高塀たかべい)” の例文
「どうも上方流かみがたりゅうで余計な所に高塀たかべいなんか築きあげて、陰気いんきで困っちまいます。そのかわり二階はあります。ちょっとあがって御覧なさい」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
松平下総守しもうさのかみ様の高塀たかべいが三味線堀のさざなみに揺れて、夜露に翼を光らせたぬれ燕が、つうっ、ついと白い腹をひらめかせている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いとゞ寒さのきびしきに、雪の都の高塀たかべいの、日影ひかげもらさぬ石牢いしらうに、しとねもあらぬ板の間に、こゞえちゞみつ苦しまん、友をおもへばたゞ涙
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わたしは余り不意だったため、お父さんの姿を見るが早いか、相手の曲者くせものを突き放したなり、高塀たかべいの外へ逃げてしまいました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
取って同門人に配っていました、高塀たかべいの上を渡って柿の木へとび移って取るのです、この頃は柿がなくなったものだから、屋根へあがって雀を
みずぐるま (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あえて女だてらに屋根や高塀たかべい伝いの離れわざをしたのでもなく、また変幻自在へんげんじざいしのびのわざろうしたのでもない、明々白々と、裸体はだかになっているのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太鼓たいこおとの、のびやかなあたりを、早足はやあしいそいでかへるのに、途中とちうはしわたつてきしちがつて、石垣いしがきつゞきの高塀たかべいについて、つかりさうにおほきくろもんた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
四人が、声のした高塀たかべいの上へ目をあげると、なんというふしぎ、塀をのり越えて八木音松が下りて来た。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
高塀たかべいに圍まれた裏口で、三尺の潜戸はかまち寄りの薄板を三寸四方ほど鋭利な刄物で切拔かれ、其處から手を差込んで、易々と輪鍵を外し、さんを拔いて潜戸を開けた樣子は
横町よこちょうに十四五間の高塀たかべいが有りまして、九尺くしゃくの所に内玄関ないげんかんとなえまする所があります。
脱獄のシーンに現われる二重の高塀たかべいの描く単純で力強い並行線のパースペクチヴ。牢屋ろうやや留置場の窓の鉄格子てつごうし、工場の窓の十字格子。終わりに近く映出される丸箱に入った蓄音機の幾何学的整列。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これを樽入たるいれ、笊転ざるころがしなどといって、そっと背戸口せどぐちからからの容器を持込もちこみ、知らぬ間に持って行くのが普通だったが、或いは竿さおのさきに樽をわえて、高塀たかべいの外からぶら下げるという例も多く
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
熱田あつた太神宮のお札は蓬莱屋ほうらいやの庭の椿つばきの枝へも降り、伏見屋の表格子おもてごうしの内へも降り、梅屋の裏座敷の庭先にある高塀たかべいの上へも降った。まだそのほかに、八幡宮のお札の降ったところが二か所もある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兵営へいえい高塀たかべい歩哨ほせう銃剣じゅうけんとはおたがひ連絡れんらくってしまった
赤煉瓦あかれんぐわ遠くつづける高塀たかべい
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
どういう役のひとかは知らなかったが、正二郎というひとり息子がいて、高塀たかべいの裏の木戸から出て来ておなつと遊んだ。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むくの大木の梢から丈余の高塀たかべいを跳び越えて、切支丹屋敷の中へ紛れ込んでしまったのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大なる高塀たかべいで厳重に取囲とりかこまれてあるから、敵が攻めて来ても籠城ろうじょうして居るにはごく都合がよく出来て居るに拘わらず、そのうちに水の出る所のないというのは実に奇態きたいな訳です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
三階の窓から見下みおろすと、狭い通なので、門前のみちが細く綺麗きれいに見えた。向側は立派な高塀たかべいつづきで、その一つのくぐりの外へ主人あるじらしい人が出て、如露じょうろ丹念たんねんに往来をらしていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本陣の表通りから下方したかた裏通りまでの高塀たかべいはことごとく破損した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「向うに見える森を抜けると、お屋敷ざかい高塀たかべいがあります。そのどんづまりの藪畳やぶだたみで」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)