物識ものし)” の例文
物識ものしり顔で言う男もあれば、いやいやそうではない、何事につけても敬神崇仏、これを忘れるなという深いお心、むかし支那しな
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
土を噛まない首だとて、こう粗末に扱われては、ちっとやそっとの祟りはあるだろうが、それについて物識ものしりが附け加えて言う
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
物識ものしりの説では、この頃あの袋は随分大阪では流行しているのだそうだ、名も宴会袋とか何んとかいってこの目的のために作られてあって
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
あの驚く物識ものしり、故小栗虫太郎氏の小説の中にさえも、音楽上のことに関しては多少の誤は免れなかったようである。
探偵小説と音楽 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
何しろ新材料はやみみと云うとこで、近所の年寄や仲間に話して聞かせると辰公は物識ものしりだとてられる。迚も重宝ちょうほうな物だが、生憎あいにく、今夜は余り材料たねが無い。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
毒殺して、十両ゴマ化そうとしたに違いないのですぜ。あいつはもとから物識ものしりなのですからね。ネエ旦那そうでしょう、一ツ考えておくんなさい
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「学問なんて、要らん。腕と力とさえありゃ、龍になって、昇天することが出来る。物識ものしり馬鹿ちゅうものもある。そんなものにはなりとうない」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
あの物識ものしりのところへっていって、てもらおうかしらん。どうせつまらないものでも、もともとだ、まん一いい代物しろものであったらおもわぬもうけものだ。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この人々は官民間でつとに美術界のことに尽力していた人で、当時の物識ものしりであり、先覚者でもあったのであります。
「坊やちゃん、元禄が濡れるから御よしなさい、ね」と姉が洒落しゃれた事を云う。そのくせこの姉はついこの間まで元禄と双六すごろくとを間違えていた物識ものしりである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無意味な先生は誰かと云えば、先生よりも物識ものしりの生徒の先生と、涅槃大学校の印度哲学科の先生であった。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
というのは、彼はなかなか物識ものしりでね、それも非常にかたよった、風変りなことを、実によく調べているのだ。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むかし、ある物識ものしりが、明盲あきめくらの男を戒めて、すべて広い世間の交際つきあひは、自分の一量見をがむしやらに立てようとしてはいけない、相身互ひの世の中だから、何事にも
むしろ地下街というべきところは、いつの間に造られ、一体どこをどういまわっているのであるか、仮りに物識ものしりを誇る東京市民の一人を、そこに連れこんだとしても
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そう何からなにまで誰でも知ってるんじゃあ僕も物識ものしり顔をする機会がなくて困るんだが——ここにたった一つ、これは確かに僕が最初に発見したんだと揚言してはばからない
ところが漁夫達の中に一人の物識ものしりがいまして、そういう沼に住むくらいの正覚坊だから、きっと石にけたのに違いない、と言い出しました。人々もなるほどと考えました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
すなわち目に一丁字いっていじなきこれ等の女性文人が、特に物識ものしりとして尊ばれた根拠である。
ことによるとあのお艶という女は眷属様けんぞくさまのお一人がかりに人体にんたいをとってお徒歩しのびに出られるのではあるまいかなどと物識ものしり顔に並べ立てる者も出て来て、この説はかなりに有力になり
年寄りの物識ものしり連中で、彼らはヴァン・タッセル老人をかこんでヴェランダのはしに坐り、煙草たばこをふかしながら昔ばなしをしたり、独立戦争の長い物語をのんびりとやったりしていた。
仁右衛門は声の主が笠井の四国猿奴しこくざるめだと知るとかっとなった。笠井は農場一の物識ものしりで金持まるもちだ。それだけで癇癪かんしゃくの種には十分だ。彼れはいきなり笠井に飛びかかって胸倉むなぐらをひっつかんだ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は孫が自分より物識ものしりになるのを喜んでいた。そしてまた、印刷所のインキにたいして尊敬をいだいていた。ところでこの新しい職業では、前の職業にいるときより仕事はいっそう骨が折れた。
と、物識ものしり顔が、声を出して読んでいる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物識ものしり顔に世を渡る。
秋の小曲 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
だいに様、だいに様と言わないで、本名の山県大弐を呼びさえすれば、土地の物識ものしりは知っているということもわかりました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このひとけば、役所やくしょとどけのことも、また書画しょが鑑定かんていも、ちょっとした法律上ほうりつじょうのこともわかりましたので、むらうち物識ものしりということになっていました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この世の中に存在する人間の中で「物識ものしりと称する人間ほどイヤなものはない」と私は考えているほどである。
ある時物識ものしりのお客が訪ねて来て、爺さんを相手に、「寺子屋」の武部源蔵は、あの浄瑠璃の作者が、同じ時代に江戸に武部源内といつた、名高い寺子屋の師匠があつたので
「おお、蟹寺博士か。なるほど、そいつはいい思いつきだ。先生は非常な物識ものしりだから、きっとこの不思議をといて下さるだろう。ではすぐ博士に電話をかけて、おいでを願おう」
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
当時或る一部の数奇者すきしゃ——単に数奇者といっては意を尽くせませんが、或る一部の学者物識ものしりであって、日本の美術工芸を愛好する人たち——そういう人たちが、その頃の日本の絵画
そのうえ、彼は婦人たちにたいへんな物識ものしりとして尊敬されていた。なにしろ彼は数冊の書物を読んでいたし、コットン・マザーの「ニューイングランド魔術史」には精通していたのだ。
「それは貴殿の無学のせいだ。」と日頃の百右衛門の思い上った横着振りに対する鬱憤うっぷんもあり、みつくような口調で言って、「とかく生半可なまはんか物識ものしりに限って世に不思議なし、化物なし、 ...
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なかにひとり物識ものしりぶったのが
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おれの仲間のやぶのところへ、なまじ物識ものしりの奴が病気上りに、先生『ふぐ』を食べてよろしうございますか、と手紙で問い合わせて来たものだ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この詐欺師さぎしめが、天下てんかぴんに、二つあって、たまるものか。おまえは、あの物識ものしりとぐるになって、おれに、やくざものわせようとたくらんだにちがいない。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
従ってわが東京における諸外国大使の動きも非常に活溌であって、或る物識ものしりの故老の言葉を借りると、欧洲大戦当時、ロンドンにおける外交戦の多彩活況も、これには遠くおよばないそうである。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と一座の中の物識ものしりが、勝麟太郎の家柄を洗い立てにかかったのが、ようやく話題の中心に移ろうとする時でありました。
「わたしが、そんなに物識ものしりなのではございません、みんな白骨温泉の炉辺閑話の受売りでございますから、買いかぶらないように、お聞き下さいましよ」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一行のうちの物識ものしりが答えます。やがてこの本陣を出て右の猿橋へかかった時分に、そこで一行は、橋以外にまた奇体なものにぶっつかることになりました。
「ところで——物識ものしりの先生、この信州松本に、藤江正明老人という神主様のあることを、御存じですか?」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さすがの物識ものしりも苦笑をもってするほか、おやじに一矢酬ゆることができません。その苦衷を知ってか知らずにか、金茶金十郎が、傍らから差出口を試みて
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど、この老爺おやじ物識ものしりだ、色が黒いから「炭焼江戸ッ子」だなんて言ったのは誰だ! 上は法華経よりはじめて、江戸時代の裏表を手に取るように知っている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
物識ものしりだからといって、昨日今日の戦いのことではなし、小西の紋がどうで、石田がどうで、安国寺がどうで、小早川がどうだということを、精細に心得ている者が無い。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
単に自分よりも物識ものしりであるという意味で問いつ語りつしているのではない、何かこの問題に向って、圧倒的に、自己の断定を押しつけてしまわねば満足できない、そこで居合わせたお雪ちゃんを
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「曲亭の燕石雑志えんせきざっしなんぞにありゃしないか、あれは物識ものしりだから」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「年寄の物識ものしりに尋ねたらわかるでしょう」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なんのまあ、お前様ほどの物識ものしりが」
あっぱれ立派な物識ものしりめかして
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)