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眸子
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ひとみ
ふりがな文庫
“
眸子
(
ひとみ
)” の例文
何事か頭に
閃
(
ひら
)
めいて来たらしい。その
眸子
(
ひとみ
)
は
昵
(
じっ
)
と、眼下に突出している岬のあたりを
覓
(
みつ
)
め、右手の指は鉄の柵を
急
(
せわ
)
しく叩きだした。
廃灯台の怪鳥
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
今まで海に面していた
眸子
(
ひとみ
)
を転ずると、峠へ出るまでは見えなかった
普賢
(
ふけん
)
の
峻峰
(
しゅんぽう
)
が、突如として道の行手を遮って、目の前に表われる。
雲仙岳
(新字新仮名)
/
菊池幽芳
(著)
処女の様なつゝましさがある。たゞ其の人を見る黒い
眸子
(
ひとみ
)
の澄んで凝然と動かぬ処に、意志の強い其性格が閃めく様に思われた。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
彼らは自分の坐っている所から、ことさらな方向に
眸子
(
ひとみ
)
を転ずる事なしに、自然と見られるように都合の好い地位に坐っていた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「幾らでも見ててあげるわ」と言つて妻は
眸子
(
ひとみ
)
を彼の眼に凝つと据ゑたが、直ぐへんに苦笑し、
目叩
(
またゝき
)
し
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
▼ もっと見る
中学の校帽
凛々
(
りゝ
)
しく戴ける後姿見送りたる篠田は、やがて
眸子
(
ひとみ
)
を昨日
己
(
おの
)
が造れる新紙の上に
懐
(
なつ
)
かしげに転じて「労働者の位地と責任」と題せる論文に
一
(
ひ
)
とわたり目を走らせつ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
自分はまさに起ち上りてまたさらに運だめし(ただし銃猟の事で)をしようとして、フト端然と坐している人の姿を認めた。
眸子
(
ひとみ
)
を定めてよく見れば、それは農夫の娘らしい少女であッた。
あいびき
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
目覚ます
術
(
すべ
)
なき大いなる
眸子
(
ひとみ
)
をもてる
盲目
(
めくら
)
の女よ
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
栄二は頭を左右に振り、
眸子
(
ひとみ
)
をさだめておすえの表情を見た。それからふいと立ちあがり、仕事場から出ていって、表の戸閉りをした。
さぶ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
寒い戸外の空気に冷えたその
頬
(
ほお
)
はいつもより
蒼白
(
あおじろ
)
く自分の
眸子
(
ひとみ
)
を射た。不断から
淋
(
さむ
)
しい
片靨
(
かたえくぼ
)
さえ
平生
(
つね
)
とは違った意味の淋しさを消える瞬間にちらちらと動かした。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「ここから走っていって、あの竹を二つに
斬
(
き
)
り割るのだ、拙者がやってみせるから見ろ」みんな
眸子
(
ひとみ
)
を凝らして見まもっている。
薯粥
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
濃
(
こ
)
い
眉
(
まゆ
)
とそれから濃い
眸子
(
ひとみ
)
、それが眼に浮ぶと、
蒼白
(
あおしろ
)
い額や頬は、
磁石
(
じしゃく
)
に吸いつけられる
鉄片
(
てっぺん
)
の速度で、すぐその
周囲
(
まわり
)
に反映した。彼女の幻影は何遍も打ち
崩
(
くず
)
された。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「こういうことができるか」と彼は云った、「こういうふうに両方の
眸子
(
ひとみ
)
を寄せておいて、
猫蜂
(
ねこはち
)
とんぼきりぎりすの親方って、云うんだ」
改訂御定法
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
正吉の重みで
梯子段
(
はしごだん
)
が
軋
(
きし
)
むと、お
美津
(
みつ
)
は
悪戯
(
いたずら
)
らしく上眼で
睨
(
にら
)
んだ。——十六の乙女の
眸子
(
ひとみ
)
は、そのとき
妖
(
あや
)
しい光を帯びていた。
お美津簪
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
しだいに
窶
(
やつ
)
れてはゆくが面ざしはいつまでも
冴
(
さ
)
えて美しく、いつも
瞠
(
みは
)
っているような大きな
眸子
(
ひとみ
)
も澄みとおるほどしずかな光を湛えていた。
日本婦道記:おもかげ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そして唇の端から
涎
(
よだれ
)
が垂れ、両方の眼の
眸子
(
ひとみ
)
がつりあがった。保馬は声をあげて、走り寄って、倒れかかるいしの躯を支えた。
いしが奢る
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
眠りからさめたというより、眠っていなかった者が眼をあいたような感じで、そのまま
眸子
(
ひとみ
)
も動かさずに伯父をみつめていた。
季節のない街
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
きわめて僅かな時間に、眼のまわりに
暈
(
かさ
)
があらわれ、それが顔つきぜんたいに深い
陰翳
(
いんえい
)
を与えた。
眸子
(
ひとみ
)
は大きくなり、きびしい光を帯びて
耀
(
かがや
)
いた。
葦
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
不謹慎に三角巾の具合を直しながらくる、すると立籠めた灰煙のなかで彼の
眸子
(
ひとみ
)
が獣のようにきらめき、なにかを床へ取落す重苦しい物音がする。
蛮人
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そのときは眼に光を当ててみると、
眸子
(
ひとみ
)
に不規則な
震顫
(
しんせん
)
が認められるという。それでしらべてみたのだが、十兵衛にはそれがなかった、と云った。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
すると、
眸子
(
ひとみ
)
が水で洗ったように澄みとおり、わたくしに異存はないという意味を、はっきり答えるかのようにみえた。
赤ひげ診療譚:08 氷の下の芽
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そしてうわめづかいに見あげた
眸子
(
ひとみ
)
の、きらきらするような光りとは、隼人を強くとらえ、手繰りよせるように思えた。
ちくしょう谷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
……母はきみの悪いほど蒼ざめたむくんだような顔で、苦しそうに
喘
(
あえ
)
ぎ、菊千代を見ると、
眸子
(
ひとみ
)
の濁った眼をみひらき、こちらへ手をさし伸ばした。
菊千代抄
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
信三は惹きつけられるように、昌子の顔を見、その言葉に聞きいった、昌子はその眼を燃えるような
眸子
(
ひとみ
)
でみつめながら、なかば夢中でこう続けた。
四年間
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
切れ長のつぶらな
眸子
(
ひとみ
)
、漆黒の余るような髪を武家風に結いあげた二十あまりの、眼覚めるように美しい女である。
嫁取り二代記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
苦痛にひき
歪
(
ゆが
)
んだ声つきと
眸子
(
ひとみ
)
のつりあがったような烈しい眼の色に、おせんはわれ知らずうしろへ身をずらせた。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そして新左衛門は、焦点の狂った眼をあげ、そこに甲斐がいることを
慥
(
たし
)
かめるかのように、じっと
眸子
(
ひとみ
)
を凝らした。
樅ノ木は残った:03 第三部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
改めてじっと
眸子
(
ひとみ
)
を据え、なにかふしぎな物躰でも発見したかのように、勝子と増田をつくづくと見まもった。
季節のない街
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
膚は脂肪がのっていよいよ
艶
(
つや
)
やかに、しっとりと軟らかい弾力を、帯びてきた。自信とおちつきを加えた
眸子
(
ひとみ
)
は、ときに驚くほど
嬌
(
なま
)
めかしい動きかたをする。
つばくろ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
振り返ってみるとおそので、菊ちゃんは寝ちゃったよ、と云いながら喜兵衛の姿を認めて、
眸子
(
ひとみ
)
を凝らした。
五瓣の椿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
大きな、なにかの宝玉のような
眸子
(
ひとみ
)
と、柔らかくしめった、彫刻的な口元とを、さらにひきたてるかのような、上唇の脇の
黒子
(
ほくろ
)
が、かなりつよく眼を惹いた。
山彦乙女
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
去定に促されて登も
診
(
み
)
た。登は竹造に
提灯
(
ちょうちん
)
用の
蝋燭
(
ろうそく
)
を出させ、それに火をつけて十兵衛の
眸子
(
ひとみ
)
をしらべた。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
相手の言葉をしっかり聞きとろうとするためのようだが、汚れのない澄みとおった
眸子
(
ひとみ
)
を大きく
瞠
(
みは
)
ってまたたきもせずに見つめられると、なにやらおもはゆくなって
日本婦道記:墨丸
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そして帰って来たとき、安土竜太郎も米山八左衛門も、深い奇妙な光を両の
眸子
(
ひとみ
)
に湛えていた。
溜息の部屋
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
石のように冷たく硬直した頭、白く乾き、かたくくいしばった口もと、そして頬へみだれかかっていた二筋三筋の髪、そういうものがいきなり由紀の
眸子
(
ひとみ
)
に
噛
(
か
)
みついてきた。
日本婦道記:藪の蔭
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
久之進は間もなく若侍たちに運び出されていったが、さっきから前庭に控えて始終を見ていた乙女は、運ばれて行く久之進の姿を
燐
(
りん
)
の燃えるような
眸子
(
ひとみ
)
で鋭く見送っていた。
粗忽評判記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
ぱちぱちと三つばかり
目叩
(
またた
)
きをした、利巧そうな、はっきりした眼つきで、目叩きをした瞬間なにか
眸子
(
ひとみ
)
がものを云ったようにみえた、彼はどきっとして急ぎ足に通り過ぎた。
ひやめし物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
唇もとの
凛
(
りん
)
として力のある線、人を見るときの
眸子
(
ひとみ
)
の射止めるような光りは、兄と違って熱狂することを知らない、しずかな、むしろ冷たくさえある理知の質をあらわしている。
新潮記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
甲斐の眼はするどくなり、大和守の表情の、どんな変化もみのがすまいとするように、じっと
眸子
(
ひとみ
)
を凝らしていた。——大和守の顔はゆっくりと硬ばってゆき、下唇がさがった。
樅ノ木は残った:04 第四部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それにもかかわらず堅くふくれた嫂の胸が、光をたたえた
眸子
(
ひとみ
)
が、張りきった丸味のある肩が、豊かな腰が、一時にぐんとのしかかってくるような
幻暈
(
めまい
)
を感じて正三は低く
喘
(
あえ
)
いだ。
豹
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「すぐいって来る」右衛門の両方の眼の
眸子
(
ひとみ
)
が右は右へ左は左へと
乖離
(
かいり
)
運動を起こした、「——というと、つまり、その、……おまえは、二時間以上も経つのに、まだ、その、うう」
思い違い物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
これしきのことが、勇を鼓して眼を凝らすが、次第に血が頭へのぼってくるので
眸子
(
ひとみ
)
が狂い、詰めている呼吸は胸膈を引裂くかと思われる、そのとき「えい」久之進が凄じく絶叫した。
粗忽評判記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
おしのが同じことを繰返して云うと、喜兵衛の
眸子
(
ひとみ
)
がつりあがって白眼になった。
五瓣の椿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
本能的に防禦のかたちに振り向けた……つり上った
眸子
(
ひとみ
)
と、まくれた唇のあいだから剥きだしになっている歯と、暴々しく喘ぐ息と……伊兵衛は路上の雪の仄明りにそれを見やりながら
夜明けの辻
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
……年はまだ十七八であろう、肉付のきりっと緊った、どちらかというと小柄な躯で、熟れた葡萄のように
艶々
(
つやつや
)
しい表情の多い
眸子
(
ひとみ
)
と、笑うと笑窪の出る豊かな双頬がたいそう眼を
惹
(
ひ
)
いた。
内蔵允留守
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
寛
(
くつ
)
ろいだ勘太夫がお笛を相手に、いいきげんで浅酌低唱をたのしんでいる、強いられて二三杯
舐
(
な
)
めたお笛も、眼蓋をほんのりと染め
眸子
(
ひとみ
)
をうるませて、たいそうなまめかしい姿をしていた。
明暗嫁問答
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
どろんと濁った
眸子
(
ひとみ
)
、緊りのなくなった、
涎
(
よだれ
)
で濡れて半ば開いている唇、そして時おり歯の間からもれる無意味な、
唖者
(
あしゃ
)
に特有の
喉音
(
こうおん
)
など、すべてが医者の言葉を裏付けているようにみえた。
日本婦道記:二十三年
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「ちょっと待ってくれ、いや」弥兵衛は不決断に首を振りじっと
眸子
(
ひとみ
)
を凝らしていて、やがて玄四郎を見た、「わからない、おれはとうていむりだと思うが、むりでもいちおう当ってみよう」
樅ノ木は残った:04 第四部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
眸子
(
ひとみ
)
というものは、だいたいとして同時に同一方向へ動くはずである。
似而非物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
疑いは疑いを生んで、いよいよ寒泉の許へ書面を出そうかと思いはじめた、——十一月十九日のことである、家譜を調べて慶長十五年七月の項にかかった時、何を読当てたか急に
眸子
(
ひとみ
)
を輝かして
入婿十万両
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
“眸子”の意味
《名詞》
(context、anatomy)瞳。
(出典:Wiktionary)
眸
漢検1級
部首:⽬
11画
子
常用漢字
小1
部首:⼦
3画
“眸”で始まる語句
眸
眸底
眸中
眸瞳
眸瞼
眸裡
眸許
眸鼻