荘厳そうごん)” の例文
旧字:莊嚴
弔いという、あの荘厳そうごんで感動的な儀式が、このような冷たい言葉だけの芝居になってしまったのを、わたしは聞いたことがなかった。
わけても「第五」のヘ短調のソナタは荘厳そうごんな美しい曲である(これらはチェンバロの代りにピアノを用いていることは言うまでもない)
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
主人は平気で細君の尻のところへ頬杖ほおづえを突き、細君は平気で主人の顔の先へ荘厳そうごんなる尻をえたまでの事で無礼も糸瓜へちまもないのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
重く血を満した凡ての果実が、黄いろい月、そのふくよかな光のうちに膨らむ。月が動き、凡ての泉が輝き、荘厳そうごんの大諧調立所たちどころに目をさます。
夜の荘厳そうごんはかれにとってなんでもなかった。かれはしばらく景色けしきをながめたが、やがてたいくつして外へ出て行こうとした。
もう港を出離れて木の葉のように小さくなった船の中で、君は配縄はいなわの用意をしながら、恐ろしいまでに荘厳そうごんなこの日の序幕をながめているのだ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おそらく今、世界でいちばん貴重きちょうな物が、そこに生まれようとしているのです。荘厳そうごん神秘しんぴとにつつまれたその部屋です。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神主や坊さんたちも、人物が優れているほど、境内けいだいの風致の荘厳そうごんを重んずるが、それが堕落すればするほど、境内を荒したり切売りしたりする。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この出来事がすこしのあいだ、陰鬱な葬儀の荘厳そうごんをみだした。一般会葬者のあいだからも低いつぶやき声が起こって来た。
荘厳そうごんといっていいほどな道場である、外曲輪そとぐるわの一部で、ゆか天井てんじょうも、石舟斎が四十歳頃に建て直したという巨材だ。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤熱しゃくねつの鉄砂が蛍のように飛び散ると、荘厳そうごん神のごときおももちの孫六が、延べがねを眼前にかざして刃筋をにらむ……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし、その夜、フォックス劇場シアタアできいた『君が代』の荘厳そうごんさは、なお耳底にのこる、深刻なものがありました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その変化を前にしていると、父親というかんじが、どこからともなくきあがって、われながら思いがけない荘厳そうごんな霊気にふれ、ひやりとすることがある。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
すると、いままで、威勢いせいよく、きらきらと燈火あかりかがやいて、荘厳そうごんえた都会とかいが、たちまちくらとなって、すべての機械きかいおとが、まってしまいました。
ぴかぴかする夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さらまたなにかの場合ばあい神々かみがみがはげしい御力おちから発揮はっきされる場合ばあいには荘厳そうごんおうか、雄大ゆうだいもうそうか、とても筆紙ひっしつくされぬ、あのおそろしい竜姿りゅうしをおあらわしになられます。
その頃——つまりあの無分別な青春の頃にも、わたしはあながち、わたしに呼びかける悲しげな声や、墓穴ぼけつの中からつたわってくる荘厳そうごんな物音に、耳をふさいでいたわけではない。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
白鯉しろこいうろこを以て包んだり、蜘蛛くもの糸を以て織りなした縮羅しじらきぬを引きはえたり、波なき海をふちどるおびただしい砂浜を作ったり、地上の花をしぼます荘厳そうごん偉麗いれいの色彩を天空にかがやかしたり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
青嵐あおあらしする波の彼方かなたに、荘厳そうごんなること仏のごとく、端麗なること美人に似たり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしの眼はただこの広大な建物に戸惑とまどいしているばかりであります。幾多の円柱、歩廊、階段の交錯、その荘厳そうごんなる豪奢、その幻想的なる壮麗、すべてお伽噺とぎばなしにでもありそうな造りでした。
ここらの人はとかくにあらぬことを言い触らす癖があって、後光ごこうがさしたの、菩薩があらわれたのと言う。その矢さきに堂塔などを荘厳そうごんにいたしたら、それに就いて又もや何を言い出すか判らない。
プルツス様が荘厳そうごんを尽しておあらわれになったのだ。5570
その勝ち誇った調和音が大伽藍だいがらんの隅々まで満たしてしまうのを聞くときほど、音楽が荘厳そうごんに人の道徳的感情に迫ってくるのを知らない。
荘厳そうごんト優美トヲ兼ネタル秀麗ナル男性ノ典型トシテ描キタレドモ、ひとリ十四世紀ノジョットーニサカノボレバしかラズ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
文句の面白おもしろさもあって、踊るひと、るひと共に、大笑い、天地も、ために笑った、と言いたいのですが、これは白光浄土じょうどとも呼びたいくらい、荘厳そうごんな月夜でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その赤ん坊が、すやすやと眠っている。荘厳そうごんで、しずかで、その赤ん坊のうつくしさは、底にふかい輝きを忍ばせてみきっていた。まもなく私はお前が眼をあけるのを見た。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
彼の邸はいくたの歳月をへたために灰色になった古い城のような荘園邸しょうえんていで、風雨にさらされたとはいえ、たいそう荘厳そうごんな外観を呈している。
金色こんじきの、聖者の最期さいごを彩る荘厳そうごんに沈んだ山と、空との境目が、その金色の荘厳を失って、だいだいの黄なるに変りました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひとことでいえば、凡俗な現実世界をのがれて、くらく荘厳そうごんな過去のなかに身を没したいと願ったのだ。
蕩々とうとうとのぼる朝日の御陽光を拝んで御覧あそばせ、それはそれは、美麗とも、荘厳そうごんとも……
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悲しげな古い大伽藍だいがらん荘厳そうごんさには、この季節の感覚になにかぴったりするものがあった。
昔の出家は木を植えて山を荘厳そうごんにしたのに、何の必要あってこうしてムザムザ木を伐ったり、山を崩したりするのだろう。車を仕掛けるのだといっているが、わからないことだ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのうしろを、黒鉛のような夕暮の色が沈鬱ちんうつにし、金色の射る矢の光が荘厳そうごんにする。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたしがうれえるには、多くのものは単なる平等主義者であり、ひとたび鶴はしをもってこの荘厳そうごんな建物で仕事にとりかかったら、それを地面に引きたおして、自分もその廃墟はいきょに埋まってしまうまでは
あれまでに育てて霊場を荘厳そうごんにしてお置きになるのを、むざむざと伐って、それでよい心持が致しますか……また山の自然の形には、自然そのままで貴いところがあるものでございます
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
荘厳そうごんに流れ、やがて青い高地のあいだにその姿を消していった。