白檀びゃくだん)” の例文
酒ん中へいろんな混ぜものをしやがるんだ、白檀びゃくだんだの、焼いたコルクだのをいれたり、接骨木にわとこの実で色つけまでしやがるんだからさ。
これがすなわち美術協会の新古展覧会の第一回で、明治十七年のことでありました。その時私は白檀びゃくだん蝦蟇仙人がませんにんを彫って出品しました。
それはもう朽ちた木で何ともわからなかったが、白檀びゃくだんとか伽羅きゃらとかいう霊木ででもあったのだろうか、不思議の名香に驚いたのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「キャラコ」のキャラは、白檀びゃくだん、沈香、伽羅きゃらの、あのキャラではない。キャラ子はキャラコ、金巾かなきんのキャラコのことである。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「それは旦那のでございます。白檀びゃくだんとか沈香ちんこうとかの入った、長い長いカンカンの線香がお好きで、半ときいぶっていると御自慢にしていました」
あの黒方くろほうと云う薫物たきもの、———じんと、丁子ちょうじと、甲香こうこうと、白檀びゃくだんと、麝香じゃこうとをり合わせて作った香の匂にそっくりなのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それで古来木理の無いような、ねばりの多い材、白檀びゃくだん赤檀しゃくだんの類を用いて彫刻ちょうこくするが、また特に杉檜すぎひのきの類、とうの進みの早いものを用いることもする。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
タパをまとった者、パッチ・ワークを纏った者、粉をふった白檀びゃくだんを頭につけた者、紫の花弁を頭一杯に飾った者…………
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
肩に止まったは白烏、手についたは白檀びゃくだんの杖、鶴髪かくはつ童顔、そうして跣足はだし! 響き渡るはわだちの音! 十本の薬草花を持ち上げ例によって王冠、ユラユラと動く。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこでその死体を出して、よい泥と白檀びゃくだんの木を粉にした物とを一緒にねてその痩せこけた死体に塗るのですが、それには何かチベットの外の薬も混って居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
高い所なので、冬はほとんど雪に埋れて暮すのだそうである。冬の仕事に沢山白檀びゃくだんの木を買ってあった。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
お絹は手炙てあぶりに煙草火をいけて、白檀びゃくだんべながら、奥の室の庭向きのところへ座蒲団を直して
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
生絹は白檀びゃくだんの香のしみる装束を掻きいだくようにして、占う男の言葉をはずかしく思った。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一山に寺々を構えた、その一谷ひとたにを町口へ出はずれの窮路、陋巷ろうこうといった細小路で、むれるような湿気のかびの一杯ににおう中に、ぷん白檀びゃくだんかおりが立った。小さな仏師の家であった。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の知っているもので、父が本仕上げにしたものは、浅草の清光寺にある白檀びゃくだん阿弥陀あみだ様がその一つだ。七、八寸ある像だが、非常な手間をかけて本仕上げに仕上げたものである。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
右の栴檀は白檀びゃくだんすなわち檀香の事で印度などの熱帯地方に産し Santarum album, L. の学名を有する半寄生の常緑樹で「びゃくだん」科に属するものである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
町の男女のあいだにはもう薄暑はくしょれ合い、白檀びゃくだん唐扇からおうぎを匂わす垂衣たれぎぬの女もあった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿弥陀あみだ仏と脇士わきし菩薩ぼさつが皆白檀びゃくだんで精巧な彫り物に現わされておいでになった。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
伽羅きゃらのようにからみつくようなところもなく、白檀びゃくだんのように重くもない。すが々しい、そのくせ、どこかほのぼのとした、なんとも微妙な匂いである。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
第一が黒の蝋色ろういろである。それから、朱、青漆あおうるし、朱うるみ、ベニガラうるみ、金白檀びゃくだん塗り、梨子地なしじ塗りなど。
伊賀の服部はっとり三河の足助あすけ矢矧衆やはぎしゅうつわものどもが、色さまざまの旗標はたじるし立て、黄や緋縅や白檀びゃくだん磨きや、啄木たくぼく花革はなかわ、藤縅や、さては染め革や柑子こうじ革や、沢瀉おもだかなどの鎧を着、連銭葦毛れんぜんあしげ、虎月毛
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
床の間の香炉からは、始終紫色の香の煙が真っ直ぐに静かに立ち昇って、明るい暖かい室内をきしめて居た。私は時々菊屋橋ぎわみせへ行って白檀びゃくだん沈香じんこうを買って来てはそれをべた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
金箔きんぱく銀箔瑠璃るり真珠水精すいしょう以上合わせて五宝、丁子ちょうじ沈香じんこう白膠はくきょう薫陸くんろく白檀びゃくだん以上合わせて五香、そのほか五薬五穀まで備えて大土祖神おおつちみおやのかみ埴山彦神はにやまひこのかみ埴山媛神はにやまひめのかみあらゆる鎮護の神々を祭る地鎮の式もすみ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
父の勘定の仕方は、一日の手間賃がいくらと決めて、幾日かかったからというので値段が出るのである。材料なども白檀びゃくだんとか特別のものになると違うが、普通のものは手間賃の中に入れて了う。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それでその売価はというと、これが不思議な位のことで、観音は大きさが一尺で、材は白檀びゃくだん、充分に手間をかけた念入りの作。厨子はこれまた腕一杯に作ってある。
うり浸して食いつゝ歯牙香しがこうと詩人の洒落しゃれる川原の夕涼み快きをも余所よそになし、いたずらにかきをからみし夕顔の暮れ残るを見ながら白檀びゃくだんの切りくず蚊遣かやりにきて是も余徳とありがたかるこそおかしけれ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かたわらに引き添った一老人、すなわち薬草道人で腰ノビノビと身長せい高く、鳳眼鷲鼻白髯白髪、身には襤褸つづれを纒っているが、火光に映じて錦のようだ、白檀びゃくだんの杖を片手に突き、土を踏む足は跣足はだしである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)