鳥屋とや)” の例文
ちょうど囲炉裏の方には人もいないのを見すまし、土間の壁の上に高く造りつけてある鶏の鳥屋とやまで見上げて、それから切り出した。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると、ふいに、鳥屋とやのなかで、一羽の鵞鳥がけたゝましく鳴いたかと思ふと、たくさんの鵞鳥がいちどに、があがあ鳴きだしました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
室へ帰る時、二階へ通う梯子段はしごだんの下の土間どまを通ったら、鳥屋とやの中で鶏がカサコソとまだ寝付かれぬらしく、ククーと淋しげに鳴いていた。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
二十間ばかり東に離れて山腹を切り取った一坪位の平にならされた所に、栂の枝で造ったいたって無造作な猟師の鳥屋とやのようなものが立っていた。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
鳥屋とやは別当が薄井の爺さんにことわって、縁の下を為切しきってこしらえて、入口には板切と割竹とを互違たがいちがいに打ち附けた、不細工な格子戸をめた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
庭に遊んでゐる鶴を夕方になると鳥屋とやに追ひ込まなければならない仕事を青野は稍ともすれば口癖にして煩さがつてゐた。
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
うまや鳥屋とやといっしょにあった。牝鶏めんどりの馬を評する語に、——あれは鶏鳴ときをつくる事も、鶏卵たまごを生む事も知らぬとあったそうだ。もっともである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いやな野郎だな——とにかく、あの老爺おやじ鳥屋とやにつくまで、後を跟けてみるがいい。とんだ草臥儲くたびれもうけかも知れないが」
とり鳥屋とやへ追い込むときの手加減で双方から等分に詰めかけないと、大切だいじのところでパッと舞い立ってしまうのらしい。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
東が白むと万作一家三人すぐと起きて、霞が浦の水掬いあげて顔を洗って、日輪さまを拝んで、それから鳥屋とやを明けて鶩を出してやるのがお光の役で
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
また、銀鴨一羽取りて(兼ねて鳥屋とや内に置く)参進して葉柯ようかに附くとあり。これは銀製の鴨を余興にまいらせたと見ゆ。
また一族では、甥の鬼五郎助高をはじめ、鳥屋とや彦七、宇田川義直よしただ左摩さま大八、荒木宗行むねゆき、それに家職の車尾丹玄くるまおたんげんなどを加えても十五人にみたなかった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてかすみ網を張るために設けられた鳥屋とやは、鞍部の一角、奥南岳に寄った小高い場所に、森閑の象徴をらして静まりかえっていた。われわれの求めていた安息所もこれだった。
二つの松川 (新字新仮名) / 細井吉造(著)
夏もやや鳥屋とや外面とのもの照りつよし雛鶏がかける突きころぶかに
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
髪ゆふべ孔雀の鳥屋とや横雨よこあめのそそぐをわぶる乱れと云ひぬ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
頂上は風が強く笹がちで鳥屋とやの跡などがある。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鳥が来てから鳥屋とやを作ったり
二十三番地 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もとより鳥屋とやのものなれど
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
玉子は鳥屋とやから
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
玉子は鳥屋とやから
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
猟の事、鳥屋とや
鳥屋とや小鳥ことりるためにつくつてある小屋こやのことです。何方どつちいてもやまばかりのやうなところに、その小屋こやてゝあります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まだ縁の下の鳥屋とやの出来ない内に寝かしたことのある、台所の土間の上の棚がわらいたままになっていた。白い牝鶏はその上に上がっている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
斯んな薄暗がりの鳥屋とやのやうな屋根裏で、鴉の羽音に驚いて奇声をあげたり、脚踏みをする鳥共の中で、むつくりとしてゐる私の有様は啄木鳥キツツキとも木兎とも云ひやうもなく
剥製 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
相撲あひうつ肉の音、絶叫、悲鳴、それは闇の鳥屋とやの中へ棒を入れて掻き廻すやうな騷ぎでした。
れはててむなしき鳥屋とやの葡萄棚葡萄の房は垂りそめにけり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
かげにかくるゝ鳥屋とやにして
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
鳥屋とやれる小鳥ことりは、一朝ひとあさに六十や七十ではきかないとひました。この小鳥ことりれるころには、むら子供こどもはそろ/\猿羽織さるばおりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
相撲あいうつ肉の音、絶叫、悲鳴、それは闇の鳥屋とやの中へ棒を入れて掻き廻すような騒ぎでした。
宵闇の層が水の上に接して池の在所が判別しにくくなるまでの凡そ三十分間ばかりの間は、鳥屋とやの扉の蔭に蝙蝠のやうに身を潜めながら鼬の襲来に警備の構へを保たなければならなかつた。
鵞鳥の家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
れはててむなしき鳥屋とやの葡萄棚葡萄の房は垂りそめにけり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鳥屋とやよりひろゆるかな
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
鳥屋とやれる小鳥ことりはこんなふうにしてあみにかゝりますが、小鳥ことりをびつくりさせたのはほかのものでもりません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
梨の棚あをきすはえに照る月の光しづもり鳥屋とやの戸も見ゆ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
木曾では鳥屋とやの小鳥もれ、きのこの種類も多くあるころで、旅人をもてなすには最もよい季節を迎えていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
梨の棚あをきすはえに照る月の光しづもり鳥屋とやの戸も見ゆ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
弓をやるじゃなし、鳥屋とやに凝るじゃなし、暇さえあれば机に向かって本を読んでばかり。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
え白らみたる鳥屋とやの外に交接つがへるとりをうち目守まもる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちょうど鳥屋とやのさかりのころで、木曾名物の小鳥でも焼こうと言ってくれるのもそこの主人だ。鳥居峠のつぐみは名高い。鶫ばかりでなく、裏山には駒鳥こまどり山郭公やまほととぎすの声がきかれる。仏法僧ぶっぽうそうも来て鳴く。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夕土間の鳥屋とやのはしごにいる鳥七面鳥は肩高く見ゆ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)