長者ちょうじゃ)” の例文
百姓ひゃくしょうのおとうさんは、やはりいつまでも貧乏びんぼうで、あいかわらず長者ちょうじゃの田をたがやして、ねんじゅう休みなしに、かせいでいました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
家は今申した通り手狭てぜま至極しごくなものであります。門を出て右の坂上にある或る長者ちょうじゃこしらえた西洋館などに比べると全くの燐寸箱マッチばこに過ぎません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長者ちょうじゃの方でも一生懸命でした。金の日の丸のおうぎで雷の神を招き落とさなければ、とうていその不思議なたまを手に入れることが出来ないのです。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しかし敬意を抱いているのは語学的天才のためばかりではない。粟野さんはいかにも長者ちょうじゃらしい寛厚かんこうの風をそなえている。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さきの関白うじ長者ちょうじゃといういかめしい身分などをどこにも見せず、ただ余技の書道において聞えている近衛三藐院このえさんみゃくいんとして
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王さまのすぐ下の裁判官さいばんかんの子もありましたし農商のうしょう大臣だいじんの子もました。また毎年じぶんの土地から十こく香油こうゆさえ長者ちょうじゃのいちばん目の子も居たのです。
夜叉神は石の立像りつぞうで、そのむかし渋谷の長者ちょうじゃの井戸の底から現われたと伝えられている。腫れものに効験ありと云うのであるが、その他の祈願をこめる者もある。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
船中の人々は今を興たけなわの時なりければ、河童かっぱを殺せ、なぐり殺せとひしめき合い、荒立ちしが、長者ちょうじゃげんに従いて、皆々おだやかに解散し、大事だいじに至らざりしこそ幸いなれ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
中天竺ちゅうてんじく舎衛国しゃえこくに、五種の悪疫が流行した時、月蓋長者がっがいちょうじゃが竜宮城から閻浮檀金えんぶだごんを取り寄せて、釈尊、目蓮もくれん長者ちょうじゃと三者が心を合せて鋳造した、阿弥陀如来の霊像といわれた。
それからもう一つ、これは今少し新しく出来たものらしいが、宝手拭たからてぬぐいという話がある。むかし心の美しい、顔容かおかたちの至って見にくい娘があって、長者ちょうじゃの家に奉公をしていた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分のような乞食こじき同様な百姓を、こんな長者ちょうじゃの内の婿むこにするはずはない、これはきっとこの年寄の気が狂っているのか、それでなければ笑談じょうだんに言っているのだと思いましたから
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
むかしむかし、一人ひとり長者ちょうじゃありて二人ふたりの子をてり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この人は私よりも数年の長者ちょうじゃである。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こういって、ちいさなたにしが、りっぱに、ごあいさつの口上こうじょうをのべたので、長者ちょうじゃ屋敷の人たちも、ほんとうにびっくりしてしまいました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しぼんだ月見草の花片はなびらを見つめている事もあります。着いた日などは左隣の長者ちょうじゃの別荘の境に生えているすすきの傍へ行って、長い間立っていました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むかし、世の中にいろんな神が——風の神や水の神や山の神などいろんな神が、方々ほうぼうにたくさんいた頃のこと、ある所に一人の長者ちょうじゃが住んでいました。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
また、いくばくもなく、南都に遊び洛内にじゅうし、いつか東寺とうじ長者ちょうじゃ、醍醐の座主ざすにまで補せられて、四曼三密しまんさんみつ棟梁とうりょうと、人もゆるし、みずからもすこの文観もんかん
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは偉い軍人だがね、閣下はまた実に長者ちょうじゃらしい、人懐ひとなつこい性格も持っていられた。……」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
風流の道にたましいを打ち込んで、華美はでがましいことを余り好まなかった忠通も、おととし初めてうじ長者ちょうじゃと定められてからおのずと心もおごって来た。世の太平にも馴れて来た。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
オナリドは煮焚にたき調理をする人ということであり、昼間はすなわちお昼の食べ物をそういうのだが、それも田植唄のなかでは長者ちょうじゃのまな娘、どの早乙女さおとめよりも美しく化粧し着かざって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こうして、ちいさなたにしから出世しゅっせしたおむこさんは、たにしの長者ちょうじゃとよばれて、やさしいおよめさんと一緒いっしょに、すえながくさかえましたと、さ。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
村の東のはしに、村一番の長者ちょうじゃ屋敷やしきがありまして、そのへいの外の広場は、子供たちの遊び場所でした。
影法師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
関白は、うじ長者ちょうじゃといわれ、参内には、内覧ないらん兵仗へいじょう牛車ぎっしゃをゆるされる人臣至上の職であるが、尾張中村の一百姓の子には、もともと、はっきりしたうじも家系もない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかしこの村に長良の乙女と云う、美くしい長者ちょうじゃの娘が御座りましたそうな」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、そのぴかぴか光った赤いものというのは、一体何のことだろう、と長者ちょうじゃは考えました。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
風の音にも心をおく身、魯達が窓から下をさしのぞくと、手に手に棍棒などを持った若者二、三十人をひき連れて、馬に乗った長者ちょうじゃ風の一人物が、しきりと妾宅の内外うちそとうかがっている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甘木先生も驚ろいたが、そこは温厚の長者ちょうじゃだから、別段激した様子もなく
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして長者ちょうじゃの子供はいきなり駆け出して、うちの中にはいって行きました。
影法師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
致仕ちししたひととはいえ三家の長者ちょうじゃ、前副将軍黄門こうもんである。閣老かくろう側衆そばしゅうたりとも甚だしくあつかい難いのである。ことに春雷一震しゅんらいいっしんのような畏怖をおぼえたのは大奥の女人国にょにんこくだったにちがいない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わかった。矢矧やはぎ長者ちょうじゃのむすめだそうな」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)