点頭うなづ)” の例文
旧字:點頭
「あゝ名古屋ですか。」純吉は口ばやく繰り返して、努めて邪念なさ気に点頭うなづいた。名古屋といふのは勿論みつ子の代名詞なのだ。
(新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そして頭を挙げた時には、蔵海は頻りに手を動かして麓の方の闇を指したり何かして居た。老僧は点頭うなづいて居たが、一語をも発しない。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
点頭うなづきながら叔母にかう答へて英也はさかづきを取つた。畑尾がまた来たのと入り違へに南は榮子を寝かし附けた夏子をれて帰つて行つた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのうちに博士が一歩下って、うんと点頭うなづいた。するとベラン氏が躍りあがった。それから博士の手を両手で握って、強く振った。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
道助は「これは初めて聞いた」と云ふ風に時々彼女の方へ点頭うなづいて見せながら、ぼんやりとそれを聞いてゐた。で最後に彼女が
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
此処ここに一しよに来た』といふと、今度はただ点頭うなづいた。そこに平福・岩波・土屋の三君が入つて来、中村・藤沢の二君も交つて談笑常の如くにした。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこが面白いと私は思つた、それから、その帰着点を子供と母親といふ点に持つて行つたところも女らしくて、いかにも本当であるといふことを点頭うなづかせる。
脱却の工夫 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
根岸の伯母さんは点頭うなづいて、「みん左様さうですよ。妙なもので、お娵に行けば大抵の人は強壮ぢやうぶになりますよ。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と答へたが、私はバルコンを離れての室へくのが残り惜しく思はれた。良人をつとがその事を通じるとギヤルソンは点頭うなづきながらまたわたし等を一階上へ導ひた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
Y君も其間中黙つて、一人嬉しげに点頭うなづいてゐた。余り一座が傾聴したために、S君は少してれて
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
をどりあがるここちして、八八小弟せうていはやくより待ちて今にいたりぬる。ちかひたがはで来り給ふことのうれしさよ。いざ入らせ給へといふめれど、只点頭うなづきて物をもいはである。
人にもさるたぐひはありけりとをかし。鈴虫はふりいでてなく声のうつくしければ、物ねたみされてよはひの短かきなめりと点頭うなづかる。松虫も同じことなれど、じつと伴はねばあやしまるゝぞかし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まづかつたと思つて二三歩戻りかけたが、又独り点頭うなづいて歩き出した。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「ふむ。」と校長も心に点頭うなづくところがあつた。気が付くと、其の時はもう先に聞えてゐた騒擾どよめきの声が鎮まつてゐて、校庭の其処からも此処からもぞろぞろと子供等が駈けて来て交る交る礼をした。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私がさう云ふと、彼の女は寂しく点頭うなづいて
酔狂録 (新字旧仮名) / 吉井勇(著)
遠野は故意わざとお道化どけた風に点頭うなづきつゝ棚から口の短いキュラソウの壺を取り下ろした、そしてそれを道助の洋盃グラスぎながら
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
私は仕方なしに点頭うなづいて居たのでせう。私のうちのある方を背にして、車は南へ南へと行きました。私はそれきりその馬車に乗つた覚えはありません。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「ほんたうに?」と僕が、稍屹ツとなつて念をおすと、Gは、がつくりと首垂うなだれた。そして極くかすかに点頭うなづいた。
センチメンタル・ドライヴ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
眼のうちには明るい涙が浮んでゐた。それで私の方でも手をしつかり握り返して点頭うなづいた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
そしてその父親の死がその若い女に連関してゐるので、それで母親ばかりか、世間の誰でもが、そのことになるといつも全く沈黙して了ふのであると点頭うなづけて来たやうな気がした。
父親 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
ルウヴル宮の大きいのとオペラの図抜けた屋根とが何時いつながら磁石の役をして自分などにも彼処此処かしこここなんの所在と云ふ事が点頭うなづかれるのである。ふらふらと風に散つて居る雲もある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
三六三て我をいづくにも連れゆけといへば、いとうれしげに点頭うなづきをる。
きのふ、岡麓さん、今井邦子さん、築地藤子さん、阪田幸代さんの見えられたとき、『先生。岡先生がおいでになりました』といふと、赤彦君は辛うじてかうべを起して、銘々に点頭うなづいたさうである。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
孝子は笑つて点頭うなづいた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は深く点頭うなづいた。そして下向いて眼をつむつた。彼は、心底から、だらしのない悲愴感に打たれてゐた。——「今日、F村へも行つて、あの家を見て来た……」
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
とお嬢様は口早くちばやに云つた。山崎は目で点頭うなづいて駆けて行つた。平井は其跡を追つて行かうとした拍子に、手にもつたお納戸なんどのとクリイム色のと二本の傘を下におとした。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一体に西洋の女が何故なぜさう毛がすくないかと云ふと、其れは毛を自然に任せず、ひどくいぢめすぎるからである事は云ふ迄もあるまい。こい珈琲カツフエを飲むからだと云ふ人のあるのは点頭うなづき難い事である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
興義点頭うなづきていふ。誰にもあれ一人、二四だん家のたひらの助の殿のみたちまゐりてまうさんは、法師こそ不思議に生き侍れ。君今酒をあざらけ二五なますをつくらしめ給ふ。しばらくえんめて寺に詣でさせ給へ。
「あゝ、さうだね。」と彼は軽く点頭うなづいた。彼が心では、どんなことに没頭してゐるのか? まして文学に思ひを馳せてゐるなんてことは父は少しも知らなかつた。
父を売る子 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
点頭うなづきながら云つて、つと立つて戸口をけて外へ出た、英也も続いて出て行つたらしい、白つぽいなが外套の裾が今目をよぎつたのはその人だらうと鏡子は身をよこたへた儘で思つて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「そりやア、さうだらう。」と彼は、易々と点頭うなづいた。彼は、細君の場合とは別な意味からでも、いろ/\母の嫌な性質を、それはもう幼少の頃から秘かに認めてゐた。
スプリングコート (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
蒲団から出して居る瑞樹みづきの手のてのひらには緋縮緬ひぢりめんのお手玉が二つ載つて居るのです。私が五つこしらへて遣つて置いたのを、花樹はなきに三つ持たせてつたのであらうと私は点頭うなづくと云ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「うむ……まあ——」と滝は、心持顔を赤らめながら勝手に点頭うなづいてゐる。
西瓜喰ふ人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
鏡子が笑声わらひごゑで云つた時、榮子は初めて目をいて母を見て点頭うなづいた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
宮田は、笑つて点頭うなづいた。兄貴が、それ以上気まり悪さうに、白けた。
スプリングコート (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
山崎が云ふとお嬢様は蓮葉らしく点頭うなづいた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
点頭うなづいてゐた。「……そして冬ちやんは、ひとりで行くの?」
黄昏の堤 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
うしろに居た年上の女はかう云つて点頭うなづいた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私は、点頭うなづくやうな、さうでもないやうな顔をしてゐた。
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「立つよ。」と、Nは訝し気に点頭うなづいた。
秋晴れの日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「えゝ——」とお蝶は点頭うなづいたのである。
お蝶の訪れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)