雪白せっぱく)” の例文
ところが道がまだ琵琶亭まで行きつかないうちに、早くもさっきの紅紐髷べにひもまげの男が、こんどは雪白せっぱく大肌脱おおはだぬぎとなって追ッかけて来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京助はもとよりこれについても不審を抱かなかった。そうして雪白せっぱくきれのかかって居るテーブルに着いて、ビーフステーキを食べた。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
幾個いくつかの皿すでに洗いおわりてかたわらに重ね、今しも洗う大皿は特に心を用うるさまに見ゆるは雪白せっぱくなるに藍色あいいろふちとりし品なり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さすがに飾電灯シャンデリアばかりは煌々として雪白せっぱく食卓布テーブルクロスの上一杯に、紫羅欄花あらせいとうやチューリップ、ダアリアなぞの飾られた広い森閑がらんとした食堂で
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
おそらく臨褥りんじょくの時に敷いたものであろう、兎の毛が少し交った一かさの枯草だけあって、その他はキレイさっぱりと、雪白せっぱくの小兎はもちろん
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
すなわち巻頭の第一番に現われて私を驚かした絵は、死んでから間もないらしい雪白せっぱくの肌で、頬や耳には臙脂えんじの色がなまめかしく浮かんでいる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
愛子は何事の起こったかを露知らぬような顔をして、男の肉感をそそるような堅肉かたじしの肉体を美しく折り曲げて、雪白せっぱくのシャツを手に取り上げるのだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この温泉場の元勲げんくんで、詩書に堪能たんのうであり、雲仙陶器の創始者と知られ、同時に七十三歳を迎えた今年のはじめから、雪白せっぱくの頭に、黒髪をおびただしく生じはじめたことで
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
祖父江出羽守と寸分違わぬ雪白せっぱくの弥四郎頭巾、白い絹に、黒で賽ころの紋を置いた着流し——こげ茶献上をぐっと下目に、貝の口に結び、此刀これがあの女髪兼安なのであろう
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すでに六十を過ぎたらしく、鶴のようにというたとえのふさわしい痩躯そうくめしいた双眼をおおい隠すように雪白せっぱくの厚い眉毛が垂れ、それがぜんたいの風貌にきわだった品格を与えていた。
日本婦道記:墨丸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正面にくぎり正しい、雪白せっぱくかすみを召した山の女王にょおうのましますばかり。見渡す限り海の色。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男は白い幅濶はばひろの襟をつけた服を着て、ステッキをついた左の手に鍔広つばひろのピュリタン帽を持つ右の手を重ね、女は雪白せっぱくのエプロンをかけて、半頭巾ボンネットを冠り、右の手は男の腕にすが
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
若衆鳥谷呉羽之介は、わるびれもせず名乗りをすまして、さて、若党にかつがせた枝どもの中から、雪白せっぱくに咲きみだれた一枝をえらみ出し、みずから露月にすすめるのでありました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
闇の森に囲まれた底なし沼の、深くこまやかな灰色の世界に、私の雪白せっぱくはだえが、如何いかに調和よく、如何に輝かしく見えたことであろう。何という大芝居だ。何という奥底知れぬ美しさだ。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
されど解きてもけ難き一塊の恨みは深く深く胸底に残りて、彼が夜々ハンモックの上に、北洋艦隊の殲滅せんめつとわが討死うちじにの夢に伴なうものは、雪白せっぱく肩掛ショールをまとえる病めるある人の面影おもかげなりき。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あの後、私は専用の雪白せっぱく湯槽ゆぶねの中に長々と仰向きになった私自身であった。船中でも入浴ほど心の安まるものはない。私は湯にひたり、薄紅いかくの石鹸をいつまでも私の両掌りょうての中にもてあそんでいた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「さよう」というと朱舜水、雪白せっぱくのあごひげをしごいたが
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すぐ次の間で、花嫁は花嫁の雪白せっぱくな打掛を解いた。そして白小袖のうえに、平常ふだん濃袴こしきを腰にまとい、たすきもかけて、立ち働きはじめた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪白せっぱくの麻布に掩われた糸杉の卓上に身を横たえると、黒奴がはいって来て橄欖の香油に浸した手で我々の全身をこすり始めた。そしてさらに次なる室へと導いてくれた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
擂鉢のふちに当る、四周の山の頂から、滑かな花の斜面を伝って、雪白せっぱくの肉塊が、団子だんごの様に珠数継じゅずつなぎにころがり落ちて、その底にたたえられた浴槽の中へしぶきを立てていることでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何と、雪白せっぱく裸身の美女を、こずえまとにした面影おもかげであらうな。松平大島守みなもと何某なにがし、矢の根にしるして、例の菊綴きくとじあおい紋服もんぷく、きり/\と絞つて、ひょうたが、射た、が。射たが、薩張さっぱり当らぬ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
目も彩な花壇のべにが、紫が、雪白せっぱくが飜った。雨の飛瀑が襲来した。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
肩でつく息気いきがかすかに雪白せっぱくのシーツを震わした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
索超は、雪白せっぱくの馬上に、金色こんじきほのおを彫った大斧おおおのをひッさげ、楊志はするどい神槍しんそうを深くしごいて、とうとうと馳け巡りながらきょをさぐる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三発の弾痕から鮮血を雪白せっぱく敷布シーツほとばしらせて、まったく一糸まとわぬ裸体のままで仰臥ぎょうがしていたのには、思わず面を背けずにはいられなかったと立会いの警官たちも述べていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
たまらず袖を巻いて唇をおおいながら、勢い釵とともに、やや白やかな手の伸びるのが、雪白せっぱくなる鵞鳥がちょうの七宝の瓔珞ようらくを掛けた風情なのを、無性髯ぶしょうひげで、チュッパと啜込すすりこむように、坊主は犬蹲いぬつくばいになって
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから雪白せっぱくのだぶだぶとしたズボン、利休鼠りきゅうねずみのお椀帽わんぼう
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
たまらず袖を巻いて唇をおおひながら、いきおひ釵とともに、やゝしろやかな手の伸びるのが、雪白せっぱくなる鵞鳥がちょう七宝しっぽう瓔珞ようらくを掛けた風情ふぜいなのを、無性髯ぶしょうひげで、チユツパと啜込すすりこむやうに、坊主は犬蹲いぬつくばいに成つて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)