糯米もちごめ)” の例文
馬には、大豆、馬鈴薯じゃがいもわら麦殻むぎがらの外に糯米もちごめを宛てがって、枯草の中で鳴く声がすれば、夜中に幾度か起きて馬小屋を見廻りました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔は節季の餅はきのわるいものとして、おとくいも餅屋も通用して来たものですが、私たちが初めてちん餅をやった時の糯米もちごめ
おつぎは浴衣ゆかたをとつて襦袢じゆばんひとつにつて、ざるみづつていた糯米もちごめかまどはじめた。勘次かんじはだかうすきねあらうて檐端のきばゑた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
内地米と外米の五分五分の混合、あるいは六分四分の混合に平麦を加えるとどうもばらつきようがひどいので糯米もちごめを二分ほど加えてみた。
外米と農民 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
すると家々ではかねて玄関かその次の間に用意してある糯米もちごめやうるちやあずきや切り餅を少量ずつめいめいの持っている袋に入れてやる。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ず米一合と糯米もちごめ一合と混ぜてく洗って三日ほど水へ漬けておきます。それからその水ともに擂鉢すりばちへ入れてよく摺って水嚢すいのうします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
横杵以前の餅は糯米もちごめを用いても、やや粘るというだけでずっと歯切がよく、むしろいわゆる団子の平たいのと、近いものであったろうかと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
味の複雑さは日本のそれに比すべくもない。純糯米もちごめから作るというここの薬酒(ヤクチュウ清酒)の味は忘れられない。いずれも自家造りである。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「いがもちじゃ、ほうと、……暖い、大福を糯米もちごめでまぶしたあんばい、黄色う染めた形ゆえ、菊見餅きくみもちとも申しますが。」
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生徒は時々萩の餅やアンビ餅などを持って来てくれる。もろこしと糯米もちごめで製したという餡餅あんころなどをも持って来てくれる。どうかして勉強したい。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
誰の眼で見ても一粒の玄米さえないと思われた穀倉から、一石八斗に余る糯米もちごめ・小豆・大豆・もみ・焼き米、いろいろな物が出た。実に山をなすばかり取出された。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもその日は二十九日と限られ、江戸じゅうの家々が一度に牡丹餅をこしらえる事になったので、米屋では糯米もちごめが品切れになり、粉屋こなやでは黄粉を売切ってしまった。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし血色の悪い頬には、昨夜の汗にくつついたのか、べつたり油じみた髪が乱れて、心もち明いた唇の隙にも、糯米もちごめのやうに細い歯が、かすかに白々と覗いてゐた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ヨーギ。天王寺さ行って、糯米もちごめ買ってうちゃ。あんつあんさ、百合ゆりぶかしでもしてせべし。」
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
朝は粥にして、玉蜀黍とうもろこしおぎない、米を食い尽し、少々の糯米もちごめをふかし、真黒い饂飩粉うどんこ素麺そうめんや、畑の野菜や食えるものは片端かたっぱしから食うて、粒食の終はもう眼の前に来ました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
糯米もちごめぐことから小豆あずきを煮ること餅をくことまで男のように働き、それで苦情一つ言わずいやな顔一つせず客にはよけいなお世辞の空笑いできぬ代わり愛相あいそよく茶もくんで出す
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そうした家では、どこでも毬餅まりもちとか、新粉しんこの餅にあんを包んで、赤や青の色を附けたのを糯米もちごめにまぶして蒸したもので、その形から名附けたのでしょう。それに混って雀焼屋すずめやきやがあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それでもお正月には糯米もちごめ一俵引いて来た
炭坑長屋物語 (新字新仮名) / 猪狩満直(著)
僕が餅好きだから折々拵えさせるが、先ず関東一という越ヶ谷こしがや糯米もちごめぬかのついたまま決して水で洗わずに碾臼ひきうすで粉にさせる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ちょうど私が店にいたので電話で註文をきき、早速糯米もちごめを水に浸けるように命じて帰宅したのであったが、翌朝行って見ると番頭から意外な報告である。
それが持って来る菓子の中に「イガモチ」というのがあった。道明寺どうみょうじ餡入あんいもちであったがその外側に糯米もちごめのふかした粒がぽつぽつと並べて植え付けてあった。
物売りの声 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
横にのあるこの形状の杵が生まれなかったら、蒸した糯米もちごめつぶして餅にすることはできない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これは依頼者の方であらかじめ糯米もちごめを買い込んでおくので、米屋や菓子屋にあつらえるよりも経済であると云うのと、また一面には世間に対する一種の見栄もあったらしい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
羽目板の目だけを掃いて集めた糯米もちごめだけでも、驚くほどなますに盛られた。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪で、今日は新聞がぬ。朝は乳屋ちちや、午後は七十近い郵便ゆうびん配達はいたつじいさんが来たばかり。明日あす餅搗もちつきを頼んだので、隣の主人あるじ糯米もちごめを取りに来た。其ついでに、かし立ての甘藷さつまいもを二本鶴子にれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
... 葛入餅くずいりもちと申して葛の粉少々と糯米もちごめと一所に蒸して充分にぬいたのです」客「道理で絹漉餅きぬこしもちともいうべき位です。あんまり美味しいので残らず平らげました」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
名称の方から言っても、モチは必ずしも糯米もちごめで製したものに限らず、またシトギを焼いたりうでたりして、食いやすくしたものだけがモチだとも限らなかったと私は思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これ糯米もちごめと区別する名というのは(淡路)、後の解であろう。もとは常の日は粳米うるちまいより悪いものを食っていたからで、それには屑米くずまいまたあわひえの類もかぞえられたことと思う。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)