御廣書院へ案内あんないせらる最早中納言樣には御書院に入せられ御寢衣ねまきまゝ御着座遊おんちやくざあそばさる越前守には敷居際しきゐぎは平伏へいふくせらる時に中納言樣には越前近ふ/\との御言葉ことばに越前守は少し座を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)