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かひねこ
いや、
何より、こんな
時の
猫だが、
飼猫なんどは、
此の
頃人間とともに
臆病で、
猫が(ねこ)に
成つて、ぼやけて
居る。
短かしと
暮す
心は
如何ばかり
長閑けかるらん
頃は
落花の三
月盡ちればぞ
誘ふ
朝あらしに
庭は
吹雪のしろ
妙も
流石に
袖は
寒からで
蝶の
羽うらの
麗朗とせし
雨あがり
露椽先に
飼猫のたま
輕く
抱きて
首玉の
絞り
放し
結ひ
換ゆるものは
侍女のお
八重とて
歳は
優子に一
ツ劣れど
劣らず
負けぬ
愛敬の
片靨誰れゆゑ
寄する
目元のしほの
莞爾として
手を
此處まで
堪へたのは、
飯屋の
飼猫だ、と
思つたからで。
最う、
爺さまの
目の
屆かないのを
見澄まして
ト
此の
團右衞門方に
飼猫の
牡が一
疋、これははじめから
居たのであるが、
元二が
邸内へ
奉公をしてから
以來、
何處から
來たか、むく/\と
肥つた
黒毛で
艶の
好い
天鵝絨のやうな
牝が
一つ
處が、
少い
御新造より、
年とつた
旦那團右衞門の
方が、
聊か
煩惱と
云ふくらゐ
至極の
猫好で、
些とも
構はないで、
同じやうに
黒よ、
黒よ、と
可愛がるので
何時ともなしに
飼猫と
同樣に
成つたと
言ふ。