びつこ)” の例文
馬鹿念を入れるやうだが、あの路地の奧に住んでゐるのはつんぼ同樣の耳の遠い鑄掛と、びつこの浪人者親娘の外には、八五郎兄哥だけさ。
幾分すね爪先つまさきに何か故障があるやうだつた。彼はたつた今私が立ち上つたばかりの段々の方へびつこをひいて行つて、坐つてしまつたから。
西山氏はどんな画をかいてゐる時でも、よしんばびつこの馬をかきかけてゐる時でも、遊びになら二つ返事で出かけてく事の出来る人である。
表の街の上なぞを歩く人間の足音が皆びつこに聞こえる、誰の足音でも決して揃つて居ない、不思議だ、不思議だと云ふのを聞いて、成程と思つた。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
かたくびよりたかそびえて、ぞく引傾ひきかたがりと代物しろものあをぶくれのはらおほいなるうりごとしで、一尺いつしやくあまりのたなちりあまつさびつこ奈何いかん
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夏のはじめ、その捨吉が來てみると、生れつきのひどいびつこだつた。まあ、この若いものまでが——と、おえふは老母やおしげとおもはず顏をみあはせた。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
英吉利がそれに目をつけないのがおれには不思議でならん。びつこの桶屋が拵らへてゐるのだが、こいつが馬鹿で、てんで月に就いての知識を辨まへてゐないらしい。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
只太陽の方が煖炉より余程廉価だと丈は心得てゐる。だから毎日日のさす所へとこころざして、市の公園へびつこを引きながら往つて、菩提樹の下のベンチに腰を掛ける。
老人 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
母親おふくろ父親おやぢ乞食こじきかもれない、おもてとほ襤褸ぼろげたやつ矢張やつぱりれが親類しんるゐまきで毎朝まいあさきまつてもらひにびつこ隻眼めつかちのあのばゝなにかゞれのためなんあたるかれはしない
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
遠くの遣戸やりどの向うから、例の小猿の良秀が、大方足でも挫いたのでございませう、何時ものやうに柱へ驅け上る元氣もなく、びつこを引き/\、一散に、逃げて參るのでございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてお葉が狹い路次にさしかかる時に、折々びつこの年老いた俥夫しやふに會ふのであつた。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
びつこを引きながら水汲みにも行つた。買物に行きもした。私は家の外へ出ると、ひい/\と顔をしかめながら口の中で泣き声を立てた。が遂にとても堪へられなくなつてお雪伯母に訴へた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
それからだんだん歳がたつて、沼は田甫たんぼになるし、家の数は増えて来るし、まるつ切りこの村が変つて了つた、今からおよそ百年も前ぢやが、あの川縁へ、びつこの一ツ目小僧が出たのぢや。
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「お品さんがびつこを嫌つたやうに、私も跛の眞似は大嫌ひさ。二た月越の辛棒は貸金二千兩を掻き集めて、お品さんを手に入れたいばかり」
もしか米国でびつこをひく傷病兵が持てるといふ事を聞いたら、石川氏は病狗やまひいぬのやうにわざ/″\跛をひいたか知れなかつた。
「仕方がありません。あなたに役に立つて戴く外はなくなりました。」彼は、がつしりした片手を私の肩にかけて、いくらかの重みで私にもたれかゝり、馬までびつこを引いた。
遠くの遣戸やりどの向うから、例の小猿の良秀が、大方足でもくじいたのでございませう、何時ものやうに柱へ駆け上る元気もなく、びつこを引き/\、一散に、逃げて参るのでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
で、かたたれたまゝ、みぎびつこくろどのは、夫人ふじん白魚しらうをほそゆびに、ぶらりとかゝつて、ひとツ、トまへのめりにおよいだつけ、ゐしきゆすつたちんかたちで、けろりとしたもの、西瓜すゐくわをがぶり。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いつたい、これあ誰の家だらう? なあるほど! さつぱり見当がつかねえと思つたら、なあんだ! これあ、あの、近ごろ新嫁を貰つたばかりの、びつこのレヴチェンコの家ぢやねえか。
ガラツ八の言つた通り、右の脚は大怪我でもしたらしいびつこで、生活に疲れ果てた顏には、いたましいやつれさへ見えます。
奔放な詩風で一代の人心——とりわけ若い婦人をんなの心を支配した頃は、欧羅巴ヨーロツパの青年達はみなバイロンのやうにその髪を長目にし、加之おまけにバイロンのやうにわざびつこをひいて歩いたものだ。
茲で悪魔は、尻尾のある同族どもに地獄で鼻をあかせてやつたり、彼等の仲間うちでも一番の策士として立てられてゐるびつこの悪魔がぢだんだ踏むさまを想像しながら、ぞくぞくして北叟笑んだものだ。
これはまさに造化の神の氣紛きまぐれとでもいひませうか、大あばたで鼻が曲つて、唇はみにくく引吊つて居る上、横幅の方が廣いやうな身體で、念入りにびつこさへ引いて居るのです。
間違ひもなくびつこのお袖のつけたものだ
「醉拂ひでなきやびつこですよ、親分」
「いえ、少しびつこ