燈灯ともしび)” の例文
燈灯ともしびのない畳には、月明りが白くしこんでいた。小次郎はそこへあがるとすぐ、酔った体を仰向けに横たえて、手枕をかった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、この出來事できごとわたし眠氣ねむけ瞬間しゆんかんましてしまつた。やみなか見透みすかすと、人家じんか燈灯ともしびはもうえなくなつてゐた。Fまち夢中むちうとほぎてしまつたのだつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
運命のむちが、小止おやみもなしに私の身にふりかかって、時にはもう、ほとほと我慢のならぬほど、つらい時もあります。だのに私には、遥か彼方で瞬いてくれる燈灯ともしびがないのです。
と、冬の街路に炉辺ろへん燈灯ともしびを恋うる蕪村は、裏街を流れる下水を見て
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
わびさみしきよいを、ただ一点のあかきにつぐのう。燈灯ともしび希望のぞみの影を招く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつのまにやら一点の燈灯ともしびもなく、阿波守を初め三卿の人々は、物音と同時にすばやく奥へ退座たいざしてしまったらしい。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは乳色ちゝいろ夜靄よもやまち燈灯ともしびをほのぼのとさせるばかりにめた如何いかにも異郷いきやうあきらしいばんだつたが、ぼく消息通せうそくつうの一いうつて上海シヤンハイまちをさまよひあるいた。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
もちろん燈灯ともしびをともしては館の者に気づかれるおそれがあるから、明りもない閨戸ねやどとばりうつろにしては
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、左手ひだりてはう人家じんか燈灯ともしびがぼんやりひかつてゐた——Fまちかな‥‥とおもひながらやみなか見透みすかすと、街道かいだう沿うてながれてゐるせま小川をがは水面みづもがいぶしぎんのやうにひかつてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
長浜城の狭間はざまにはもう燈灯ともしびがついて、夜となった町の辻には、いつまでもがやがや人がさわいでいた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かぜはなかつた。空氣くうきみづのやうにおもしづんでゐた。人家じんかも、燈灯ともしびも、はたけも、もりも、かはも、をかも、そしてあるいてゐる我我われわれからだも、はひとかしたやうな夜霧よぎりうみつつまれてゐるのであつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ふまでもない、四馬路スマロ東京とうきやう銀座ぎんざだ。が、君子國くんしこく日本にほんのやうに四かくめん取締とりしまりなどもとよりあらうはずもなく、それは字義通じぎどほりの不夜城ふやじやうだ。人間にんげんうごく。燈灯ともしび映發えいはつする。自動車じどうしやく。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)