孤子みなしご)” の例文
跡にはその時二歳ふたつになる孤子みなしごの三郎が残っていたので民部もそれを見て不愍ふびんに思い、引き取って育てる内に二年の後忍藻が生まれた。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
「いや、その孤子みなしごの将来も、御身に託せば安心じゃ。どうかあの至らぬ子らを扶け、荊州の国は御身が受け継いでくれるように」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孤子みなしごとなった庄三郎は、同族土屋右衛門が、快く引き取って養育したが、父母のない子はどこか寂しくどこか偏したものであって文にも秀で
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
付て一同に通夜迄もなし翌朝よくあさ泣々なく/\野邊のべおくりさへいとねんごろに取行なひ妻の紀念かたみ孤子みなしご漸々やう/\男の手一ツにそだてゝ月日を送りけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一家の主人、その妻を軽蔑すれば、その子これにならって母をあなどり、その教を重んぜず。母の教を重んぜざれば、母はあれどもなきが如し。孤子みなしごに異ならざるなり。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
世は穢れ、人は穢れたれども、我は常に我恩人のひとけがれみざるを信じて疑はざりき。過ぐれば夢より淡き小恩をも忘れずして、貧き孤子みなしごを養へる志は、これを証してあまりあるを。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
◯二十七節の「汝らは孤子みなしごのためにくじをひき、汝らの友をも商貨あきないものにするならん」は人身売買の罪をも犯すに至らんとの意である。ヨブがかく友を責めし余りに峻烈しゅんれつなりと評さるるであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
房枝は、父母の顔も名もしらない淋しい孤子みなしごであった。こうして道子夫人の話を聞いていると、なんだか彼女自身が、道子夫人のさがしている棄てられた愛児のように思えてくるのだった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
假初かりそめならぬ三えんおなじ乳房ちぶさりしなり山川さんせんとほへだたりし故郷こきやうりしさへひがしかたあしけそけし御恩ごおん斯々此々かく/\しか/″\はゝにてはおくりもあえぬに和女そなたわすれてなるまいぞとものがたりかされをさごゝろ最初そも/\よりむねきざみしおしゆうことましてやつゞ不仕合ふしあはせかたもなき浮草うきくさ孤子みなしご流浪るらうちからたのむは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いやいや臨終の折に、あのように孤子みなしごの将来を案じて、自分に後を託した劉表のことばを思えば、その信頼にそむくようなことはできない」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕舞しまひ住馴すみなれ京都みやこあとになし孤子みなしごかゝへて遙々はる/″\あづまそらおもむ途中とちう三州迄は來たれどもほとん困窮こんきうせまり餘儀なく我が子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
孤子みなしごよりもなお不幸というべし。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
のみねといと信實まめやか看病みとりなせども今ははや臨終いまはの近く見えければ夫婦ふうふ親子の別れのかなしさ同じ涙にふししばおこる日もなき燒野やけの雉子きゞす孤子みなしごになる稚兒をさなごよりすてゆく親心おやごころおもまくら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「忠家、これか。——亡き直家どのの孤子みなしごは」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)