垂々たらたら)” の例文
ああ、垂々たらたらと血が出た。それをどうにもし得ないんだ。じゃ、天王寺の境内で、猿曳を拾上げたって何の功にもなりゃしない。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時、額から垂々たらたらと血が流れたが、それには構わないで、ほとんど本能的に、胸へ抱いた年弱の三歳みッつの子を両手で抱えた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するする攀上よじのぼって、長船のキラリとするのを死骸から抜取ると、垂々たらたら血雫ちしずくを逆手にり、山のに腰を掛けたが、はじめてほっと一息つく。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小松原はまた肩のあたりに、冷い汗を垂々たらたらと流したが、大分夜も更けた様子で、冷々ひやひやと、声もない、音もせぬ風が、そよりと来ては咽喉のどかすめる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、それを心着いた時は——と云って垂々たらたらと額に流るる汗をぬぐって——ただ一瞬間に千万無量、万劫ばんごうの煩悩を起した。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汗は垂々たらたらと落ちた。が、はばかりながらふんどしは白い。一輪の桔梗ききょうの紫の影にえて、女はうるおえる玉のようであった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身のわななくのがまだまねば、腕を組違えにしっかと両の肩を抱いた、わきの下から脈を打って、垂々たらたらつめたい汗。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伸過ぎた身の発奮はずみに、蹌踉よろけて、片膝をいたなり、口を開けて、垂々たらたらそそぐと——水薬の色が光って、守宮の頭をもたげてにらむがごとき目をかけて、滴るや否や
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あ、」と離すと、爪を袖口そでぐちすがりながら、胸毛むなげさかさ仰向あおむきかゝつた、鸚鵡の翼に、垂々たらたら鮮血からくれない
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「そうさ、うまれは東だが、身上しんしょうは北山さね。」と言う時、徳利の底を振って、垂々たらたら猪口ちょくへしたむ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高坂は語りつつも、長途ちょうとくるしみ、雨露あめつゆさらされた当時を思い起すに付け、今も、気弱り、しん疲れて、ここに深山みやまちり一つ、心にかからぬ折ながら、なおかつ垂々たらたらそびらに汗。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……天麩羅てんぷらとも、蕎麦そばとも、焼芋とも、ぷんと塩煎餅のこうばしさがコンガリと鼻を突いて、袋を持った手がガチガチと震う。近飢ちかがつえに、冷い汗が垂々たらたらと身うちに流れる堪え難さ。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まくひじを曲げて手首から、垂々たらたらと血が流れるこぶしを握って、まなじりの切上った鋭い目にはッたと敵をにらんだが、打仰ぐ空次第に高く、鷲は早や光のない星のようになって消えた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不気味で投出そうとするとずるずるとすべって指のさきへ吸ついてぶらりと下った、その放れた指の尖から真赤な美しい血が垂々たらたらと出たから、吃驚びっくりして目の下へ指をつけてじっと見ると
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と見ると、あたり、胸へ掛けて、無慚むざんや、さっと赤くなって、垂々たらたらと血に染まった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
く息あたかもにじのごとしで、かッと鼬に吹掛ける。これとても、蜉蝣ぶゆを吸うような事ではござらん、かたのごとき大物をせしめるで、垂々たらたらと汗を流す。濡色が蒼黄色あおぎいろに夕日に光る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よだれを垂々たらたらと垂らしながら、しめた! とばかり、やにわに対手あいて玉将たいしょう引掴ひッつかむと、大きな口をへの字形じなりに結んで見ていたあかがおで、脊高せいたかの、胸の大きい禅門ぜんもんが、鉄梃かなてこのような親指で
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裸脱はだぬぎの背に汗を垂々たらたらと流したのが、ともしかすかに、首を暗夜やみ突込つっこむようにして
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宛如さながら、狂人、乱心のものと覚えたが、いまの気高い姿にも、あわてゝあとへ退かうとしないで、ひよろりとしながら前へ出る時、垂々たらたらと血のしたたるばかり抜刀ばっとうさえが、みゃくを打つてぎらりとして
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
違った! 空をつかんで苦しんでるので、咽喉のどから垂々たらたらと血が流れる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
垂々たらたらと血が流れた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)