使役しえき)” の例文
犬与力、犬同心などの役職をおき、その下に、お犬仲間ちゅうげん百余名を使役しえきして、この中野に一大犬舎けんしゃを新設し、数千頭を飼育しているのである。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或る人の最初の最も鮮かな記憶といふものは、その人の暗い一生のもとに、暗く使役しえきされた暗い感情の、逸早いちはやく現はれたものであるかも知れぬ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
大きな気狂が金力や威力を濫用らんようして多くの小気狂しょうきちがい使役しえきして乱暴を働いて、人から立派な男だと云われている例は少なくない。何が何だか分らなくなった
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうど、ここからると、あの太陽たいようしずむ、渦巻うずまほのおのようなくもしただ。そのしまくと、三にんはひどいめにあった。あさからばんまで、獣物けもののように使役しえきされた。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
鶴見造船などの使役しえきに行く連中で、この界隈を、毎日のように通るので馴れっ子になっているが、山手に住んでいる柚子には、この感覚は斬新ざんしんらしく、文庫本から顔をあげて
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その上悪いことには、昼間の当直でないときは、彼等は皆、壕掘りに使役しえきされていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
勘次かんじつかれた身體からだ餘念よねんなく使役しえきした。は三にんそらいたゞいてせまむしろあかすのには、わづかでもその身體からだあたゝめる消滅せうめつしてたのである。三にんそのみなみいへみちびかれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しか諸名家しよめいか菊塢きくう無祝儀むしゆうぎ取巻とりまき同様どうやうにするあひだに、菊塢きくうはまた諸名家しよめいか無謝儀むしやぎにて使役しえきせしなり、聞人もんじんといふものはいつの世にても我儘わがまゝ高慢かうまんぜにつかはぬくせに、大面おほづらで悪く依怙地えこぢ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
というのは、見張りにでも使役しえきにでもいつでも活溌な態度で用意ができていなくてはならないのです。その中隊長は、ゆうべ、当番兵が義務を果たしているかどうか、調べようと思いました。
流刑地で (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
適宜てきぎ使役しえきするつもりだ。家僕かぼくとして、日本人はなかなかよくつとめる」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
火山かざんかんする迷信めいしんがこのように國民こくみん腦裡のうり支配しはいしてゐるあひだ學問がくもんまつた進歩しんぽしなかつたのは當然とうぜんである。むかし雷公らいこう今日こんにち我々われ/\忠實ちゆうじつ使役しえきをなすのに、火山かざんかみのみ頑固がんこにおはすべきはずがない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
国賊として使役しえきせられたる身の、一時間内に忠君愛国の人となりて、大赦令の恩典に浴せんとは、さても不思議の有様かな、人生まぼろしの如しとは、そもやがいいそめけんと一時いちじはただ茫然ぼうぜんたりしが
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
天狐は九尾で金色で、日月宮に使役しえきされているのであるという。
そして彼に使役しえきされた人間が町へもどると、口をそろえてみな彼の偉さを吹聴ふいちょうし、彼のすがたを見るところでは、どこの占領治下の地でも、みな彼を自分たちの家長のように親しんでいる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)