面体めんてい)” の例文
旧字:面體
だが、こいつは下手人であろうと、なかろうと、異様な面体めんていといい、夜中やちゅう他人の邸内をさまよう曲者、取押さえない訳には行かぬ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……はて、堂上人どうじょうびとのくせに、父王昇がちまた零落れいらくしていた時代の姿を知っているのはいぶかしいと……拙者もじっと彼の面体めんていを見てやりました
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喧嘩けんかでもしたか、不埓ふらちな奴だ、出世前の大事の身体、殊に面体めんていに疵を受けているではないか、わたくし遺恨いこんで身体に疵を付けるなどとは不忠者め
勿論もちろん敵の面体めんていを見識らぬ我々は、お前に別れては困るに違ないが、もはや是非に及ばない。只運を天に任せて、名告なのり合う日を待つより外はない。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
餞別せんべつに貰った小判の百両を懐中に深く秘め、編笠に面体めんていを隠したまま、まず日頃信心する観音様の近くに陣取って心静かにうろ覚えのお経をしながら
お土産の顔つきが、時のに、細長うなりました。なれども、過失あやまちの功名、死んで変りました人相が、かえって、もとの面体めんていに戻りました。……姫君も御覧ぜい。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひげ、ほくろ、あざと、いろいろに面体めんていを換えるのを面白がったが、或る晩、三味線堀の古着屋で、藍地あいじに大小あられの小紋を散らした女物のあわせが眼に附いてから
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さいわい、その侍の相方あいかたくじを引いた楓は、面体めんていから持ち物まで、かなりはっきりした記憶を持っていた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この面体めんていに生れもつかぬ大傷が出来た、それが憎いからこうしてくれるのだ、よく焼かれて往生しろ
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わが面体めんていを後のかたみに残さんと、さきにその方を召し出し、頼家に似せたるおもてを作れと、絵姿までもつかわしておいたるに、日をるも出来しゅったいせず、幾たびか延引を申し立てて
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御本堂への御つとめ許し賜はらば格別の御利益りやくたるべしと、念珠、殊勝爪繰つまぐりて頼み入りしにの寺男、わが面体めんていの爛れたるをつく/″\見て、まことの非人とや思ひけむ
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「闇、これは何じゃ! うなだれて、髪のみ見えて、面体めんていはわからぬが、たしかに、死骸と見えるが——か、かようなものを何ゆえなれば! こりゃ、そのままには捨て置かぬぞ!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「その金三郎と申す浪人の面体めんていは」
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
四辺あたり粛然しんとして水を撒いたよう。お繼は鉄切声かなきりごえ、親の敵と呼んで振冠ふりかぶったなり、面体めんていも唇の色も変って来る。うなると女でも男でも変りは無いもので
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しばらくのあいだ、龍巻と談合だんごうしていた梅雪は、伊那丸の面体めんていを、しかと見さだめたうえで、約束の褒美ほうびをわたそうといった。龍巻も心得て、うしろへ怒鳴どなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう一つ、平次には不思議な手練があって、むつかしい捕物に出くわすと、二三間飛退とびすさって、腹巻から鍋銭なべせんを取出し、それを曲者の面体めんてい目がけてパッとほうり付けます。
おれの面体めんていにこの傷をつけたのは、あのこましゃくれの、お喋りの、盲目めくらの小法師の仕業しわざだ! そこでいつもきまって、弁信というものを憎み呪うのが例になっている。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平八郎の首は焼けふくらんで、肩にうづまつたやうになつてゐるのを、頭を抱へて引き上げて、面体めんていを見定めた。格之助はきずの様子で、父の手に掛かつて死んだものと察せられた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
何のそれほどご案じになることがござりましょう火膨ひぶくれの痕が直りましたらやがて元のお姿に戻られますとなぐさめればこれほどの大火傷おおやけど面体めんていの変らぬはずがあろうかそのような気休めは聞きともないそれより顔を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「じぶんの首と対面たいめんして話をすることはおもしろい。これ忍剣にんけんの首! よくそちの面体めんていをわしに見せろ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前々ぜん/″\橋本の取巻で来ました男で、皆是が見知みしりと成って這入って来たのを見ると、お瀧も松五郎も面体めんてい土気色に成り、最早のがれるみちなく、ぶる/\手先が慄え出しました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お銀様が細目にして行った行燈あんどんの傍へ行ってそれをき立てた時に、頭巾から洩れる面体めんていをうかがえば、それが神尾主膳であったことは、意外のようで意外でありますまい。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
確と面体めんていを認めてから静かに討たんければ成らぬ、殊にそちは剣術が出来てもまだ年功がなし年もかぬから其の痩腕やせうでではとても又市には及ばぬ、わしも共に討たんでは成らぬ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しゃべりの坊主の、ロクでなしさえ無ければ、こんなことにはならなかったのだ、自分の面体めんていに生れもつかぬ刻印を打ち込んで、入墨者同様の身にしてしまったのは、あのこましゃくれた
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「この面体めんていは、よくご存じでございましょう」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太「これ怪我を致すな、人違いを致すな、宜く心を静めて面体めんていを見ろ、人違い/\」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「こりゃこれ、男の面体めんていへ」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「見やがれ、おれの面体めんていを」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんじは文治郎が掛合に参った時悪口あっこうき、能くも面体めんていへ疵を付けたな、おの
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
孝心な者じゃ、教えてやるが手前は親のかたきを討つというが、敵の面体めんてい
明治八年九月四日午前一時頃我等別荘浅草区橋場町一丁目十三番地留守居の者共夫々それ/″\取締致し打伏し居り候処河岸船付桟橋より強盗忍び入りそろものと相見え裏口より雨戸を押開け面体めんていかくし抜刀を
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
甲「うむ、此の者に貰ったに相違ないか、面体めんていを覚えて居るか」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)