烽火のろし)” の例文
急を報ずる合図の烽火のろしみさきの空に立ち登り、海岸にある番所番所はにわかにどよめき立ち、あるいは奉行所ぶぎょうしょへ、あるいは代官所へと
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
張任は、こう勇断を下して、やがて一発の烽火のろしをあいずに、銅鑼どらつづみの震動、喊声かんせいの潮、一時に天地をうごかして、城門をひらいた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
峠の中腹と覚しい辺りから虚空こくうに高く一条の烽火のろしが金竜のように昇ったかと思うと再び前の静寂に帰り谿谷は睡眠ねむりに入ったらしい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
岸から打ち上げる目標の烽火のろしが紫だって暗黒な空の中でぱっとはじけると、鬖々さんさんとして火花を散らしながらやみの中に消えて行く。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「それが、貴方にあるたった一つの障害なのじゃ。歪んだ空想のために、常軌を逸しとるのです。わし虚妄うそ烽火のろしには驚かんて」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
火箭が飛ぶ、火が油に移る、嗚呼そのハツ/\と燃えむる人生の烽火のろしの煙の香ひ! 英語が話せれば世界中何処へでも行くに不便はない。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「食卓の上が貧しいであらうことの代りとして、庭先に烽火のろしをあげて、吾等の豊漁踊りを御覧に入れ、遠来の女王様の御気嫌を窺はうか?」
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
のみならずそれは経験によれば、芸術的興奮の襲来をあらかじめ警告する烽火のろしだつた。これだけは誰が何と云つても、僕にだけは間違ひのない事実である。
金春会の「隅田川」 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
劇界に身を投じては伊井蓉峰ようほう帷幕いばくに参じたが、今や梨園りえんの名家たる市川左團次と握手して劇壇革新の烽火のろしを挙げた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一夜、城下の街々、各所から烽火のろしがあがった。すると砲声が、ドッと一度に、とどろきわたった。長岡の藩兵は、それに呼応して、官軍を攻撃した。
もっとも電波とは云ってもそれは今のラジオのような波長の長い電波ではなくて、ずっと波長の短い光波を使った烽火のろしの一種であるからそれだけならばあえて珍しくない
変った話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これはイスラエル建国の歴史的回顧と国民的復興の期待との最も昂揚こうようしている時期だ。群衆の人気は明らかにイエスの側にある。今こそ復興運動の烽火のろしをあぐべき絶好の機会チャンスである。
スミルノーフ あれこそ、女だ! あんなら、おれにもわかる! 正真正銘の女だ! 煮えきらない、めそめそしたのと違って、火の玉だ、火薬だ、烽火のろしだ! 殺すのが惜しいくらいだ!
なんだかごちや/\で雜物箱がらくたばこのやうだ、わたし烽火のろしのやうにそらあがつてく!
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
廃れたる烽火のろしの台よ心をば云ふにもあらず山に残れる
ほにこそぐれ、ひとの、あはれ烽火のろしを。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
日々夜々に爆発する天体の烽火のろし
ひとすぢの烽火のろしあがらば
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
番兵はみな関羽の麾下きかである。この象山ぞうざんには例の烽火のろし台があり、陸路荊州まで斜めに数百里のあいだ同じ備えが諸所の峰にあった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俺を俺の部屋に連れて行ってくれ! ……おおそれから鐘を鳴らせ! おおそれから青い火を上げろ! 和睦の合図の青い烽火のろしを!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この勢いの激するところは翌二月における佐賀県愛国党の暴動と化し、公然と反旗をひるがえす第一の烽火のろしが同地方に揚がった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
火箭が飛ぶ、火が油に移る、嗚呼そのハッ/\と燃えむる人生の烽火のろしの煙の香ひ! 英語が話せれば世界中何處へでも行くに不便はない。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
虚妄うそ烽火のろしには驚かんよ。あの無分別者の行動も、いよいよこれで終熄しゅうそくさ。だって考えて見給え。現在僕の部下は、あの四人の周囲をたてのように囲んでいる。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
音は聞こえずに烽火のろしの火花は間を置いて怪火のようにはるかの空にぱっと咲いてはすぐ散って行く。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
燃えこそあがらめ霊の烽火のろし
『二十五絃』を読む (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
燃えこそあがらめれい烽火のろし
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
途端に轟然たる音がして、石灯籠の頂上から、一道の烽火のろしが立ち上り、春日怡々ついついたる長閑の空へ、十間あまり黄煙を引いた。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もし、この都の内で、曹操に対し、あなたが大事を決行する日が来たら、それがしは必ず西涼の遠きより烽火のろしをあげて、今日の約におこたえ申さん」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは全く内地と交渉のない島であるとか、唯、そこに住む島民のうちに死亡者を出した時にのみ、こちらの海岸に向けて烽火のろしを高く打ちあげるといふ。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ハハハハ、虚妄うそ烽火のろしですか」法水はとたんに爆笑を上げたが、静かな洗煉された調子で云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
もちろん、ここも、つなぎ烽火のろしの合図に、全城全土、武装のもとに、利家の本軍が来るのを夜どおし待ちぬいていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうとう、新しい時代の来るのを待ち切れないような第一の烽火のろしが大和地方に揚がった。これは千余人から成る天誅組てんちゅうぐみ一揆いっきという形であらわれて来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そこを狙って悪い奴が——でなかったら義人だが。もっとも血眼で探したって、義の付く人間なんかいませんがね——烽火のろしを揚げたらどうなりましょう」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
抱きおろして、人々は介抱を加えたが、関羽は、自己の不明を慚愧ざんきしてやまず、呂蒙の策や烽火のろし台の変を聞いては
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
筑波の空に揚がった高い烽火のろしは西の志士らと連絡のないものではなかった。筑波の勢いが大いにふるったのは、あだかも長州の大兵が京都包囲のまっ最中であったと言わるる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今夜にも合図の烽火のろしを上げて神保様の軍兵を引き入れることも方寸にある! いやその前に島君を捉え、硫黄ヶ滝へ引いて行き、右衛門めと押し並べて火薬の犠牲にえにしてくりょう
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三好、松永の残党は依然として、うるさい暗闇の伏敵だし、本願寺門徒は、その宗教上の組織と宣伝力を用いて、各地に、反信長の烽火のろしを準備している。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西にはすでに大和やまと五条の乱があり、続いて生野銀山いくのぎんざんの乱があり、それがようやくしずまったかと思うと、今度は東の筑波山つくばさんの方に新しい時代の来るのを待ち切れないような第三の烽火のろしが揚がった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つなぎ烽火のろしの警報に、寝耳に水のおどろきをうけて、国中、わけても、府館の中心地甲府は、上を下へと、混乱を極めていたその夜——十五日の夜半だった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
約束の烽火のろしにも及ばず、二ヵ所の黒煙は、極楽寺山の味方の本陣からも、早あきらかにて取れたに違いない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに甲府表へは、つなぎ烽火のろしで報らせてある。軽々とうごくべきではない——としているようだった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「殿っ。……まだ、烽火のろしが揚りませぬ。もはや、金沢表への聯絡は、全く望みも絶えたようです」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして内政も軍事も全く怠っていたところへ——つなぎ烽火のろしもなんの前触れもなく、いきなり攻めてきた呉の大軍であった。結果からみれば、実に当然な陥落だったともいえる。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政局の危機とか、公武の違和でも生じると、かならず各地で北条残党の烽火のろしが揚がる。
どかんと、はるか馬場の末のほうで、烽火のろし用の爆音が、夕空にこだました。見れば、西の門旗もんきの下からは、急先鋒索超さくちょう、東門からは、青面獣楊志ようし。各〻さんぜんたるよろいかぶとのいでたち。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「忠次をたすけ、いよいよ敵塁を踏みったときは、直ちに烽火のろしをあげて合図せよ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不死人の画策からいうと、この館の余りに無事なのは本意にもとる。なぜならば、かくては、南海にあって烽火のろしを待っている純友との黙契が、いよいよむなしいものになる公算が大きいからである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、それなどは、些細ささいおどろきに過ぎない。その夜、躑躅つつじヶ崎へはいった飛報には全城みな耳を疑うような震駭しんがいをうけた。信越国境の方面からつなぎ烽火のろしで一刻の間に伝わって来たことである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「山の者。烽火のろしをあげい」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)