肌襦袢はだじゅばん)” の例文
家主の婆あさんのめいというのが、毎晩肌襦袢はだじゅばん一つになって来て、金井君の寝ている寝台のふちに腰を掛けて、三十分ずつ話をする。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
木綿のさらしにもSFが入るので、あなたの肌襦袢はだじゅばんのために大なる買占めをして一反サラシを買いました(!)では又。かぜを引かないで下さい。
……皿小鉢を洗うだけでも、いい加減な水行みずぎょうの処へ持って来て、亭主の肌襦袢はだじゅばんから、安達あだちヶ原で血をめた婆々ばばあ鼻拭はなふきの洗濯までさせられる。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狭い路地などは通れませんような恐ろしい長い笄で、夏を着ましても皆肌襦袢はだじゅばんを着ませんで、深川の芸者ばかりは素肌へ着たのでございます。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
校長は洋服の上衣もチョッキもネクタイもすっかり取って汚れ目の見える肌襦袢はだじゅばん一つになって、さも心地のよさそうな様子であぐらをかいていたが
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それから、無心ついでにお願いしますが、肌襦袢はだじゅばんや何か下着類の古いので不用なのがあったら、廻してくれませんか。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
朝早く自分たちは蘆のかげなる稽古場に衣服を脱ぎ捨て肌襦袢はだじゅばんのような短い水着一枚になって大川筋をば汐の流にまかして上流かみ向島むこうじま下流しもつくだのあたりまで泳いで行き
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お高は、あした旅立つ龍造寺主計のために、肌襦袢はだじゅばんを何枚も縫ってやっているところであった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
武者羽織、小袖、下着、肌襦袢はだじゅばんなど、それは久しく替えたこともないようにあかじみていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
病人の肌襦袢はだじゅばんに祈祷をささげてもらった柴又だけが、脈があることを明言したのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして、最後に、母が刺されたその夜に、身に付けていた、白い肌襦袢はだじゅばんに、手を触れなければならなかった。それには、所々血がにじんでいた。美奈子は、それに手を触れるのが恐ろしかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼はさらし木綿の肌襦袢はだじゅばんと白いさるまたを見せ、死に装束だ、という意味のことを云ったそうである。襦袢もさるまたも既製品で、一と五〇くらい出せばどこでも売っている品物だそうであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
チョッキの隙間すきまから彼は彼女の肌襦袢はだじゅばんを見ていた。
トウン——と、足拍子を踏むと、膝を敷き、落した肩を左から片膚かたはだ脱いだ、淡紅の薄い肌襦袢はだじゅばんに膚が透く。眉をひらき、瞳を澄まして、向直って
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家の入り口には、肌襦袢はだじゅばんや腰巻や浴衣ゆかた物干竿ものほしざおに干しつらねてある。郁治は清三とつれだって行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「こら。こんなよ。触って御覧なさい。」と君江は細い赤襟をつけた晒木綿さらしもめん肌襦袢はだじゅばんをぬぎ、窓の敷居に掛けて風にさらすため、四ツいになって腕をのばす。矢田はその形を眺めて
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そやったらはよせんならんいうて大慌てに慌てて二人がかりで着せましたもんの、冬やったらどないなと胡麻化ごまかせるのんですが、肌襦袢はだじゅばんの上に明石あかし単衣ひとえもん着てなさるだけやのんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼はさらし木綿の肌襦袢はだじゅばんと白いさるまたを見せ、死に装束だ、という意味のことを云ったそうである。襦袢もさるまたも既製品で、一と五〇くらい出せばどこでも売っている品物だそうであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
欄干に赤い襟裏えりうらの附いた著物きもの葡萄茶えびちゃはかまさらしてあることがある。赤い袖の肌襦袢はだじゅばんがしどけなく投げ掛けてあることもある。この衣類のぬしが夕方には、はでな湯帷子ゆかたを著て、縁端えんばなで凉んでいる。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ここのお神さんはおひろちゃんですよ。私は世話焼きに来ているだけなんです。いつまでこんなこともしていられないんです。働けるうちに神戸へ行って子供のもりでもしてやらなければ」そして彼女はよごれた肌襦袢はだじゅばん
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
納戸へ通口かよいぐちらしい、浅間あさまな柱に、肌襦袢はだじゅばんばかりを着た、胡麻塩頭ごましおあたまの亭主が、売溜うりだめの銭箱のふたおさえざまに、仰向けにもたれて、あんぐりと口を開けた。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毛氈もうせんに片膝のせて、「私も仮装をするんですわ。」令夫人といえども、下町娘したまちッこだから、お祭り気は、頸脚えりあしかすかな、肌襦袢はだじゅばんほどはくれないはだのぞいた。……
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二階の十畳の広間に引見した大人たいじんは、風通小紋ふうつうこもん単衣ひとえに、白の肌襦袢はだじゅばん、少々汚れ目が黄ばんだ……兄妹分の新夫人、お洲美さんの手が届かないようで、悪いけれども、新郎
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘は、紅麻べにあさ肌襦袢はだじゅばんの袖なしで、ほんの手拭てぬぐいで包んだ容子ようすに、雪のような胸をふっくりさして、浴衣の肌を脱いで、袖を扱帯しごきに挟んでいました。急いで来て暑かったんでしょう。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手拭の肌襦袢はだじゅばんから透通った、肩を落して、裏の三畳、濡縁の柱によっかかったのが、その姿ですから、くくりつけられでもしたように見えて、ぬの一重の膝の上に、小児こどもの絵入雑誌を拡げた
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとに柳町の折とては、着て肌をおおうほどのものもなかった、肌襦袢はだじゅばんとあれだけでは、ふすまから透見も出来なかったことなど聞き、聞き……地蔵菩薩の白い豆府は布ばかり、渋黒い菎蒻は、ててらにして
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)