はにか)” の例文
絶えいるやうなはにかみをふくんだ愛のしるしをみせてくれた、あの感動を、なぜ忘れてゐたのか、自分でも不思議なくらゐであつた。
山形屋の青春 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
だが彼はやはり固くなつて、顔を子供のやうにあからめた。少年の方でもそのやうな事を真顔で云はれたので、同様にはにかむ様子を見せた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
また、酌をするときには左手で右のたもとを押えるという芸のこまかいところを演じてみせ、先生がすすめれば、はにかみながらも杯を受けた。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
悪戯いたづらつぽさとはにかみとのまざり合つてゐる様子だの、そのすべてが、何かしら微妙な、手で触れにくい、不思議な物として見えたのだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
私は今も決して、陰気な女でもなければ憂鬱なはにかみやでもないつもりだ。だのに、朝鮮にいた七年の間は全くその反対であった。
そう云われて、彼の側にくっついていた小さな女の児は、いま私の視線を受け、はにかみと得意の表情で、くるりと小父の後に隠れてしまった。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
おぬいさんの眼は、俺を見る時、少し上気した皮膚の中から大きくつやつやしく輝いて、あるはにかみを感じながらも俺から離れようとはしない。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
指摘して貰ひ度いものだぜ。その場合には他の面々は、一朝にして紳士と豹変しようといふ厳則さへ成り立つてゐるんだから、無益なはにかみは禁物だよ。
まぼろし (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
『ハ、其邊まで御同伴ごいつしよ。』と馴々しく言ひ乍ら、はにかむ色もなく男と並んで、『マア私の方が這麽こんなに小さい!』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
與吉よきちはにかんだやうにして五りん銅貨どうくわくちびるをこすりながらつてた。かれくち兩端りやうはしにはからすきうといはれてかさ出來できどろでもくつゝけたやうになつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼の親友だったシンドラーは確言している——「彼は一種の処女的なはにかみをもって生涯を過ごし、弱点に負けて自己を責めるような羽目に陥ることは無かった」
お久美さんは何を思ったのかポーッと顔を赤くしてはにかむ様に微笑するのを見て蕙子は何も彼もすっかり分った様な気がして薄笑いをしながら頭を左右に揺り動かして
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
又、これはほんの私の推量だが、彼がはにかむ時彼は平気なので、彼が平気な時彼は羞んでるのだ。
高橋新吉論 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
まだはにかみながら、しかし懸命に自己存在を主張しようとしてゐる自分の作が、無理解な土足に踏みつけられて傷ついて行くのを眺める気持、それは我が子を眺める親の気持にも似てゐよう。
青年ははにかであるが、その癖人一倍、人懐ひとなつこい性格を持っているらしかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
紺飛白こんがすり小倉袴こくらばかまのその男は、ちょっとはにかむように早口に云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
はにかむものがあるように見受けるから、掲げて参考に供する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
たちまち二人ともぎごちなく、はにかんで、になる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
宇乃は「まあ」といってはにかみ笑いをし、茶とか菓子とか、食事などの意味である、と答えた。帯刀は頷いて、宇乃は賢いからなと云った。
肩をすぼめてはにかみを装ふ女が好もしいか、千種は、ふと自分が後者の部類に属するのではないかと気づき、努めて自然であらうと心掛けた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
『ハ、其辺そこいらまで御同伴ごいつしよ。』と馴々敷なれなれしく言ひ乍ら、はにかむ色もなく男と並んで、『マアわたしの方が這麽こんなに小い!』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「おとつゝあはぢいかつたツちツてんだあ」與吉よきちいきほひにあつせられてはにかむやうにしながらやつといつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だがAさんは食事の間、先刻の事を細君には少しも云ひ出さずに箸を動かしてゐた。主人はさういふAさんを、何度か注視した。——弟に対する自分の愛情をはにかんでゐるのだ。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
こっちをみつめるまなざしにも、話しぶりにも、しなを作ったはにかみようにも、薄い紙一重を隔てて見るような、もどかしさが感じられた。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「松代さんより弟の鋭市さんがはにかなのよ。あなたの前へ出ると、なんだか頭がしびれるみたいだつて云つてたわよ。」
花問答 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
およねははにかみ笑いをし、しなをつくって盃を取ったが、酌をされると、その盃を持ったまま眼の隅で庭のほうを見、すぐにまた源次郎を見た。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はにかむ時以外は滅多に笑顔を見せないやうなこの菊子といふ少女は、眼鼻だちの整つた割に、ぱつとしたところのない、淋しいとは云へないまでも何処か真面目すぎるやうな感じの少女であつた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
てれくさそうなはにかみ笑いをうかべながら留さんは云った、「——高品さんのおかみさんがおらに呉れたで、読んだだよ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はにかんだ顔、うつとりなにかに見惚れてゐる顔、驚いて眼を見開いた顔、悪戯ツ児のやうに笑ひをこらへた顔、それから、だんだんに、淋しく打ち沈んだ顔、恨みを含んでちらと上眼を使つた顔
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
松吉は着替えをするために、帯を解きながらいた。おちづは風呂敷包をひろげながら、ちょっとはにかんで首を振った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おらんこと小説に書いたって」どんな闇夜やみよでも黒く見えるという、石炭のような黒い顔に、てれくさそうなはにかみ笑いをうかべながら留さんは云った
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むしろ伝法でんぽうな姿であって、しかもその身ごなしの柔軟さや、はにかみのために消えたそうな表情のういういしさは、たとえがたいほどなまめかしく、いろめいてみえた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これらの呼びかけや行動は、近所の人たちの眼があり耳のあるところで公明正大に演じられるのだが、みさおは決してはにかんだり怒ったりするようなことはない。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まるでお世辞でも云われたようにはにかんだ、「——あいつも口の軽いのが悪い癖だから、ばかなことばかし云って人に誤解されるだ、なにしろ世間知らずだでねえよ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まるでお世辞でも云われたようにはにかんだ、「——あいつも口の軽いのが悪い癖だから、ばかなことばかし云って人に誤解されるだ、なにしろ世間知らずだでねえよ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ひいきにしていただいたみなさん、どなたもおみえにならないんですよ、どうぞ参ちゃんだけはまたいらしってね」そこであわてて口へ片手を当て、肩をすくめながらはにかみ笑いをした
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
帰途徳田秋声を訪れた、少女が余にはにかながら微笑した。氏の末子であると、センチメンタルな娘であると。氏は浦安に心をかれているようだった。三つの一幕物を置いて来た。分るかしらん。
少し尻さがりの眼も細かったが、絶えずはにかんでいるような潤いがあり、人に目礼をしたり話しかけたりするときには、まるで恋でも語りかけるのかと思うほど、その眼の潤いが情熱的にみえた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
少ししりさがりの眼も細かったが、絶えずはにかんでいるようなうるおいがあり、人に目礼をしたり話しかけたりするときには、まるで恋でも語りかけるのかと思うほど、その眼の潤いが情熱的にみえた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それで一曲しょもうすると、少しはにかみはしたが、いそいそと歌口をしめすのだった。心得があったのである。もとの主にまさっているとはいえぬまでも、梅八の耳には甲乙をわけがたいものだった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いやだわ、お嬢さんだなんて」りつ子ははにかんだ
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おちづははにかみながら、ふと悲しげに声を曇らせた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
七十郎はちょっとはにかんで付け加えた。