連翹れんぎょう)” の例文
連翹れんぎょう、木蓮などが見えたり、畠地、小流れ、そんなものがあって、時々人にも出逢いますし、何ともいえないのんびりしたところです。
女の話・花の話 (新字新仮名) / 上村松園(著)
敷居の外の、こけの生えた内井戸うちいどには、いまんだような釣瓶つるべしずく、——背戸せどは桃もただ枝のうちに、真黄色に咲いたのは連翹れんぎょうの花であった。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばさっと、庭先の連翹れんぎょうの花が、嵐みたいに揺れた。垣を踏みこえて来た激しい物音から、一箇の人影が、縁側へ、躍り上がった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがに少しうろたえて照れ隠しに袂から取り出した朝野新聞の雑報を、連翹れんぎょう色の籠ランプの光の下でガサガサガサと音立ててひろげたが
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
連翹れんぎょう一閑張いっかんばりの机かな」という子規居士の句ほど客観的ではないが、元禄の句としては最も客観的な部類に属するであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
連翹れんぎょうの花の垣(三井の前の美しい新緑がそうだ)、桃の花の白と紅、雪柳の白い花、蕾の八重桜——北風にふかれるところにある故幹がっちり枝こんで立派だ。
水仙を漬物の小桶こおけけかへよと命ずれば桶なしといふ。さらば水仙も竹の掛物も取りのけてひなを祭れと命ず。古紙雛ふるかみびなと同じの掛物、かたわらに桃と連翹れんぎょうを乱れさす。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
春雨の欄に出て、連翹れんぎょうの花もろともに古い庭を見下みくだされた事は、とくの昔に知っている。今更引合ひきあいに出されても驚ろきはしない。しかし二階からもとなると剣呑けんのんだ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
硝子窓の外で、ぎらりと光った数珠じゅずの玉が眼に映ったのと同時に、この出張りの天井の電燈もついた。光った数珠の玉は連翹れんぎょうしなった小枝に溜った氷雨か雫であった。
褐色の求道 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……夏が近くなると、野生の雑草が繁った茫漠ぼうばくとした草原の中に、数限りない花が咲乱れています。高い草を押し分けるようにして、連翹れんぎょう色のオローシカが咲いている。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
生けてあった連翹れんぎょうの黄色い花を指さしたが、鏡の中に、陰気くさい、気むずかしい顔をしている自分を見出すと、彼女は、またしても家のなかの空気を暗くしてしまう自分を
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ところどころの家々に白木蓮はくもくれん連翹れんぎょうの花が咲いていたりして、平生ならばいかにも心が浮き立つような景色でありながら、矢張何となく重い気分にき込まれるのを防ぎようがなかった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
築山の裾に茂っているのは、満開の花をつけた連翹れんぎょうくさむらで、黄色いその花は月光に化かされ、卯の花のように白く見えていたが、それが二人の女を蔽うように、背後うしろの方から冠さっていた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
連翹れんぎょうや紅梅散りし庭の隅 子規
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
島にはつつじ、山吹やまぶき連翹れんぎょう糸桜いとざくら、春の万花まんげがらんまんと咲いて、一面なる矮生わいせい植物と落葉松からまつのあいだを色どっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今をさかりの花蘇枋はなすおう粉米桜こごめざくら連翹れんぎょう金雀枝えにしだ辛夷こぶしや白木蓮の枝々を透してキラキラ朝日がかがやきそめてきていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
Y、買ものに出かけ、美しい連翹れんぎょうとチュウリップ一本とを買って来た。連翹の黄色がママの表装とよい調和だろうと云って居た、がさして見ると案外。壁の色がわるいのだ。
復一にはうまいのかまずいのか判らなかったが、連翹れんぎょうの花をへだてた母屋から聴えるのびやかな皺嗄声しわがれごえを聴くと、執着の流れを覚束なくさおさす一個の人間がしみじみ憐れに思えた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これは漢法医が多く、漢薬は、きざんであったのを、盛りあわせてせんじるから、医者は薬箱をもたせ、薬箱には、の永い、細長い平たい匕——連翹れんぎょう花片はなびらの小がたのかたちのをもっていたものだ。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
連翹れんぎょうすももの花で囲まれた農家や、その裾を丈低い桃の花木で飾った丘や、朝陽を受けて薄瑪瑙色うすめのういろに輝いている野川や、鶯菜うぐいすなや大根の葉に緑濃く彩色いろどられている畑などの彼方あなたに、一里の距離へだたりを置いて
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
連翹れんぎょうの一枝円を描きたり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
くるりと身を廻して、温泉宿ゆやどの垣の根にさいている、連翹れんぎょうの花をむしりとって、おりんの笑くぼへぶっつけました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
緋桃ひとうが、連翹れんぎょうが、樝子しどみが、金盞花きんせんかが、モヤモヤとした香煙の中に、早春らしく綻びて微笑わらっていた。また文弥君が、最前の短歌を繰り返し繰り返し、朗詠しだした。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
月に向かって夢見るような大輪の白い木蘭もくらんの花は小山田邸の塀越しに咲き下を通る人へ匂いをおくり、夜眼よめにも黄色い連翹れんぎょうの花や雪のように白い梨の花は諸角もろずみ邸の築地ついじの周囲をもやのようにぼかしている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
聖光院の庭は絢爛けんらん刺繍ししゅうのようだった。連翹れんぎょうのまっ黄いろな花が眸に痛い気がする。木蓮もくれんの花の白い女の肌にも似た姿が意地わるいこびのように彼には見えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桜も散り連翹れんぎょうも散り、四辺あたりは新緑の候となった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
障子はいっぱいいているし、十兵衛の声は大きいのである。紅梅だの連翹れんぎょうだの、庭木はそこをさえぎっているが、又十郎の部屋からは、手に取るような一間ひとまだった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じょうじょうへ花売りにでる大原女おはらめが、散りこぼしていったのであろう、道のところどころに、連翹れんぎょうの花や、白桃しろもも小枝こえだが、牛車ぎゅうしゃのわだちにもひかれずに、おちている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ、狼藉ろうぜきの夜の足痕あしあとの残る、裏庭の連翹れんぎょうの花は、春をいたずらに、みだれて咲いて——。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥のほうばかりうかがって、案じていたが、ふと、縁の傍らの連翹れんぎょうや山吹の花が、ゆさと大きく揺れたかと思うと、いつか墨をながしていた空から、板廂いたびさしをかすめて、ポツリと雨が落ちて来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)