こまやか)” の例文
我は常に宮がなさけこまやかならざるを疑へり。あだかも好しこの理不尽ぞ彼が愛の力を試むるに足るなる。善し善し、盤根錯節ばんこんさくせつはずんば。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
土地の売買勝手次第又各国巡回中、待遇の最もこまやかなるは和蘭オランダの右にいずるものはない。是れは三百年来特別の関係でうなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其夜の夢に逢瀬おうせ平常いつもより嬉しく、胸ありケの口説くぜつこまやかに、恋しらざりし珠運を煩悩ぼんのう深水ふかみへ導きし笑窪えくぼ憎しと云えば、可愛かわゆがられて喜ぶは浅し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
顔は體程周三の心をうごかさなかツたが、それでも普通ふつうのモデルを見るやうなことは無かツた。第一血色けつしよくいのと理合きめこまやかなのとが、目に付いた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
腭のやうにふくらかにくびれた水蜜を手のひらにそうつとつつむやうに唇にあててそのこまやかなはだをとほしてもれだす甘い匂をかぎながらまた新な涙を流した。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
とこなたは敷居越しきいごしに腰をかけて、此処ここからも空に連なる、海の色より、よりこまやかかすみを吸った。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こまやかに刻んだ七子ななこ無惨むざんつぶれてしまった。鎖だけはたしかである。ぐるぐると両蓋りょうぶたふちを巻いて、黄金こがねの光を五分ごぶごとに曲折する真中に、柘榴珠ざくろだまが、へしゃげた蓋のまなこのごとく乗っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日に増しその範囲がひろくなるにつれてその色もまたこまやかに染められて行く。
冬日の窓 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その恋のいよいよ急に、いよいよこまやかになりまされる時、人の最も憎める競争者の為に、しかもたやすく宮を奪はれし貫一が心は如何いかなりけん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
例えば死者を祭るに供物を捧ぐるは生者の情なれども、其情如何にこまやかなるも亡き人をして飲食せしむることは叶わず。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其の狹い區域にも霧の色がこまやかに見える……由三は死滅の境にでも踏込むだやうな感がして、ブラ下げてゐた肖像畫を隅ツこの方にほふり出した。そして洋燈をともした。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
日に増し其範囲がひろくなるにつれて其色も亦こまやかに染められて行く。
冬日の窓 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
行暮ゆきくれて一夜ひとよ宿やどうれしさや、あはかしさへたまて、天井てんじやうすゝりうごとく、破衾やれぶすま鳳凰ほうわうつばさなるべし。ゆめめて絳欄碧軒かうらんへきけんなし。芭蕉ばせをほねいはほごとく、朝霜あさしもけるいけおもに、鴛鴦ゑんあうねむりこまやかなるのみ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは自分の僻見ひがみで、あの人に限つてはそんな心は微塵みじんも無いのだ。その点は自分もく知つてゐる。けれども情がこまやかでないのは事実だ、冷淡なのは事実だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
の政治家が国事を料理するも、実業家が商売工業を働くも、国民が報国の念に富み、家族が団欒だんらんの情にこまやかなるも、その大本たいほんたずねればおのずから由来する所が分る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其遠慮なきは即ち親愛の情のこまやかなるが故なり。其愛情は不言の間に存して天下の親子皆然らざるはなし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ドウも榎本えのもとは大変な騒ぎをした男であるが、命だけは取らぬようにした方が得じゃないか、何しろこの写真を進上するから御覧ごらんなさいと云て、こまやかに話したこともある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
天下の男子は陽性なるが故に、陽は昼にして明なり、万事万端に通じて内外の執務に適し、殊に人倫の道に明にして品行最も正しく、内君に対して交情最もこまやかなりと言うか。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)