火蓋ひぶた)” の例文
これではいかんと、大正二年に李烈鈞りれつきんが第二革命の火蓋ひぶたを切って、各地に反袁軍が蹶起けっきしたのだが、袁世凱の弾圧でこれも敗れた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
すぐ様、火蓋ひぶたを切ったものか、又は、様子をうかがったものか、瞬間、迷った。ほかの七人も棒立ちになって、一人の中山服を見つめた。
前哨 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
二人の少壮士官しょうそうしかんは、一しょにけだしていった。それを合図あいずのように、シュペー号の主砲六門は、一せいに火蓋ひぶたを切った。
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しばらくすると、急いで操縦された二個の砲は、角面堡かくめんほうに向かって正面から火蓋ひぶたを切った。戦列歩兵や郊外国民兵らの銃火も、砲兵を掩護えんごした。
彼女が初めに一つ火蓋ひぶたを切ってから、ひどくおびえて拳銃けんじゅうを下げ、死人のように青くなって彼を凝視していた、あの時と寸分ちがわぬ姿だった。
二月革命××火蓋ひぶたを切った勤労婦人たちは、十月革命××においてはもっと積極的な役割を演ずるようになっていた。
十月革命と婦人の解放 (新字新仮名) / 野呂栄太郎(著)
しかもあまりに急いで、たまの届くところまで近寄らないうちに火蓋ひぶたを切ったので、鳥はそのまま飛び去ってしまった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで再び銃をとり直し、慎重の上にも慎重に狙ひを定めて火蓋ひぶたを切つた。何しろこの僕が腕にりをかけた一発だ。頭は三たび丘の蔭に落ちたんだ。
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そこで、弁信がお銀様を相手に、かくも弁論の火蓋ひぶたを切り出したものだということが、はっきりと入って来ました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いままでの、意地いじ興味きょうみなど超越ちょうえつして、ある運命うんめいとものすごい殺気さっきをはらみかけた番外ばんがいばん試合じあいは、こうしてまさにその火蓋ひぶたを切られようとしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明治二十四年十二月十八日、代議士田中正造は、第二議会へ始めて「足尾銅山鉱毒加害の儀に付質問書」を提出して、こゝに足尾銅山鉱業停止の火蓋ひぶたを切つた。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
両軍の衝突はまず浪士側から切った火蓋ひぶたで開始された。山の上にも、谷口にも、砲声はわくように起こった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、正勝は腕を組み、唇を噛み締めてじっとうつむいていた。あらしはらめる沈黙だ。いままさに、鉄砲の火蓋ひぶたが切って落とされようとしているような沈黙だった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
フランスの全罷業が大波を打ち上げてようやく鎮まりかかったとき、スペインの動乱が火蓋ひぶたを切った。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そこで井上が先づ舌戰の火蓋ひぶたを切つた。自分が再度まで尋ねるのは、貴殿を非凡の人だと聞き及んで、物事を相談し、場合によつては指南を受けようと思ふからである。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そして本当に両家の不和は、合戦の火蓋ひぶたを切らないことには納まらないところまで迫っていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくてはからず時をうつし日もくれかゝるかへりみち、やがて吾が村へ入らんとする雪の山かげおほかみ物をくらふを見つけ、矢頃やごろにねらひより火蓋ひぶたをきりしにあやまたずうちおとしぬ。
◯そして第二回戦の火蓋ひぶた真先まっさきに切ったものは、例にって長老のエリパズである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
きたるべき戦争においては、世界主義者や平和主義者なども、革命国約議会の先人たちと同じように、民衆の幸福と平和の勝利とのためだと信じながら、銃砲の火蓋ひぶたを切るに違いない……。
こういって、彼は、そのひたいに猟銃の筒先つつさきを押しあてる。そして火蓋ひぶたを切る。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
見ると蒲生勢はりんとしている、其頃の言葉に云う「たたかいを持っている」のである。戦を持っているというのは、何時でも火蓋ひぶたを切って遣りつけて呉れよう、というのである。コレハと思ったに違いない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
航空母艦から飛び出して、敵艦隊の動静をうかがっていた両軍の偵察機隊が、定石通じょうせきどおりぶっつかって行った。真先に火蓋ひぶたを切ったのは、米国軍だった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
防寨ぼうさいは全部火蓋ひぶたを切った。その射撃は猛烈だった。雪崩なだれのような煙は、砲門と兵士らとをおおい隠した。数秒ののち煙が散ると、大砲と兵士らとが再び見えた。
はやくもそれと知った丹羽昌仙にわしょうせんが、望楼ぼうろうのうえから南蛮銃なんばんじゅう筒口つつぐちをそろえて、はげしく火蓋ひぶたを切ってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろ芝居はこれからで、模擬戦は、その陣押しだけで、火蓋ひぶたはちっとも切られている次第ではない——
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
物に慣れている弥太郎は、鳥の影がもう着弾距離に入ったと見ても、まだ容易に火蓋ひぶたを切らなかった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かくてはからず時をうつし日もくれかゝるかへりみち、やがて吾が村へ入らんとする雪の山かげおほかみ物をくらふを見つけ、矢頃やごろにねらひより火蓋ひぶたをきりしにあやまたずうちおとしぬ。
と同時に火蓋ひぶたが切られ白煙りがパッと立ち上がり木精こだまが四方から返って来た。
女たちは人道の段の上に残って叫び出した。——かくて、貴族的な小中流人のオリヴィエは、だれよりも戦いをもっとも好んでいなかったにもかかわらず、戦いの火蓋ひぶたを切ったのだった……。
せせら笑っていると、ふいに、いえのなかから轟然ごうぜんたる爆音とともに、火蓋ひぶたを切った種子島たねがしまのねらいち。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海岸の高射砲は一せいに火蓋ひぶたをきった。その煙の間を縫うようにして、見る見る敵機は市街の上……。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長く沈黙を守っていた防寨ぼうさいは、おどり立って火蓋ひぶたを切った。七、八回の一斉射撃いっせいしゃげきは、一種の憤激と喜悦とをもって相次いで行なわれた。街路は濃い硝煙しょうえんに満たされた。
林の茂みにねらいをつけていた金蔵は、このときかっとしてあわや火蓋ひぶたを切ろうとしたのを、あわてて、傍に見ていた鍛冶倉かじくらが押えたのは、時機まだ早しと見たのであろう。
暴風は荒れ出し、石は雨と降り、小銃は火蓋ひぶたを切った。多くの者は河岸の下に飛びおり、セーヌ川の小さな支流を渡った。その小川は今日では埋まってしまっている。
「いいえ、名誉です、十津川の一戦は勤王の火蓋ひぶたでした、あなたがその名誉ある一戦に加わって、犠牲の負傷を残されたということは、大きなるほまれでなくて何でしょう」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
国民の富豪に対する怨恨うらみがようやくに熟していたから火蓋ひぶたが切られたのじゃ。
土方歳三が、ついに火蓋ひぶたを切って