真実ほんと)” の例文
旧字:眞實
真実ほんとに愛せられることもかつてなかった。愛しようと思う鶴さんの心の奥には、まだおかねの亡霊が潜みわだかまっているようであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、その通信の新聞に出た日、「真実ほんとでせうか。」と会ふ人毎に訊かれたとき、「おそらく真実だらう。」と、言下に私は答へました。
井上正夫におくる手紙 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
翌朝『常』が三の宮の踏切で鉄道往生を遂げて居ると近所で噂が立つたので、栄一はおしんの処に聞きに行つたが、それは真実ほんとであつた。
つけたら藁一本だって外さないと云う噂じゃありませんか。それに、あの液体の事が真実ほんととすると犯人を見分けるのも一層楽になるし——
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
真実ほんとに、何とも申上げようが御座いません……小泉さんは、まだそれでも男だからう御座んすが、こちらの叔母さんが可哀そうです」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私が初めて知りました真実ほんとのお父さん……森栖校長先生を反省さして下さる貴女あなたの御親切に私からお礼を言わして下さいましね。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
真実ほんとなのだ)と思うと、覚明も性善坊も胸もとまでつきあげていた涙がいっさんに顔を濡らして、両手のうえに肩をくずしてしまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怖いのは真実ほんとに追掛けられている最中なので、追想して話す時にゃ既に怖さは余程失せている。こりゃ誰でもそうなきゃならんように思う。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
真実ほんとのことがね、死ななければならない事情があるなら、私にだけは話してくれてもよかったと思いますわ。黙って独りで死ぬなんて——。
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「どうぞ殺して下さい。生きていても望みのない身体、小さい時死に別れた、真実ほんとの両親のところへ行くのが、せめてもの望みでございます」
「まア、真実ほんとに油断がならないね。大丈夫私は気を附けるが、お徳さんもられそうなものは少時ちょっとでも戸外そと放棄うっちゃって置かんようになさいよ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
初めて私には、真実ほんとの美しさというものは白人よりもむしろ磨きの掛かった優生の東洋人に存することを感じたのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
真実ほんとにこうおもうて来たわ、と言葉をしばしとどめて十兵衛が顔を見るに、俯伏うつむいたままただはい、はいと答うるのみにて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「檀那様、私どもの婚礼に祝つて戴きたいと思ふものが、やつと見つかりましてございますが、真実ほんとに祝つて戴かれますのでございませうか。」
随つて、工藤様といへば、村の顔役、三軒の士族のうちで、村方から真実ほんとに士族扱ひされたのは私の家一軒であつた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たしかめたい、一枝と村川について真実ほんとのことを知りたい。この不快な疑惑を晴らしたい。わるいことだが、ただ立ち合うことだけはゆるされよう。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
オランダの軍人諸君、君たちがいくら細工をしてもうそ真実ほんとに勝てない証拠を、君たち自身で実験しただろう、君たちは出発点から間違っていたのだ。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
思いつめて死にました、しかし私の体は、まだ真実ほんとに死んでおりませんから、あなたと夫婦になることができます、塚をあばいて、棺の中から私の体を出してください
再生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
又「隠しはしねえ、僕が真実ほんとに預り証書を持って居ても、これをしょうにして訴える訳にはいかん、三百円貰ったのがあやまりだから仕方がねえ、役に立たぬ証書じゃねえか」
お鶴はうれしそうに笑ってまた頬擦りをするのだった。真実ほんとにお鶴が滝夜叉姫になったのかどうか。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
と、古人もいっていますが、たしかにそれは真実ほんとだと思います。釈尊は、実にこの「因縁の原理」、「縁起の真理」を体得せられて、ついに仏陀ぶっだとなったのであります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
俺は俺自身が愛惜いとしい、命が惜しい、死に度くない、況して嘘か真実ほんとか第三者の中傷か、いざとなつたら二人のどちらが罪が重くなるだらうと一時はわなわな顫へたといふ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
が、ざっくばらんにいえば、それは真実ほんとのことなので、お高は、ぞくっと寒けのようなものを感じながら、無言でいた。みちへ出ると、磯五は、さっさとお高を離れかけた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それでは私がみづ江を真実ほんとの心から愛してゐるものと思ひ込んでゐるのであらうか。或はまた、私とみづ江とがその一歩を超えた関係をもつてゐるとでも思つてゐるのであらうか。
青春の天刑病者達 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
ゲエープツ、ああ酔つたぞ酔つたぞ真実ほんとに好い心持に酔つて。かう酔つた時の心持は実に何ともいへないや。かかあが怒らうが、小児がきが泣かうがサ、ハハハハゲエープツ、ああ好い心持だ。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
どうかして手首の自由を得ようと頻りにもがいて居りますと、誰かが鍵をガチャガチャやって部屋へ入って来ました。それが林小父さんだったのです。真実ほんとに私はどんなに嬉しかったでしょう。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
真実ほんとにね、清さんがこんなに成らうとは思はなかつたんですよ。』
若芽 (新字旧仮名) / 島田清次郎(著)
私ア真実ほんとに、真実に、真実に、真実に、真実に、真実に怒ったわ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
真実ほんとにどこかおわるいの。」と妻が小声でく。道助はぢつと他所よそ見凝みつめて答へない。彼女がそつと夜具に手をかけた。彼はそれをピシリと叩いた。彼女は黙つたまゝ頬を痙攣けいれんさせて出ていつた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
「私だってあの女には真実ほんとに惚れているんですよ」
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それが真実ほんとを見えなくしちまふ。
(何と不思議なことではありませんか。私は、これ程仲のいい友達が、これほどさつぱり別れることが出来たといふことは、とても真実ほんととは思はれません。私にとつては世の中のどんな珍らしい魔術よりも不思議に思はれてなりません。)
駒鳥の胸 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
真実ほんとに、橋本さんは御羨おうらやましい御身分ですねえ——御国の方からは御金を取寄せて、こうしていくらでも遊んでいらっしゃられるなんて」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これはどうやら歴史上から見ても、真実ほんとのことのように思われる。その証拠には近古史談に次のような史詩が掲載されてある。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
食い物もろくに食わずに、土間に立詰めだ。指頭ゆびさき千断ちぎれるような寒中、炭をかされる時なんざ、真実ほんとに泣いっちまうぜ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
聖人になりたい、君子になりたい、慈悲の本尊になりたい、基督クリスト釈迦しゃか孔子こうしのような人になりたい、真実ほんとにそうなりたい。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それがために辞書から「閣下」といふことばが減る訳でもないし、もしか真実ほんとに不足でもしたら、その折は代りに文部大臣宛のをでも一つ倹約しまつして
雖然けれどもどう考えても、例えば此間盗賊に白刃はくじんを持て追掛けられて怖かったと云う時にゃ、其人は真実ほんとに怖くはないのだ。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
必ず小田切時代が来ると伯爵が断言したとか、真実ほんとか嘘か分らないが、いずれにしてもその予言が当って、その後小田切氏はとんとん拍子に栄転した。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
むしろ時々彼の胸に忍び入る彼の真実ほんとのたましいを、その人間の両脚は摩利支天まりしてんみたいに踏ンまえている姿だった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『あの、源助さん、今朝の話ア真実ほんとでごあんすよ。』源助は一寸真面目な顔をしたが、また直ぐに笑ひを含んで
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いくら下りだって甲府までは十里近くもある路を、夜にかかって食物の準備よういも無いのに、足ごしらえも無しで雪の中を行こうとは怜悧りこうのようでも真実ほんと児童こども
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だが、階下の縁へ飛び下りた拍子に、足の裏に敷居の胡麻油が付こうたあ、はっはっは、彦、この落ちあどうでえ、これこそ真実ほんとに、とんだことから足がついたってもんだぜ。
お袖は真実ほんとうそをごっちゃにして、客の同情に訴えて、関係しないで金をもらっていた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どこの心配切解せっかいするやら。かんの虫見る眼鏡も無ければ。あなた恋しで上った熱度が。寒暖計にも上った事かや。にせのキチガイ真実ほんとのキチガイ。レントゲンでも透かして見えない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
真実ほんとかえ、こいつは大事のことなんだが、少しの間も脱がなかったのだな」
と私の涙を誘うようにき口説くので、いつも私が言うことをきかないと「もう乳母は里へ帰ってしまいます」と言うのが真実ほんとになりはしないかと思われて知らず知らずホロリとして来たが
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
どうも真実ほんと虚言うそか旦那さまのお心持が聞きたいと思ったのでございましょうか、今そっと抜足を致して玄関の式台を上り、長四畳へ這入って参り、折曲おりまがって入側の方へ附いて来ます途端に
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それが真実ほんとでござりますやろ」という。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
真実ほんとにお父さまには困つてしまうよ。
当世二人娘 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)