区々まちまち)” の例文
旧字:區々
女達はいずれも誘拐されてきた者と見え、衣服も髪かたちも区々まちまちであったが、みんな眼を泣腫なきはらして、ぶるぶるふるえている様子だった。
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その言語調子もまた分類の出来んくらい区々まちまちであるが一日二十四時間のうち二十三時間五十五分までは皆意味のある言葉を使っている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誠に惜しまれるのは尚順男しょうじゅんだんの運命であります。報道が区々まちまちでよく分りませんが、ともかく戦禍のため一家全滅された由を聞きます。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
御茶の子の材料は区々まちまちである。なべに残った前夜の飯の余りを食う場合もあるが、東日本では普通そのために焼餅やきもちというものがある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、彼への尊敬が一致している点で、従来、異論区々まちまちにもつれやすかった十人衆制度も、たいがい宗易の意見でぴたとおさまっていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後世これを解くにその説区々まちまちで、中にはローマで牝狼をも下等娼妓をも同名で呼んだから実は下等の売淫女に養育されたんだと言った人もある
美成の歿した時のよわいを六十七歳とすると、抽斎より長ずること八歳であっただろう。しかし諸書の記載が区々まちまちになっていて、たしかには定めがたい。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いろいろ経済的救済法あるいは社会改良法など区々まちまちに行われているが、なお最後の解決よりははるかにへだたっておることは誰しも感ずることである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ましてや我々どもの服はいよいよ区々まちまちで、私はこの上京後新調したモーニングを着ていた。今日と違って、宮内省辺りでもそれに何らの干渉もなかった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
諸説区々まちまちと云う有様で確かに斯うと断言は出来ませんが、私の最も確実と云うのは此の塔を建てた時代が丁度閣竜英くろんうぇるの革命の時で有っただろうと思います
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
尚目撃者の談によれば、第七ミユキ丸より下船せる数名(二名三名四名五名、目撃者の談区々まちまちにして判じがたけれども、三名以上四名ほどという者最も多し)
復員殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
係りの役人にも意見は区々まちまちでしたが、何分本当の下手人が現れなければ、佐吉を下手人と見るのが当時の調べの行き方で、こればかりは如何いかんともなりません。
評定区々まちまちな我々の肩を叩いて、「贅沢ぜいたく言うなよ、罰当りどもめ!」と水雷長のスティンゲル大尉が嘆笑した。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
同じく科学者と称する人々の中でも各自の専門に応じて地震というものの対象がかくのごとく区々まちまちである。
地震雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
発見された死体の状態の記述がこのように区々まちまちである以上、たとい死体がマリーであることに疑ないとしても、彼女がどんな風な殺され方をしたかということを
最初倫敦と紐育に達した報知は区々まちまちで、且つ正反対の電報が同時に這入ったりして大いに魔誤付かせた。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
京城の日本軍では、いよいよ明軍来がたしかになったので、誰を先手の将とするか詮議区々まちまちである。隆景進み出て云う様、この大役は立花左近将監宗茂こそ適役である。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
思い切って区々まちまちであったところから、昔、信玄公が勝千代時分に、畳に二畳敷ばかりもはまぐりを積み上げて、さて家中かちゅうの諸士に向い、この数は何程あらん当ててみよと
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その言うところ区々まちまちではあるが、要するに仏法に通じた修行者の名で、尊敬すべき称号である。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
自決の模様については、うわさ区々まちまちで、薬品だともいえば、刃物だとも言い、房州通いの蒸汽船から海へ飛びこんだともいわれ、確実なことは不思議に誰にも判らなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
露西亜から日本に送ったのであろうなどゝ評議区々まちまちなりしとう。当時クリミヤ戦争の当分ではあるし、元来がんらい英吉利イギリスと露西亜との間柄は犬と猿のようで、相互あいたがいに色々な猜疑心さいぎしんがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし、それにしても様子がおかしいというので、評議が区々まちまちになっていたが、あくる朝を待ちかねて人々が、荒物屋に集まってみると、果して、事件の真相が詳しく新聞に出ていた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さうして、それはの梟娘が蛇体じゃたいに変じたのであらうと伝へられた。しかし彼女は最初からの蛇体であるのか、あるひは入水じゅすいのち龍蛇りゅうだと変じたのか、その議論は区々まちまちついに決着しなかつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その言う神さんが別々ですから四人の言う事が区々まちまちになって違う事がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
御覧の通、年配も区々まちまち
しかし日本は地方の事情は区々まちまちで、或る土地でつとに改めてしまったものを、まだ他の土地ではしばらく残していたという例が幸いにして多い。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
集まった諸洞の大将連は、その風俗服装、武器馬具、ほとんど区々まちまちで、怪異絢爛かいいけんらんを極めた。孟獲はその中に立って、向後こうごの作戦方針をのべた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その原因については諸大家の学説区々まちまちで今に落着せぬ(大正二年版『ゼ・ブリタニカ・イヤー・ブック』一六〇頁)。
半井広明はやむことをえず、こういう口上こうじょうを以て『医心方』を出した。外題げだいは同じであるが、筆者区々まちまちになっていて、誤脱多く、はなはだ疑わしき麤巻そかんである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
勿論僕は愛用したが、一杯十五銭だったり、十七銭だったり、日によってその時の仕入れ値段で区々まちまちだったが、東京から来る友達は顔をしかめて飲んでいる。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いわば色々な立場があって、色々なものが集っているのです。美術館が大きくなり、館員が増すにつれ、ますます見方が区々まちまちで統一を保つことが困難なのです。
日本民芸館について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それから先が肝心かんじんの善後策になった。しかしそこへ来ると意見が区々まちまちで、容易にまとまらなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは祝言を唱え歌舞を奏して合力を受け、さらにその一部の者は遊芸売笑の賤しきにつくことも辞さなかったために、その名称も区々まちまちになり、かついろいろの宛て字ができて
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
しかしてその区々まちまちな表現の価値を定めるものも科学の場合とは無論一様でない。
この続けざまな不祥の出来事に、宿にいる人たちの評判は区々まちまちです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
北伊勢八郡の兵は、みな城主山路弾正やまじだんじょうの手足だったが、城内との聯絡が取れないため、その力は区々まちまちに分裂されてしまった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これに対して生活機構の複雑になった社会では、原因動機が区々まちまちになっているから、そう簡単に地名を理解することができぬのも当り前である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
結局坊主はホーゼを渡したかどうか? そのことは村人も各々の想像を働かすだけで区々まちまちである。
禅僧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ありの穴を蹴返けかえしたごとくに散り散りに乱れて前面の傾斜をじ登る。見渡す山腹は敵の敷いた鉄条網で足をるる余地もない。ところを梯子はしごにな土嚢どのう背負しょって区々まちまちに通り抜ける。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今の工藝界を見る時、いかに方向が区々まちまちであるか。そこにはなんらの統一がない。ある者は天平てんぴょうの模倣に一生を献げる。ある者は伝統の無視に専念かかる。ある者は折衷の工案に腐心する。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
藩論区々まちまちにわかれ、武官文官の抗争があり、それに閨閥けいばつや党派の対立もからまって、荊州は今や未曾有な動揺をその内部に蔵していたからである。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またハシバというも同じ由来を有するものかと思うが、文字は区々まちまちで、飯場または飯立場と書いたものが最も多い。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
全く意見は区々まちまちだつた。
逃げたい心 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「はて?」と、怪しんだり、或いは、孔明の大仁に服して、みな戦場を捨てて洞へ帰ってしまったのではないか、などと私語しご区々まちまちであったが、孔明は
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その結果としてある一つの時代の横断面には、新旧年齢のきわめて区々まちまちなる、命名の趣旨の最も著しく相異した地名が、入り組んで頭を出しているのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「何かきょうも、お奥では、御一族と老臣方だけで、御評議があった。しかし相かわらず、和戦区々まちまちらしい」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
用途が区々まちまちであり記憶と想像との必要が多かったために、はやく名詞を生じ、またややおくれて形容詞化した。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただ人間が彼等の存在に注意し始めた機会が区々まちまちであって、こうして私のように昭和の時代に入ってようやくこの一つの生活に美しい意義を見出した者さえあるのである。
呉では、この交渉をうけて、諸論区々まちまちにわかれた。ある者は、過日の関羽の無礼をなお憤っていて
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このため、時刻はさらに延びて、評議区々まちまちのうちに、遠く川中島方面に、銃声が聞える。鬨の声があがる、霧に代わって濛々と馬けむりが立ちこめているかに望まれる。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)