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疑懼
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ぎく
ふりがな文庫
“
疑懼
(
ぎく
)” の例文
なぜと云ふに、僕の願にジユリエツトが応ぜないかも知れないと云ふ
疑懼
(
ぎく
)
は、どの点から見ても無いからである。此女には夫がある。
不可説
(新字旧仮名)
/
アンリ・ド・レニエ
(著)
矢島
優善
(
やすよし
)
は前年の暮に
失踪
(
しっそう
)
して、渋江氏では
疑懼
(
ぎく
)
の間に年を送った。この年
一月
(
いちげつ
)
二日の午後に、石川駅の人が二通の手紙を持って来た。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
の木彫に出会って、これが自分で捌き得る人物だろうかと、
大
(
おおい
)
に
疑懼
(
ぎく
)
の念を抱かざるを得なくなり、又今更に
艱苦
(
かんく
)
にぶつかったのであった。
雪たたき
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
クリストフは
疑懼
(
ぎく
)
しなかった。彼女にたいしてごく懇切であり、あまりに懇切すぎた。大きな
坊
(
ぼっ
)
ちゃんとして甘ったれていた。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
私は山岸さんの判定を、素直に全部信じる事が出来なかったのである。「どうかなあ」という
疑懼
(
ぎく
)
が、心の隅に残っていた。
散華
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
▼ もっと見る
「そんな阿呆なことが、……」と伯父は打ち消したが、其時の態度や言葉の調子では、彼が或る
疑懼
(
ぎく
)
を心に感じて居ることが明らかであつた。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
自分の弱点を恥じる心が、嫌われるだろうと思う
疑懼
(
ぎく
)
に交って、とうとうわたくしをあの場から逃げさせてしまいました。
田舎
(新字新仮名)
/
マルセル・プレヴォー
(著)
平次を先に、お夏を中に挟んで、ガラッ八が
殿
(
しんがり
)
を勤め、丸屋の、不安と
疑懼
(
ぎく
)
とを包む空気の中へ入って行きました。
銭形平次捕物控:070 二本の脇差
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
諺にも「疑心暗鬼を生ず」といえるがごとく、多くの災難、不幸は、これを
疑懼
(
ぎく
)
するより起こるに相違ありませぬ。
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
疑懼
(
ぎく
)
し、躊躇するところは絶対にない。本格、変格の名にこだわって、前後を見まわす必要は断じてない。
甲賀三郎氏に答う
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
情夫、情婦、私生児、窃盗嫌疑、堕胎
疑懼
(
ぎく
)
等、凡そ善良な人間に関係のある言葉ではない。私がとく子を愛したばかりに、このように彼女を傷つけたことになる。
澪標
(新字新仮名)
/
外村繁
(著)
皆
(
みんな
)
にまた
口汚
(
くちぎた
)
なくいわれる
疑懼
(
ぎく
)
と、ひとつは
日頃
(
ひごろ
)
嘲弄
(
ちょうろう
)
される
復讐
(
ふくしゅう
)
の気持もあって、実に男らしくないことですが、手近にあった東海さんの上着からバッジを
盗
(
ぬす
)
み
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
この不安と
疑懼
(
ぎく
)
の念は道徳的反省の後に起るのではなくて、
寧
(
むしろ
)
生理的に
因
(
よ
)
るものと見ねばならない。
噂ばなし
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
我が「サン、カルロ」の劇場に登るべき日は
明日
(
あす
)
となりぬ。これを待つ
疑懼
(
ぎく
)
の情と、さきの夜戀の敵に出逢ひたる驚愕の念とは我をして暫くも安んずること能はざらしむ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
私だけは
一
(
ウナ
)
の裏にまたダッシュの
一
(
ウナ
)
がありはしないかと邪推し、嫉妬し、
疑懼
(
ぎく
)
し……その我と我から
醸
(
かも
)
す邪推や
危惧
(
きぐ
)
や、嫉妬の念に堪えやらずして、自分と自分からめった
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
境涯が境涯だから人にも
賤
(
いや
)
しめられ侮られているが、世間を
呑込
(
のみこ
)
んで少しも
疑懼
(
ぎく
)
しない気象と、人情の機微に通ずる貴い同情と——女学校の教育では決して得られないものを持ってる。
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
私は宝蔵殿の見世物式陳列ぶりをみて内心
疑懼
(
ぎく
)
たるものがあった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
しかしこの時、彼の心中には、全く種類を異にしたある別の
疑懼
(
ぎく
)
の念が
蠢動
(
しゅんどう
)
していた。しかも自分ではっきりとそれを把握することができないために、それはいっそう悩ましく感ぜられるのであった。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
彼等の表情には、犯罪者の
疑懼
(
ぎく
)
などは影さえも差さなかった。
恐ろしき錯誤
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
疑懼
(
ぎく
)
のカリギュラは、くすと笑った。よし、よし。罪一等を減じてあげよう。遠島じゃ。ドミチウスを大事にするがよい。
古典風
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
いつも
疑懼
(
ぎく
)
の念をいだいてるらしかったが、時によると急に神経のくつろぎを見せ、しかもある残忍さを隠しもっていた。
ジャン・クリストフ:10 第八巻 女友達
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
我軍
(
わがぐん
)
は再戦して
再挫
(
さいざ
)
し、猛将多く亡びて、衆心
疑懼
(
ぎく
)
す。戦わんと欲すれば力足らず、帰らんとすれば前功
尽
(
ことごと
)
く
廃
(
すた
)
りて、不振の形勢
新
(
あらた
)
に
見
(
あら
)
われんとす。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
中は仏間と居間と台所だけの簡素な造りで、そこに大きな
疑懼
(
ぎく
)
を
背負
(
しょ
)
わされて、閉じ込められた六人の男女は、更ける夜とともに不安を募らせるばかりです。
銭形平次捕物控:069 金の鯉
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
故をもって、下流社会はいうに及ばず、中等以上の人々まで大いに
疑懼
(
ぎく
)
の念を抱き、百方これを避けんとするものがるるに道なく、ついに迷信の淵に沈むに至る。
迷信と宗教
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
甥の奴が田舎から出て来よつたよつて、飯焚きでもさして食はして置いてやれ、そんな風に思つて居るのではないかと、私は時に
疑懼
(
ぎく
)
の念に襲はれることがあつた。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
渋江氏では、もしその
請
(
こい
)
を
納
(
い
)
れなかったら、あるいは両家の間に
事端
(
じたん
)
を生じはすまいかと
慮
(
おもんぱか
)
った。陸が遂に文一郎に嫁したのは、この
疑懼
(
ぎく
)
の犠牲になったようなものである。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
けふの樂はいかに我憂を拂ひし。未だ聽かざりし時の我
疑懼
(
ぎく
)
、鬱悶、苦惱は
幾何
(
いくばく
)
なりし。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
あのマドレエヌに逢ってみたらイソダンで感じたように楽しい
疑懼
(
ぎく
)
に伴う熱烈な欲望が今一度味われはすまいか。本当にあのマドレエヌが昔のままで少しも変らずにいてくれればいい。
田舎
(新字新仮名)
/
マルセル・プレヴォー
(著)
新人よ、
疑懼
(
ぎく
)
し躊躇する事は絶対にない。
探偵小説の真使命
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
が、何にせよ此時蒲生方に取って主人氏郷が
茶讌
(
ちゃえん
)
に赴くことを非常に危ぶんだことは事実で、そして其の
疑懼
(
ぎく
)
の念を
懐
(
いだ
)
いたのも無理ならぬことであった。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
谷中
(
やなか
)
に蓮華往生のあった少し前のこと、疑うことを知らない江戸の人達は、ささやかな天霊様の祈祷所を、瞬く間に三倍五倍に拡張させ、
疑懼
(
ぎく
)
と好奇まで手伝って
銭形平次捕物控:088 不死の霊薬
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
かつて
狐火
(
きつねび
)
や
天狗火
(
てんぐび
)
や幽霊火のことは聞いておれども、今見たる火はそのようの
怪火
(
かいか
)
ではなかろうと知りつつ、なんとなく
疑懼
(
ぎく
)
の念が起こり、ことに真っ黒の物の見ゆるのは
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
けれどもただ、金のある結婚にたいするクリストフの不当なやや
滑稽
(
こっけい
)
な
疑懼
(
ぎく
)
には、同感できなかった。富は魂を滅ぼすという考えは、クリストフの頭に深く根をおろしていた。
ジャン・クリストフ:10 第八巻 女友達
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
大病にでもなつたらどうしようと云ふ
疑懼
(
ぎく
)
が潜んでゐて、折々妻が里方から金を取り出して來て穴填をしたことなどがわかると、此疑懼が意識の閾の上に頭を擡げて來るのである。
高瀬舟
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
今の
疑懼
(
ぎく
)
の心持は昔マドレエヌの家の小さい客間で、女主人の出て来るのを待ち受けた時と同じではないか。人間の記憶は全く意志の
掣肘
(
せいちゅう
)
を受けずに古い閲歴を堅固に保存して置くものである。
田舎
(新字新仮名)
/
マルセル・プレヴォー
(著)
妹のお
文
(
ふみ
)
と内弟子が三人、下女が一人、
更
(
ふ
)
ける夜を寝もやらず、不安と
疑懼
(
ぎく
)
とに
顫
(
ふる
)
えていたのです。
銭形平次捕物控:053 小唄お政
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
瞬く間に
踏潰
(
ふみつぶ
)
されて終うか、
然
(
さ
)
無
(
な
)
くとも城中
疑懼
(
ぎく
)
の心の堪え無くなった頃を潮合として、扱いを入れられて北条は開城をさせられるに至るであろう、ということであった。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
思慮のある男には
疑懼
(
ぎく
)
を
懐
(
いだ
)
かしむる程の
障礙物
(
しょうがいぶつ
)
が前途に
横
(
よこた
)
わっていても、女はそれを
屑
(
もののくず
)
ともしない。それでどうかすると男の
敢
(
あえ
)
てせぬ事を敢てして、おもいの外に成功することもある。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
懿文
(
いぶん
)
太子の
薨
(
こう
)
ずるや、身を
挺
(
ぬき
)
んでゝ、皇孫は
世嫡
(
せいちゃく
)
なり、大統を
承
(
う
)
けたまわんこと、礼
也
(
なり
)
、と云いて、内外の
疑懼
(
ぎく
)
を定め、太孫を立てゝ
儲君
(
ちょくん
)
となせし者は、実に此の劉三吾たりしなり。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
弟を失った杉之助は、武家としての生活に
疑懼
(
ぎく
)
を生じ、そのまま禄を捨てて浪人し、宗方善五郎の隠れ住む江戸に来て、同じ町内の手習師匠などをして、なんとなしに五六年を過しました。
銭形平次捕物控:114 遺書の罪
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
大病にでもなったらどうしようという
疑懼
(
ぎく
)
が潜んでいて、おりおり妻が里方から金を取り出して来て穴うめをしたことなどがわかると、この疑懼が意識の
閾
(
しきい
)
の上に頭をもたげて来るのである。
高瀬舟
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
桜屋の店の中は、不安と
疑懼
(
ぎく
)
と、
慟哭
(
どうこく
)
と
懊悩
(
おうのう
)
とが渦を巻いておりました。
銭形平次捕物控:103 巨盗還る
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
延期は自分が
極
(
き
)
めて堀に言つて
遣
(
や
)
つた。
若
(
も
)
し手遅れと云ふ問題が起ると、堀は
免
(
まぬか
)
れて自分は免れぬのである。跡部が丁度この
新
(
あらた
)
に生じた
疑懼
(
ぎく
)
に悩まされてゐる所へ、堀の
使
(
つかひ
)
が手紙を持つて来た。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
長文の訴状の末三分の二程は筆者九郎右衛門の
身囲
(
みがこひ
)
である。堀が今少しく
精
(
くは
)
しく知りたいと思ふやうな事は書いてなくて、読んでも読んでも、陰謀に対する九郎右衛門の立場、
疑懼
(
ぎく
)
、
愁訴
(
しうそ
)
である。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
恐怖と
疑懼
(
ぎく
)
とにさいなまれて、腹の底から
顫
(
ふる
)
えている様子です。
銭形平次捕物控:130 仏敵
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
意志の確かでない跡部は、荻野等三人の
詞
(
ことば
)
をたやすく
聴
(
き
)
き
納
(
い
)
れて、逮捕の事を
見合
(
みあは
)
せたが、既にそれを見合せて置いて見ると、その見合せが自分の責任に帰すると云ふ所から、
疑懼
(
ぎく
)
が生じて来た。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
文芸の世界は
疑懼
(
ぎく
)
の世界となった。
沈黙の塔
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
“疑懼”の意味
《名詞》
疑 懼 (ぎく)
うたがいおそれること。
(出典:Wiktionary)
疑
常用漢字
小6
部首:⽦
14画
懼
漢検1級
部首:⼼
21画
“疑懼”で始まる語句
疑懼心