半歳はんとし)” の例文
このまあ半歳はんとしばかりの間、俺は一体何をして居たらう……ホ……十日も十五日も真実ほんたうにボンヤリして孤坐すわつてたことが有るんだよ
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
半歳はんとしでも、ひとつふすまに寝た女というものには、どうにもならない強味が向うにあるような気持さえ、その後では起こってくるのであった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わず半歳はんとしあまりにこのように人家の密集する都市の膨脹力ぼうちょうりょくを思うと、半歳の間の日本の変化も実はこれと同じにちがいないと梶は思って驚いた。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
自分達の先輩であり恩師にあたる津田白亭つだはくてい半歳はんとし程前にこの岳陰荘を買入れた事、最近川口と二人で岳陰荘の使用を白亭に願い出たところが快く承諾を得たので
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
現に半歳はんとしほど前にも植木屋の辰五郎の女房——あの殺されたお滝ですが、——あの女と妙な噂を立てられ、殺すの生かすのとと騒動をしたばかりでございます。
「おすまさんもまんざら悪くもなければこそこうして四年もいたのだから、あの人の顔を立てて半歳はんとしの間はどんな好い縁談はなしがあっても嫁かないようにして下さい」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
しゅうとはそうもなかったのですが、しゅうとめがよほどつかえにくい人でして、実は私の前に、嫁に来た婦人ひとがあったのですが、半歳はんとし足らずの間に、逃げて帰ったということで
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其れも余り軽蔑けいべつした仕方と思つたからこそ、君を媒酌人ばいしやくにんと云ふことに頼んだのだ、最早もう彼此かれこれ半歳はんとしにもなるぞ、同僚などから何時式を挙げると聞かれるので、其の都度つど
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
草をむしれ、馬鈴薯じゃがいもを掘れ、貝を突け、で、焦げつくやうな炎天、よる毒蛇どくじゃきり毒虫どくむしもやの中を、むち打ち鞭打ち、こき使はれて、三月みつき半歳はんとし、一年と云ふうちには、大方死んで
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
半歳はんとしちかくたって、或日の朝重吉はいつものように寐坊ねぼうな女を二階へ置いたまま、事務所への出がけ、独り上框あがりがまちで靴をはいていると、その鼻先へ郵便脚夫きゃくふが雑誌のような印刷物二
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから半歳はんとし余りたった頃、また周丹泉が唐太常をおとずれた。そして丹泉は意気安閑として、過ぐる日の礼を述べた後、「御秘蔵のと同じような白定鼎をそれがしも手に入れました」
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
和尚さんはかつて行っていた伊勢いせの話を得意になって話し出した。主僧は早稲田を出てから半歳はんとしばかりして、伊勢の一身田いしんでんの専修寺の中学校に英語国語の教師として雇われて二年ほどいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
満洲事変や上海シャンハイ事変の、真唯中まっただなかこそ、高射砲や、愛国号の献金をしたが、半歳はんとし、一年と、月日が経つに従って、興奮からめてきた。帝都の防空施設は、不徹底のままに、ほうり出されてあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
言いなり次第になって半歳はんとしも然うして居たんですよ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
半歳はんとしの後、彼は郷里の南部なんぶで死んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ええもう半歳はんとしと少しになります」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
半歳はんとしか、一年くらい」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
半歳はんとしたった。或日——
今度こそ (新字新仮名) / 片岡鉄兵(著)
思わずお民は時を送った。生まれて半歳はんとしばかりにしかならないような若い猫の愛らしさに気を取られて、しばらく彼女も客人のことなぞを忘れていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……私はこうしてあんたに逢うのも、何度もいうとおり、去年の一月からちょうど一年と半歳はんとしぶりだ。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「隠すな、お前はお滝と変なうわさを立てられて、ひと騒ぎしたのはツイ半歳はんとし前のことじゃないか」
くさむしれ、馬鈴薯じやがいもれ、かひけ、で、げつくやうな炎天えんてんよる毒蛇どくじやきり毒蟲どくむしもやなかを、鞭打むちう鞭打むちうち、こき使つかはれて、三月みつき半歳はんとし一年いちねんうちには、大方おほかたんで
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
去就出没常ならず。さればおかみにては一度ひとたび芸者の鑑札返上致せしものには半歳はんとしを経ざれば再びこれをげ渡さざるの制を設くといふ。けだし役人衆の繁忙を防がんがためなるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこを闡明せんめいして天下をえきしてくれるほどな人は、御身をいて他にはない。伊勢守は、実は非常なよろこびを以て、この半歳はんとしを送っていたのでござる。——わたくしからかくの通りお願いする
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉子は間もなく学校をめて神戸の方へ帰って行ったから、この婦人との親しみは半歳はんとしとは続かなかったが、神戸から一二度手紙をもらったことを思出した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それで今急にどうするということも出来んさかい、ここ半歳はんとしか一年待っていてもらいたい。その間に好いおりがあったらまたこちらから手紙を出すか、話をするかするさかい……
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「それは、無理です、半歳はんとしの乳のみ児では、ものをいうはずがありません」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私はおつかさんの側には半歳はんとししか居ません。ホラ、叔父さんのとこから電報をよこして下すつたでせう。あの時はおつかさんは私を離したくないやうな風でしたけれど……」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ウム。いろんなことを執固しつこく聞いては、それを焼き焼きしたねえ。それでもあの年三月うちを持って、半歳はんとしばかりそうであった、が秋になって、蒲生がもうさんの借家うちに行った時分から止んだねえ」
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「——ああせめて、もう半歳はんとしも竹中半兵衛が生きていたら」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋本のお種が娘お仙を連れて上京するという報知しらせが、正太の家の方へ来た。半歳はんとしも考えて旅に出る人のように、いよいよお種が故郷をつと言ってよこしたのは、七月下旬に入ってからのことであった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ええ、ちょっと半歳はんとしほどになります」
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
いずれも半歳はんとし余を一緒に高輪で暮した記念として分けた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)