矢庭やには)” の例文
いまあはたゞしくつた。青年わかもの矢庭やにはうなじき、ひざなりにむかふへ捻廻ねぢまはすやうにして、むねまへひねつて、押仰向おしあふむけたをんなかほ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
矢庭やにはに二人とも生捕いけどり引立ひきたてしは心地よくこそ見えたりけりよつて二人とも入牢申付られしが吉原にあり手負ておひの平四郎は四日相果あひはてし故檢視けんし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『えい、ふざけたり/\、海賊かいぞくどもものせてれんづ。』と矢庭やには左舷さげんインチ速射砲そくしやほうほうせたが、たちま心付こゝろづいた、海軍々律かいぐんぐんりつげんとして泰山たいざんごと
谷間の山壁に押しこめられたやうな、階段の下の仄昏ほのぐらい土間に立つて、富岡は矢庭やにはにおせいを抱いた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「実はかうしたいからなんだ。」棕隠は箸でもつて矢庭やにはに山陽の焼肴と自分のとを取りかへた。「ね、うをは右にあつたつて、左にあつたつて一向差支ないんだらう。」
矢庭やには引捕ひつとらへてくわんうつたへると二のもなく伏罪ふくざいしたので、石の在所ありか判明はんめいした。官吏やくにんぐ石を取寄とりよせて一見すると、これ亦たたちま慾心よくしんおこし、これはくわん没收ぼつしうするぞとおごそかにわたした。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
待構へてゐた二人の侍は押取刀で矢庭やにはふすまをあけた。閉め込んだ部屋のなかには春の夜の生あたゝかい空氣が重く沈んで、陰つたやうな行燈の灯はまたたきもせずに母子おやこの枕もとを見つめてゐた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ぐにこたへて、坂上さかがみのまゝ立留たちどまつて、振向ふりむいた……ひやりとかたからすくみながら、矢庭やにはえるいぬに、(畜生ちくしやう、)とて擬勢ぎせいしめ意氣組いきぐみである。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三度目が愈々いよ/\正念場しやうねんばで、を閉めて暫く待つてゐると、きようにはづんだ狐の脚音がして、尻尾のに触る音が聞えたか聞えぬかに、矢庭やにはを引開けると、後向きに尻尾を振りあげた狐は
うなつて、矢庭やには抱込だきこむのを、引離ひきはなす。むつくり起直おきなほる。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)