いが)” の例文
「その男が見えなくなると、半次さんと助七さんが裏表から入って、いきなりいがみ合いを始めましたよ。あれは大笑いで、へッへッ」
このネオン横丁で、毎日のようにいがみ合っているのは、うちの人と女坂の旦那なんです。いつだかも、脅迫状なんかよこしましてね
ネオン横丁殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
風が波にっつかり、マストに突き当たり、リギンに切られて、泣きわめいた。海はその知らぬ底で大きく低く、長くいがんでいた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
自分とのいがみ合ひが無かつたのならば當然彼は土地の尋常科補習部を卒業したままで、靜かにその山村生活に入るべきであつたのである。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
歳太郎は黙っていたが、さすが子供のときからの友だちの前でいがみ合っている仲間を見られた極まり悪さに陰気になって考え込んでいた。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そのことでは「うごめくもの」時分よりもいっそう険悪ないがみ合いを、毎晩のように自分は繰返した。彼女の顔にも頭にも生疵なまきずが絶えなかった。
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
従って彼等は機会さえあると、公然といがみ合う事をはばからなかった。彼は勿論出来るだけ、こう云う争いを起させまいとした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「なあーんだ! ハッハッ愚にもつかないことでいい年をしながらいがみ合っているんだな——それにしても、君んところ、狭いのに大変ですね」
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかし、男にとって何が辛いと云って、阿母おふくろと細君とにいがみ合われるほど辛いことはないものだ。あれは鋸の歯の間で寝ているようなものだよ。
女のかりそめの娯楽をも邪慳じやけんに罪するやうな態度に出て、二人は絶間なく野獣同士のごといがみ合つた。凡てが悔恨といふのも言ひ足りなかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
だからその智謀の将たる点では、非常に相似ているものを持ちあいながら、この二人が、功名や地位を争っていがみあうようなことは少しもない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女の市場商人がいがみあひながら、罵る相手に蝲蛄ざりがにをつかんで投げつけてゐるのや、大露西亜人モスカーリが片手で自分の山羊髯をしごきながら、片手で……。
お島は父親が内へ入ってからも、暫く裏の植木畑のあたりを逍遥ぶらついていた。どうせここにいても、母親と毎日々々いがみあっていなければならない。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お重、お前とは好く喧嘩けんかばかりしたが、もう今まで通りいがみ合う機会も滅多めったにあるまい。さあ仲直りだ。握手しよう」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世間にはいがみ合うどらねじり合う銅鈸にょうばちのような騒々しいものを混えることに於て、かえって知音や友情が通じられる支那楽のような交際も無いことはない。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
酔いたいと思う私と酔うまいとする私とが、火と水とが叫ぶように、また神と悪魔とが戦うように、私の腹のどん底で噛み合い押し合いいがみ合うている。
赤い壺 (新字新仮名) / 種田山頭火(著)
おまけにうなり合ひ、いがみ合ふ声は、山々谷々をゆり動かし、足踏み鳴らすその響は地震と雷とを一緒くたにしたやうで、その恐ろしさといつたらありません。
悪魔の尾 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
先刻さっき精霊といがみ合っていた際、彼は頻りに啜り泣きをしていた。そのために彼の顔は今も涙で濡れていた。
そこから、殆んどまるで犬がかみ合つてゐるやうないがむやうなつかみかゝるやうな物音が聞えて來た。
それから両家がことごとにいがみあって、とんだ三面種を拵えるなんてことは今でも珍しくない。
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私は私の内部に絶えずせめぎ合い、いがみ合い、相反対し、相矛盾する多くの心を見出みいだすのである。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
しかし、女一人を中心に、男と男がいがみ合ひをするなんてことは、実にみつともないからな。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それらが互いに対峙たいじいがみ合って世界人類の平和と個人の平和とを破ることになります。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
長州人と我々とは、元治以来、犬と猿のようにいがみ合っているからな。長州征伐の時、幕府の軍勢が浪花を発向の節、軍陣の血祭に、七人の長州人を斬ったことがござるじゃろう。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「宅へきませう。宅の庭なら、幾ら貴方といがみ合つたつて構はないんですからね。」
ののしり、わめき、いがみ、あざけるのが、———太兵衛の如きは大声を上げてわいわいと泣いたりするのが、———みんな一人の小春を中心にしているところに、その女の美しさが異様に高められていた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
学校という一つの古臭いいじけた陰険な小さい争闘やいがみ合いの絶えない木造の大きな箱。その箱の中へ毎日自分達は通わなくてはならないのだ。随分やりきれない。ぐず/\してはいられない。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
むやみにいがみ合い、ケチをつけたがる風習の土地柄がある、たとえば、水戸の如きは、あれだけの家格と人物を持ちながら、到底一致することができない、奸党かんとうだ、正義派だ、結城ゆうきだ、藤田だと
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くろ潮とおや潮、そのしおがいがみあう大洋には濃い霧が乳色の層をつくっていた。蒸気船でさえ航行し兼ねると云う季節であった。そしてアメリカ人の無理に抵抗出来ず、彼らはムロランで下船した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
私達は詩と小説の食ひ違ひで会へば必ずいがみあつた。
牧野さんの死 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
すぐいがみ合つたり、惡口をつき合つたりします。
津軽地方とチエホフ (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
いがみあいが始まる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「その男が見えなくなると、半次さんと助七さんが裏表から入つて、いきなりいがみ合ひを始めましたよ。あれは大笑ひで、へツ/\」
子を造るまいと思ってきたのに——自然にはかなわないなあ!——ちょうど一年前「うごめくもの」という題でおせいとのみにくいがみ合いを書いたが
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
今日にかぎらず、この種のいがみあいとなると、いつも血をみるまではまなかった。だから近国の地頭や六波羅でさえ
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
網には蝲蛄ざりがにが二匹ひっかかっていたし、鯉も一尾網の中で光っていた。女たちは、どうやら喧嘩でもしているらしく、何かしきりにいがみあっている。
「三田先生を惜しがるのがいけないんなら、もっとどしどしほかに新鮮な先生を入れてくれればいいじゃないの。お祈りしちゃいがみ合っているなんて、それこそ矛盾ムジンしてる!」
海流 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
といふ皮肉な解釈を下したが、例の高木兼寛博士の説によると、日本人は英蘭の馬ではないが、麦飯さへ食つてれば、哲学を考へたり、女房といがみ合つたりするのに少しの不足も無いさうだ。
そして萬事につけ敵愾心てきがいしんを揷むに至つた。小さな村のことではあり、このことはいて一村内の平和にも關係を及ぼさうかといふ勢になつた。で、當の兩個ふたりは全く夢中になつていがみ合はざるを得ない。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
いがんでいた。そしてそのからだをやけに揺すぶっていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
元はと言えば門弟共のいがみ合いからであったが、互に若気の至り、引くに引かれぬ意地ずくになって、出逢いがしらに果し合いをしてしまったものだ。
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
危急を感じると、いがみ合っていたこの母子おやこは、忽ち一体となって、又八は急々せかせかと、老母ははの落着いているのを案じた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝の間だけは亭主とよくいがみあひをやつた、といふのは、朝だけは教父クームと顔をあはせることが間々あつたからで。
奥さんと、女中がいがみ合いの最中なのであった。
二十三番地 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
答「いや、何よりは足利自体の内訌ないこうです。股肱ここうの臣と臣とがいがみあい、骨肉の弟御おととご異母子いぼしまでが、みな主体にそむいてわが身をわが歯でいはじめました」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎とは同年輩ですが、顏を合せると競爭意識が燃え上がるらしく、番毎犬と猿のやうにいがみ合ひますが、平次が側にゐるとさすがに端たなくも振舞へません。
塀隣のくせに、年中いがみ合いの喧嘩でさ、もっとも巴屋さんが金に飽かして桶甚の家屋敷を買おうとしても、旋毛つむじを曲げて動かないのが喧嘩のもとなんだそうで——
従って、上野介も、この夫人に対しては、猫のように頭が上がらないのである。——この三月以前迄は、少くも、夫人といがみ合う事などはなかったと云ってよい。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、平野屋の若旦那をり合って、事毎にいがみ合って居たことは、町内で知らない者は無いぜ」
ぼくらに国境感はなく、めったにいがみ合いはしなかった。けれど、小うるさいからかい方をしたり、小国的な悪戯いたずらをよろこぶ風は、どうもぼくらの方にあったらしい。