こぼ)” の例文
「お嬢さんのお詞によって、注いであげるから、こぼしちゃいけないよ、一滴でもおあしだ、それも、みんな、私の汗とあぶらが入ってるのだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ふととどろいたお政の声に、怖気おじけの附いた文三ゆえ、吃驚びっくりして首をげてみて、安心した※お勢が誤まッて茶をひざこぼしたので有ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ハラハラとこぼして更にお浦の死骸にしがみ附き「誰に此の様な目に遭わされました、浦子さん、浦子さん、此のかたきは必ず高輪田長三が打ちますから」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「誰が、彼處あすこ彼様あんないとをかけたのだらう。」と周三は考へた。途端とたんに日はパツとかゞやいて、無花果の葉は緑のしづくこぼるかと思はれるばかり、鮮麗にきらめく。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
額からぽたぽたこぼれる血をぬぐい「覚えてなはれ」と捨台辞すてぜりふを残して憤然ふんぜんと座を立ちそれきり姿を見せなかった
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また子供こども咽喉のどるのでくちかせたりするときに、子供こども泣叫なきさけび、ちひさい突張つツぱつたりすると、かれ其聲そのこゑみゝがガンとしてしまつて、まはつてなみだこぼれる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
先生の同情ある御恩は決して一生っても忘るることでなく、今もそのお心を思うと、涙がこぼるるのです。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
朝露しとしととこぼるる桑畑の茂り、次ぎな菜畑、大根畑、新たに青み加わるさやさやしさ、一列に黄ばんだ稲の広やかな田畝たんぼや、少し色づいた遠山の秋の色、ふもとの村里には朝煙薄青く
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
笑みこぼれさうな白い顏、下げ髮にした黒い頭、青や赤の着物の色どり、前こゞみになつて、客を迎へてゐる姿が、お文の初めてこの人形を見た幾十年の昔と少しも變つてゐないと思はれた。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
指さされたあたりを見ると、土の上に少し血がこぼれてゐるらしく、穴は一尺ほど土藏の土臺下を掘つたものですが、その直ぐ傍に、くははふり出してあるのも、昨夜の名殘りらしくて無氣味です。
さて太夫はなみなみ水を盛りたるコップを左手ゆんでりて、右手めてには黄白こうはく二面の扇子を開き、やと声けて交互いれちがいに投げ上ぐれば、露を争う蝶一双ひとつ、縦横上下にいつ、逐われつ、しずくこぼさず翼もやすめず
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
府庁の門口かどぐちには李幕事夫婦をはじめ李将仕などが来て待っていた。許宣は涙をこぼしてその人びとに別れの詞をかわして出発した。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
また子供こども咽喉のどるのでくちかせたりするときに、子供こども泣叫なきさけび、ちいさい突張つッぱったりすると、かれはそのこえみみがガンとしてしまって、まわってなみだこぼれる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ト何処かの隠居が、菊細工を観ながら愚痴をこぼしたと思食おぼしめせ。(看官)何だ、つまらない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
笑みこぼれさうな白い顔、下げ髪にした黒い頭、青や赤の着物の色どり、前こゞみになつて、客を迎へてゐる姿が、お文の初めてこの人形を見た幾十年の昔と少しも変つてゐないと思はれた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
祖父ぢゝが死んだといふ悲むべき報知を聞いても、更に涙一つこぼさうでもなく
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「一滴でも油をこぼしたら、これだぞ」と云って、長者は傍に置いてある赤樫あかがしつえって見せました。長者はそのあかりで酒を飲んでおりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
きもしない。「早くお拭きなね」と母親はしかッた。「膝の上へ茶をこぼして、ぽかんと見てえる奴が有るもんか。三歳児みつごじゃア有るまいし、意久地の無いにも方図ほうずが有ッたもンだ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
食物は定まった物はなく、平生は果実を喫っていたが、犬を非常ににくんで、それを見ると一滴の血もこぼさないように喫った、うまの時を過ぎて他山ほかのやまへ飛び往き、晩になって帰ってきたが
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
許宣は涙をこぼしてその人びとに別れの詞をかわして出発した。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)