咽喉いんこう)” の例文
何はともかく、本土に近い海路の咽喉いんこう岡崎の港——撫養むや街道を駆けぬけて周馬を追い越し、そこできゃつを引っ捕えなければならぬ。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さうだね。」諧謔作家は咽喉いんこうを締められた鴎のやうな声を出した。「小さくつていゝから、島を一つもつて来てくれ。」
元來ぐわんらい咽喉いんこうがいしてゐたわたくしは、手巾ハンケチかほてるひまさへなく、このけむり滿面まんめんびせられたおかげで、ほとんどいきもつけないほどきこまなければならなかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ゆうべの昌平橋は雑沓ざっとうする。内神田の咽喉いんこうやくしている、ここの狭隘きょうあいに、おりおり捲き起される冷たいほこりを浴びて、影のような群集ぐんじゅせわしげにれ違っている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
検屍官は更にテーブルのはしへ廻って、死体のあごから頭の上にかかっている絹のハンカチーフを取りはずすと、咽喉いんこうがどうなっているかということがあらわれた。
役員や待合の若い子息むすこに、耳鼻咽喉いんこうの医師、煙草屋たばこやの二男に酒屋の主人など、予備の中年者も多かった。地廻りの不良も召集され、運転士も幾人か出て行った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これ開平かいへいの東北の地なり。時に余瑱よてん居庸関きょようかんを守る。王曰く、居庸は険隘けんあいにして、北平の咽喉いんこう也、敵ここるは、れ我がはいつなり、急に取らざる可からずと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
咽喉いんこうを害し睡眠を妨げられるばかりでなく、しだいに視力さえも薄れてくるのだから、自然そうした瘴気しょうきに抵抗力の強い大型な黄金こがね虫ややすでやむかで、あるいは
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼の咽喉いんこう部に向って突貫をやるです、この手断しゅだんをやればどんな犬でも驚鳴敗走再び近寄っては来ません、この手断を覚てから犬に対する恐怖心全くなくなりました
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
地ハ三陸二羽ノ咽喉いんこうヲ占メ、百貨輻湊ふくそうシ、東京以北ノ一都会タリ。昨春兵燹へいせんニ係リ闔駅蕩然こうえきとうぜんタリ。今往往土木ヲ興ス。然レドモイマダク前日ノ三分ノ二ニ復セズ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここを占有しているドイツは東洋の咽喉いんこうやくしているようなものだという意味を婉曲に匂わせながら聴衆の中に交じっている日本留学生の自分の顔を見てにこにこした。
ベルリン大学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夫は感冒予防のうがいをしろと云って、わざと度の強い過酸化水素水をこしらえて、それで始終彼女に嗽いをさせていました。そのために彼女は咽喉いんこうカタールを起していたのです。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
被害者の咽喉いんこう部にありしという、しめつけられたるごとき負傷は、自動車の衝突によりて自然に生じたるものとは絶対に信じ難い、車内にてかかる性質の傷を受くる可能性なければなり
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ために平素往々うれうる所の、扁桃腺炎へんとうせんえんを誘起し、体温上昇し咽喉いんこうふさがりて、湯水ゆみずも通ずること能わず、病褥びょうじょく呻吟しんぎんすること旬余日、僅かに手療治てりょうじ位にて幸に平癒へいゆせんとしつつありしが
果たしてしからば、その声は、もとより唇舌の間に発するものにあらずして、多分咽喉いんこうの辺りより発するものなるべければ、これを聴きてその位置を指定し難きも、もとより当然のこととす。
西蝦夷の生命をささえる咽喉いんこうにあたっていた。従って、大きくまとまった取引きはこの地に来なければらちがあかないのだ。そこに慇懃いんぎんを通じなければ糧米をととのえることが出来ないのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくいしばり、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶くもんうめきをらした。りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうやくしていたのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
『それはね、魔薬をかけたあとで入歯が咽喉いんこうに入ると危いから——。』
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
識らず咽喉いんこう形勢けいせいの地
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すなわち要道の咽喉いんこうたる街亭附近の地図をひろげ、地形陣取りの法をくわしく説き、決して、進んで長安を攻めとると考えるな。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たま/\北辺に寇警こうけいありしを機とし、防辺を名となし、燕藩の護衛の兵を調してさいでしめ、其の羽翼うよくを去りて、其の咽喉いんこうやくせんとし、すなわ工部侍郎こうぶじろう張昺ちょうへいをもて北平左布政使ほくへいさふせいしとなし
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その後間もなく市政のかれたこの町は、太平洋に突き出た牡鹿おじか半島の咽喉いんこうやくし、仙台湾に注ぐ北上河きたかみがわの河口に臨んだ物資の集散地で、鉄道輸送の開ける前は、海と河との水運により
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
死因に関しては前頭部の後方の打撲だぼく傷による内出血説と咽喉いんこう部を強くしめつけられたための窒息致死説との二つの説にわかれ、どちらが先に行われたかわからないということになり、多分、何者かが
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「京にはいるか。止まって、大津の咽喉いんこうを抑え、徐々、包囲をちぢめて網の大魚を完全に捕るか」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
形勢はまさに大津の咽喉いんこうやくし、京都に入り、淀川に待って、大坂石山の本願寺、その他と呼応して、信長を一挙に、その間でほふり去ってしまおうとする作戦かに見られる——
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「小沛は徐州の咽喉いんこうだ。自身参って、防ぎ支えねばならん」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそこは越前から京都へ通ずる咽喉いんこうの要地であった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)