人力じんりき)” の例文
その名千代香ちよかは女学生か看護婦の引越同様、わけもなく表の車屋を呼んで来て、柳行李やなぎごうりに風呂敷包、それに鏡台一つを人力じんりきに積ませ
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから人力じんりきにゆられて夜ふけの日比谷御門ひびやごもんをぬけ、暗いさびしい寒い練兵場わきの濠端ほりばたを抜けて中六番町なかろくばんちょうの住み家へ帰って行った。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さて新道が出来ると人力じんりきが通る。荷車は干魚ほしうをなどを積んで通る。郵便脚夫きやくふが走る。後には乗合馬車のりあひばしやが通り、新発田しばたの第十六聯隊れんたいも通つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
まだ馬車もなく電車は無論のこと、人力じんりきに乗るなど贅沢ぜいたく生計くらしではないので、てくてく四谷から、何か重そうなものを背負わされて戻った。
勇ましくけて来た二ちょう人力じんりきがまた追い越すのかと思ったら、大仏を横に見て、西洋軒のなかに掛声ながら引き込んだ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そも/\此そりといふ物、雪国第一の用具。人力じんりきたすくる事船と車におなじく、そのうへつくる事最易いとやすきはを見て知るべし。
それから毎日、一雄はお医者さまからくれた青い眼がねをかけて、おばあさんと二人——まだ電車のない時分でしたから——合乗あいのり人力じんりきで、眼科の病院へ通いました。
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「輪タク……おどかすない。あんなもん、貴様にできたらおなぐさみだ。おれも人力じんりきを挽いたことはあるが、腕力をあんな風に使うのは損だ、どうだ、ひとつ、面白い商売を教えようか?」
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
いたいたしくやせほそりたるの母の人力じんりき車にのるをながめたるかも
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
見附みつけはひつて、牛込うしごめから、飯田町いひだまちまがるあたりの帳場ちやうばに、(人力じんりき)を附着くツつけて、一寸ちよつとふん)のかたちにしたのに、くるまをつくりにへて、おほきく一字いちじにした横看板よこかんばんを、とほりがかりにて、それを先生せんせい
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
酒肴さけさかなあつらえ、一杯って居りながら考えましたが、これから先人力じんりきを雇ってきたいが、此の宿屋から雇って貰っては、足が附いてはならんからと一人で飛出し、途中から知れん車夫くるまやを連れてまいり
何もく旅でもなしいっそ人力じんりきで五十三次も面白かろうと、トウトウそれときまってからかれこれ一月のはてを車の上
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そも/\此そりといふ物、雪国第一の用具。人力じんりきたすくる事船と車におなじく、そのうへつくる事最易いとやすきはを見て知るべし。
時々門前を人力じんりきが通るが、通り過ぎたあとは一段と淋しい。わが決心と云い、わが意気と云い台所の光景と云い、四辺しへん寂寞せきばくと云い、全体の感じがことごとく悲壮である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これはけろといふ合図に相違ないから、父は当然避けるだらうとおもつてゐると依然として避けない。その刹那せつなにどしんといふ音がして人力じんりき梶棒かぢぼうがいきなり僕の尻のところに突当つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
動物園の前に大口あいて立つ田舎漢いなかもの、乗車をすゝむる人力じんりき、イラッシャイを叫ぶ茶店の女など並ぶるはくだなり。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
呼ばれた本人は、知らぬに、来る人をけて早足に行く。抜きくらをして飛んで来た二りょう人力じんりきさえぎられて、間はますます遠くなる。宗近むねちか君は胸を出してけ出した。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此雪を取除とりのけんとするには人力じんりき銭財せんざいとをつひやすゆゑ、寸導せめてだんを作りてみちひらく也。そも/\初雪より歳を越て雪きゆるまでの事を繁細はんさいに記さば小冊にはつくしがたし、ゆゑにはぶきてしるさゞる事甚多し。
いよいよ東京を立って横浜よこはままでは汽車で行ったが、当時それから西はもう鉄道はなかったので、汽船で神戸こうべまで行くか人力じんりきで京都まで行くほかはなかった。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
残る一つの「鞍上あんじょう」はちょっとわれわれに縁が遠い。これに代わるべき人力じんりきや自動車も少なくも東京市中ではあまり落ち着いた気分を養うには適しないようである。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
会場の入口には自動車や人力じんりきが群がって、西洋人や、立派な服装をした人達が流れ込んでいた。玄関から狭い廊下をくぐって案内された座席は舞台の真正面であった。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
引きちがえて入り来る西洋人のたけ低く顔のたけも著しく短きが赤き顔にこればかり立派なるひげひねりながら煙草を人力じんりきに買わせて向側のプラットフォームに腰をかけ煙草取り出して鬚を
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
西郷の銅像の後ろから黒門くろもんの前へぬけて動物園の方へ曲ると外国の水兵が人力じんりきと何か八釜やかましく云ってぶみをしていたが話がまとまらなかったと見えて間もなく商品陳列所の方へ行ってしまった。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)